第29話 ★


「偉大なるアレクシアの民よ……。王国の古き血を継ぐ者達よ……。これより盟約に従い、年に一の大祭……大塔礼会議を開始する。陛下……御入来!」


 タリバクライネ審問官が声を拡大する魔道具を手に高らかにそう宣言する。


 すると、最上階にあったもう一つの大扉から美形の二人の男女の護衛に先導されて、この国の第十六代目国王フォルダレン・A・サザーランドが畏怖堂々と闊歩して来るのであった。

 

 「……我が臣民よ。偉大なるアレクシアの子等よ。今日と言う日に……盟約が今年も無事に果たされた事に感謝する」


 国王はそう言い終わると、初代国王の絵画に深く礼をとった。

 そして審問の間にいる数百人全員が立ち上がり、同じく礼に習った。

 

 そして王が礼を辞め、国王専用の席に座ると再度タリバクライネ議長が会議の進行を開始した。


 「国歌斉唱!────」


 再度全員が立ち上がると、国歌を力強く歌っていった。


 そもそも大塔礼会議とは、初代国王が王国やそれに連なる領地についての話し合いをその領地の領主達少数と一同に会して始めたのが始まりだった。


 しかし、何時しか規模はここ迄に膨れ上がった。

 それを鑑みた当代の王達は、この集まりを無駄にしない様にと様々な試みを施策する様になった。

 過去には国の行く末を左右する騒動も何度も起こっていた。


 「さて、今年は鬼が出るか蛇がでるか……。サーガよ、貴様はどう思う? 」


 「はい殿下、まず間違い無く税の事は議題に挙がるでしょうね。後は……あるとしたら王太子の選定くらいでしょうか」


 『王太子か……』と呟いたカルバレンが最上階に座っている自分の父である国王を見ると、豪華な服で隠してはいるが身体は痩せ衰え、頬は少し痩けている様だった。

 

 「次に! 臣下であるにも関わらず、王国の法を破りし不届者の審判に移る! ワール男爵……前へ!」


 タリバクライネ議長が怒りに声を震わせて叫ぶと、一人の気弱そうな男が顔を真っ青にさせてゆっくりと歩き出した。


 数百人の視線を一身に浴びたワール男爵が中央に設置されてある証言台に立つと、タリバクライネ議長が重々しく罪状を読み上げた。


 「ワール・ダメージャン……被告は三日前の午前八時頃に王都に来る前に立ち寄ったアモールカの街で、まだ物心付かぬ男児とその母親を馬車で轢き殺したとの報告が上がっている! 何か申し開きはあるか!?」

 

 罪状を読み上げられたワール男爵は、わなわなと唇を震わせながらも何とか弁明を開始した。


 「あ、あれは……じ、事故で……。ま、まさか死んでるなんて……」


 「そうか事故か……。ならば……」


 急に笑顔を見せたタリバクライネ議長に活路を見出したワール男爵が饒舌に語り出した。


 「えぇ、ええ! そうなんです! あれは事故だったん──「黙れ! 愚か者が!」」


 タリバクライネ議長が怒りと共に膨大な魔力を解き放つと、放たれた魔力が巨大な天秤を形作った。


 「報告によると……馬車の前で病に倒れた母とそれに寄り添った男児を御者に命令して踏みつけながら進んだそうだな! ワール男爵……もはや弁明はいらぬ。後は天秤の傾くままに……【絶対公正の罪天秤オモイカネ!】」


 議長が発動した超級魔法【絶対公正の罪天秤オモイカネ】が"悪"と描かれた秤を下に最大限に傾いた。


 「審は決した……。諸君等に問う……この者に王国の臣たる資格はあるか?」


 「「「否!」」」

 

 議長の問いに審問の間にいる全員が同時に答えた。


 「ならば問う……この者に神が創りしこの大地に住まう資格はあるか!」


 「「「否!!!」」」


 数百人の怒号が審問の間を震わせる。

 

 「私……タリバクライネ最高審問官がワール・ダメージャン被告人に判決を言い渡す。王国の善行な民を無慈悲に扱った罪により被告人……死罪!」


 議長が判決を言い渡すと同時に天秤が動き出し、"善"と描かれた方のはかりにワール男爵の身体が吸い込まれ始めた。


 「い、嫌だ! 私は……俺はまだ死にたく……た、助け────」


 ワール男爵の最後の言葉が審問の間に響くが誰一人として手を差し伸べる者はいなかった。

 そして完全にワール男爵の身体が飲み込まれると天秤は均衡を取り戻し、満足したかの様に天秤は消え去った。


 「クククッ、貧民を殺して死罪とはな……。ワール男爵もついてない男よ。今日という日で無ければ、死罪と迄はいかなかっただろうに」


 「ええ。可哀想な事に見せ締めに選ばれたのでしょう。大塔礼会議で死者が出たのは数年振りです。もしかしたら今年は荒れるやも知れません」


 しかしサーガの予想とは裏腹に大塔礼会議自体は穏やかに進行して行った。

 

 税のくだりで少し騒つく者達もいたが、官僚が用意していた当たり障りのないスピーチ原稿をカルバレンが堂々と読み上げると、騒ついていた者も王国法には何も反していない事をまざまざと理解させられて黙り込んだ。


 「ふぅ、これで肩の荷が降りた。サーガよ、今日の酒はさぞ美味いだろうな」


 「ご苦労様です。今年は平和に終わりそうで何よりです。戦時中の大塔礼会議は地獄そのものでしたから」


 サーガとカルバレンが穏やかに談笑を続けている間に会議も終盤を迎え、残すは王の閉会の挨拶だけとなった。


 「最後に陛下からお言葉を頂き、本年の大塔礼会議の動議の全てを終了する。陛下……お願い致します」


 タリバクライネ議長に促されたフォルダレン王が声を拡大する魔道具を手に取り立ち上がると、ゆっくりと話出した。


 「あー、正午までにはまだ時間があるな。皆の者……申し訳ないが最後にもう一つだけ決めねばならぬ事がある。第一王子カルバレン、そして第二王子アルスニクス……前へ」


 急に名前を呼ばれたカルバレンは動揺を隠しつつ、サーガと顔を見合わせた後に中央へと堂々と歩き出した。

 

 同じく、近くに座っていた第二王子のアルスニクスも兄に負けぬ様に勇猛果敢に闊歩して行った。


 「第一王子カルバレン・バラ・サザーランド……ここに」

 

 「同じく第二王子アルスニクス・リラ・サザーランド……まかり越しました」


 先程ワール男爵がいた証言台の所まで来た二人が、王に膝を着きながらそう言った。


 「二人共……頭を上げろ。そして皆の者よく聞け……。余の身体は病に蝕まれておる……。もう長くは無いだろう。故に、本日は次代の王……王太子を決めようと思う」


 王が病にかかっている事を告白すると少し騒ついたが、すぐに落ち着きを取り戻すと次に王が何を語るのかを皆が見守った。


 「うむ……。では心して聞け。時期王は第二───」


 王が時期王の名前を読み上げようとした瞬間、一階にある審問の間の巨大な扉が勢いよく開かれた。


 開いた扉の先には、腰に初代国王の剣を帯剣したこの国の第三王女ルシア・サザーランドとその仲間の姿があった。


 「父よ! その話……私も混ぜて頂きたい!」

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