三章 塔が持つ意思編
第32話
波乱に満ちた大塔礼会議から14日、ルシア達が地獄の訓練をしている頃、セカンドとピリンキは朝早くから攻略者ギルドへと足を運んでいた。
「ったく、随分出発に時間がかかっちまったな」
「仕方ありませんよ。この国の伝統的な儀礼と重なってしまったのですから。確か……大塔礼会議みたいな名称でしたね」
大塔礼会議から暫くの間は塔への出入りを完全に制限されてしまい、セカンド達は数日の間暇を持て余していた。
しかし今日になって突然制限を解除され、セカンド達は急ぎ塔へと駆け出した。
「さぁな、名称なんて忘れちまったぜ。あれは……おーいサリナ、元気だったか?」
攻略ギルドの受付に、この間知り合ったばかりの泣き虫サッちゃんことサリナが、
「うーん、誰ですかー? こんな朝早くに……はっ! イ、インチキ太郎さん! ど、どうしてここに!」
「いやいや、どうしたもこうしたも塔に行くに決まってんだろ。ほれほれ、ササっと許可してくれ」
セカンドがこの間発行して貰ったばかりのギルドカードをサリナへ優しく投げつけた。
「はわわわ。も、もう! 投げないで下さいよ! 塔への入塔許可ですね……はい、これで完了です。気を付けて下さいね! あ、あと一応どの位で帰って来る予定かを聞かないといけなんですよね。規則で決まっているので……」
こうやって送り出した攻略者が帰って来なかった事を何回も経験しているのか、サリナの目には不安の色が浮かんでいた。
しかし、サリナのそんな心配をよそにセカンドは軽く右手の人差し指を天井に向けた。
「ちょっと天辺までな」
それだけ言うと、セカンドは振り返る事無く塔の中へと歩き出した。
「も、もう! ちゃんと帰って来てくださいよー!」
サリナの声を背中で聞きながら、セカンドは以前と変わらない一層の草原エリアへと足を踏み入れた。
「本当にここが塔の中なのか、今だに信じられないな」
「同感です。ですが今は感傷に浸ってる時間はありません。さっそく跳びましょう」
今までセカンドの服に隠れていたピリンキが姿を現しながら急かし出す。
「焦るな焦るな。今準備するからよ」
セカンドが背負ってるバッグからワープ装置が入っているカプセルを取り出し、地面へと投げる。
「前回は十五層まででしたね」
「ああ、あの犬っころと戦った部屋にポインターを置いてあるよ。ついでに回収しないとな」
セカンドが持っているワープ装置は、専用のポインターを経由して転移する、少し古い世代のワープ装置なので、何処でも好きな場所に飛ぶと言う芸当は出来ない様だ。
「……起動完了っと。さあ、行こうぜピリンキ」
少ししてワープホールの生成を終えて、一人と一匹は黒い穴へと身を投げ入れた。
数秒もしない内に開けた視界の先は、この間エンペラーガルムと戦ったあの白い空間の部屋では無く、少し古風な民家のリビングだった。
「……セカンド、ここは何処ですか?」
「ピリンキさん……俺が聞きたいです」
とても簡素なその部屋は、最低限の家具しか見当たらない。
「────おやおや、お客様とは珍しい」
突然鳴り響いた、よく通る男性の声にセカンド達が振り向くと、備え付けられていた階段から、薄い水色の髪をした長身の男性と少女がゆっくりと降りて来るところだった。
「……お猿さん。アドミン……お猿さんいた……」
ぼーっとしていた少女が、ピリンキを見た途端に目を輝かせると、勢いよくピリンキを抱きしめた。
「これはこれは、私の連れが申し訳無い。ナビア、無理矢理はいけないよ」
「……いやっ。お猿さんはもう私の……」
いきなり言い争う二人に呆然と立ち尽くしていたセカンドだったが、何とか言葉を捻り出して二人に話しかけた。
「あー、ちょっといいか? いきなりよそ様の家にお邪魔したのは申し訳無いが、ここは塔の中だよな?」
『離しなさい』と『嫌!』を繰り返していた二人がセカンドの声に反応すると、言い争うのをやめてセカンドの方を見た。
「はい、安心して下さい。勿論、塔の中ですよ。っと、その前に自己紹介といきましょう。私はアドミニストレーター。長いのでアドミンとお呼び下さい」
「……ナビア。こっちはペットのモンタピレーテ」
ナビアがピリンキを高々と上げて自己主張して来る。
「ご丁寧に悪いな。俺はセカンドだ。それでそっちの──」
「モンタピレーテでは無く、私はピリンキですよ。Ms.ナビア」
突然喋り出したピリンキに、ナビアが目を丸くして驚いた。
そして更に強く抱きしめた。
「……アドミン! 遂に私は夢を叶えた!」
「はいはい、少し落ち着きなさい。すいませんね、この子は昔から動物と会話するのが夢だったものですから」
ぐったりしたピリンキを抱えてクルクルと回るナビアを見て、セカンドが楽しそうに笑う。
「ハハッ、ピリンキをそこまで疲れさせたのはナビア嬢が初めてかもな。それよりここは何処なんだ? 俺達は、確かに十五層に跳んだはずなんだが」
アドミニストレータは、セカンドの質問にはすぐには答えず、虚空に手を伸ばすと何処からか紅茶が入ったポットとカップを取り出した。
「とりあえず、座ってお話しましょうか」
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