第24話
「おう! いきなり何をするんでヤスか!」
スキンヘッドとドレッドヘアーの
「大丈夫っすか!? ハチベェ! しっかりするっす!」
サブは倒れ伏すハチベェに必死に声をかけるが、ハチベェからの応答はなさそうだった。
見た感じ、三馬鹿から仕掛けた訳では無く相手から一方的に手を出されたみたいだ。
「うるせぇ! テメェらたしか手足を失ってピーピー泣いて田舎に帰った奴等だな?」
「ああ、間違いねぇ。それが何でトカゲの尻尾みたいに生えてきてやがんだ? ああ?」
何故か切れ散らかしている二人組がヤスとサブに詰め寄って行く。
両者のガタイの差は歴然で殴り合えば確実に相手側に軍配が上がるだろう。
「親切な旅人に回復薬を貰ったんでヤスよ!」
「そうっす! それがお前等に何の関係があるっすか!」
サブがそう言い終わった瞬間、相手側のスキンヘッドの男がサブの顔面を思いっ切りぶん殴った。
「嘘をつくんじゃねぇ! テメェ等みたいなゴミに、そんな売れば一生遊んで暮らせるだけの高位な回復薬をくれてやる馬鹿はいねぇんだよ! ああ!?」
「ほら、正直になれよ。盗んだんだろ? 最近、俺達の大事な回復薬が無くなってなぁ……。いやはや、犯人が見つかってよかったぜ」
セカンドは『ああ、そう言う事か……』と、何であの馬鹿共が喧嘩を売られたのかを理解した。
周りのギャラリー達もヒソヒソと何やら話し合っているが、誰も止める者はいないみたいだった。
「はわわわわ! また【乱獲】の二人が暴れてるデスゥ! ど、どうしたら……はわわわわ……」
いつの間にか再起動したサッちゃんがオロオロしながら慌てふためいていた。
「おい、あの二人はいつもああなのか?」
「はっ! インチキ太郎さん! そ、そうなんですよ! いくら私達職員が注意しても、一向に大人しくしてくれないんですぅ!」
なら早く除名でも何でもしろよと思ったセカンドだったが、すぐにそう出来ないだけの理由があるんだろうなと思い直した。
「職員の偉い人でもダメなのか?」
「ギルド長がいれば大人しくなるんですが……。今は出張に行ってるんですぅ」
サッちゃんとそんな会話をしてる間に、遂にヤスまでノックアウトされてしまっていた。
「いいか! 三日毎に銀貨十枚持って来い! 逃げるんじゃねぇぞ!」
「おいおい、逃げてもいいじゃねぇか。まぁ、次は手足じゃすまないけどな」
そう高笑いする二人に、セカンドはゆっくりと近づいて行った。
「悪いな、こいつらに回復薬をあげたのは俺なんだよ。それくらいで勘弁してやってくれないか?」
急に現れたセカンドに少し驚いた二人だったが、セカンドのダサい格好を見てより一層高笑いをあげた。
「ぶはっ、ぶはははは! なんだお前、ファッション界の異端児か! ぶははは!」
「アハハ! 異端児は止めろやグロウ! ハハハハ! それにしてもこんなダセェ奴も珍しいな!」
しかし、自分のセンスに絶対の自信を持ってるセカンドにはどこ吹く風だった。
「ふっ、お前等にはこのセンスの良さは分かるまい。それで、こいつ等は見逃してくれるのか? 言っとくが、こいつらに三日で銀貨十枚も稼ぐ器量はないぞ」
どこまでも動じないセカンドに段々と苛立ってきた二人がセカンドに殴り掛かった。
「なら、テメェが持って来いや! クソダサ野郎!」
「ガキの使いじゃねぇんだ! 言葉で許して貰える訳無ねぇだろうが!」
痛恨のボディブローとハイキックを貰ったセカンドは、サッちゃんがいる机まで派手に吹っ飛んだ。
「イ、インチキ太郎さん! はわわわわ! ちょ、ちょっと! この方は今日登録したばかりの新人さんなんですよ! も、もう少し優しく……な、なんでも無いですぅ……」
最初の勢いは何処へやら、【乱獲】の二人に睨まれたサッちゃんはすぐに何も言えなくなってしまった。
「ぶははは! おい、聞いたかロイ! インチキ太郎だとよ! 見た目にピッタリな名前じゃねぇか!」
「ハハハハハ! だから止めろやグロウ。これ以上笑わせんじゃねぇよ。腹がいてぇ。それにしても、そんな名前を付けた親の顔が見てみてぇ……え?」
グロウがセカンドの親を馬鹿にした瞬間、ギルド内の温度がグンと下がった様な感覚がその場にいる全員を襲った。
そして【乱獲】の二人の足が、ガクガクと震え始めた。
二人はそれが恐怖から来る物だと瞬時に理解したが、それが誰から発せられているかまだ分かってはいなかった。
「おい……。今、俺の親を馬鹿にしたのかか……?」
ゆっくりと立ち上がったセカンドの右目が妖しい赤に染まり、セカンドから溢れ出た殺意がギルドにいる全員を威圧して行く。
野次馬の中にはセカンドの圧に耐えられず、倒れる者や過呼吸を起こす者まで出始めた。
【乱獲】の二人も膝を床につき、ゼェゼェと肩で息をしている。
「ダ、ダメですぅ! インチキ太郎さん! 落ち着いて下さいー!」
今まさに【乱獲】の二人の命を狩ろうとしたセカンドを止めたのは、全身をガタガタと震わせながらも全身全力でセカンドの腰に抱き付いたサッちゃんだった。
「すまない……。サリナ、もう大丈夫だ」
セカンドは、勇気を出してセカンドを止めてくれたこの残念職員に敬意を払い、ちゃんと名前で呼んであげる事にしたようだ。
「て、てめぇ……。な、何者だ……」
「ク、クソがぁ……。醜態を晒させやがって……」
セカンドが威圧を解いた事により、膝をついていた二人も調子を取り戻そうとしていたが、セカンドは再度二人だけに圧を向けると、二人の耳元に近づいて囁いた。
「……次は無い」
その言葉にコクコクと頷いた二人は大急ぎでギルドから出て行ってしまった。
それに合わせて野次馬も散り散りになり、いつものギルドの調子に戻っていった。
「あのぅ……。インチキ太郎様、こちら、魔石の買取金になります。あと失礼ですが、今日の所はお引き取り頂いても宜しいでしょうか? 貴方、さっきの件で注目を浴びていますよ……」
何処かに隠れていたサリナの上司が、ワイバーンの買取金を持って来たかと思うと不躾にそう言った。
上司職員がセカンドに目線で合図を送った先を見ると、セカンドを見ているたくさんの攻略者達の目があった。
「ピエール課長! インチキ太郎さんに失礼ですぅ! 本来なら私達が仲裁しないといけないんですよ! インチキ太郎さん、好きなだけいていいですからね!」
「サリナ、いいんだ。世話になったな」
プンプンと上司に噛み付くサリナの頭を軽く撫でたあと、セカンドは金を受け取ると気を失っている三馬鹿を担いでギルドを出た。
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