第26話 ★


 辛くも暗殺者の魔の手から逃げ延びたルシア達は、息も絶え絶えになりながら何とかホームへと帰ってくる事が出来た。


 「……ソフィア、みんなを回復してやってくれ」

 「……うん」


 ソフィアの中級回復術式【姫羽白の水浴び】が四人の傷を癒していき、気を失っていたフォスカも目を覚ました。


 「うーん……。ここはどこ……? はっ!? て、敵は!」


 「大丈夫よフォスカちゃん。ここは私達のお家よ、敵はもういないわ」


 少し細くなったが、再び生えて来た手足の調子を確かめながらヴォルヴァリーノが静かにそう言った。


 「少し休みたいところだが、色々状況を整理しなければな。とりあえずヴォル……その手足の事について説明してくれ」


 ルシアの指摘に、初めてその事に気付いたソフィアとフォスカが驚愕の顔を浮かべた。


 「ほ、本当だ!」


 「あ、あり得ないわよ! ヴォル、あんたトカゲの血でも入ってんの!」


 「ち、違うわよ! アンデルよ! さっき行った店の店主が帰り際に紙と一緒に、変な薬をくれたのよ」


 ヴォルヴァリーノも最初は信じていなかったが、絶対絶命のあの場面で飲まない選択肢は無かったと、更に説明を続けた。


 「変な副作用等が無いといいがな……。とりあえずは良しとしておこう……納得はしてないがな。次はあの襲撃者達の事だな……。先に言うが、私はもうお前達には謝らんぞ。だが礼は言わせて貰う……ありがとう」


 深々と頭を下げるルシアに、三人は顔を見合わせて笑い出した。


 「ふふっ、そんなに頭を下げたら謝ってるのと同じじゃ無いの」


 「確かにいくらでも迷惑を掛けてもいいと言いましたけど、程々でお願いねルシアちゃん。……ふふっ」


 ソフィアの弱々しい返事にルシアまで笑い出した。


 「ああ善処するよ、ソフィア。さて、話を戻そう。あの襲撃者達は恐らく……【輪廻】の構成員だと思う」


 【輪廻】と聞いた三人の目に恐怖の色が浮かび出した。


 「【輪廻】……って、嘘でしょう……」


 「この王都に巣食う闇ギルドの人達も恐れる、あの暗殺者集団だよね?」


 「ええ、狙われたら最後……対象を殺すか、あちらが全滅するまで諦めないそうよ。私達……よく生き残れたわね」


 先程とは打って変わって暗い雰囲気になってしまった四人だが、心までは折れてはいない様だった。


 「落ち込んでる暇は無いわ。行動を起こさない限り、私達には死ぬ未来しか無い事が今日分かった。だから最後に確認したい……。例え死するとも、貴様等は私と共に最後まで来てくれるのか?」


 一時も目を離さずに堂々と語り掛けてくるルシアの姿に、三人は未来の王の姿を重ね見た。

 そして三人も同じくルシアの目を正面から見つめ、一度深く頷いた。

 そこに言葉は必要無かった。


 「……ありがとう。では、これからについてだが……丁度明日は風の月の十八日だ。たしか年に一度の大塔礼会議がある日のはずだ」


 「大塔礼会議って、この国のお偉いさんが皆んな集まってなんかするやつよね?」

 

 「そうそう。私の憧れの【天聖女】様がいらっしゃるんだよー! あーあ、一度でいいから会いたいなぁ」

 

 「【超越者】の一人……ビスマルク様も来るのよねぇ……。ああ……あの筋肉には惚れ惚れするわぁ」


 各々が有名人に思いを馳せている所をルシアが一喝する。


 「こ、こほん! それでだ、明日私達はその大塔礼会議に乱入し、そこで王位継承権の復活を宣言する」


 ルシアの爆弾発言に、『今日死んでた方が楽だったかもしれない』と思うフォスカとヴォルヴァリーノだった。

 ソフィアに至っては耳を塞いで知らんぷりしている。


 「だけど、いきなりやっぱり王様になりたいなんて言って、『よし、分かった』なんて言われるかしら? ルシア、流石に無茶がすぎるんじゃないの」


 フォスカの当たり前の疑問に他の二人もコクコクと頷いていたが、ルシアは我に策ありとばかりに胸を張っている。


 「ふっ、安心しろ。この国の法律には【十賢人】の内、五人の推薦があれば見事王位継承権を復活できるという、素晴らしい制度があるのだ。この初代様の宝剣に選ばれた事を信じて貰えれば……きっと……」


 最後の方は消え入りそうな声量になっていくルシアに不安を覚える三人だったが、既に残された時間も手段も無いと覚悟を決めた。


 「本当に、ルシアちゃんもなんだかんだ脳筋だよね。付き合わされるこっちの身にもなってよ」

 

 「まぁまぁソフィア、今更じゃないか。それよりも【十賢人】の老人達が首を縦に振ってくれるかが心配よ」

 

 「そうよね。彼等がこの国の政治を掌握していたのは、今は昔の話。今じゃすっかり王族のてのひらの上なのはこの国の情勢を見れば丸分かりよ」


 数年前、魔族との戦争が始まる前のツェン・ペェーラ王国は元老院に身を置く【十賢人】と大勢の議員による公正な政治により、ここ数十年安定的な統治を実現たらしめてきた。


 しかし、魔族との緊張が高まり、すぐにでも戦争を始めんとした王族が強権を発動し、元老院の承認無く法律を改変し始めた。

 

 結果、税は高くなり治安は悪化し、有望な人材は他国に流れ、挙句の果てには数年続いた戦争から得られた物は無しという最低な結果になってしまった。


 「ヴォルの心配はもっともだ。……私が思うにこの国は今が正念場なのだ。だからこそあの老人達が……この国を一番に考え続けて来た【十賢人】がこのままで終わるとは思えん。私はそこにこそ活路があると信じている」


 それからルシア達は更に話を煮詰め、明日に備えて万全の準備を完了させた。

 そして日が沈むと、各々は眠れない夜をすごしたが、無情にも太陽は登り出そうとしていた。


 翌朝、激しい魔法の花火の音と共に、大塔礼会議の開催が全国民に告知された。

 

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