第23話


 まだ朝早くと言う事もあってか、この前の様な騒がしい感じは無く、まだ歳若い少年少女の攻略者パーティが簡単そうなクエストを探しているだけの様だった。


 「アニキ、アニキ、何をボーッとしてるんでヤスか」


 「早くしないと混んでくるっすよ」


 「もしかしてどこか身体の調子が悪いのですか? なら私が代わりに……」


 「ああ、大丈夫だハチベェ。えーと、職員は……あそこか」


 三馬鹿に促されたセカンドは、唯一暇そうにしていそうな、長い黒髪を三つ編みにして眼鏡を掛けている職員の所へ声を掛けに行った。


 「すまない、少しいいか? 登録をしに来たんだが、ここで合ってるか?」

 

 「は、はいぃ! あ、合ってますぅ! 少しお待ち……あわわわわ」


 少しおっちょっこちょいなのか、三つ編みに眼鏡の職員が何やら書類を取り出そうとして床に大量にばら撒いてしまった。

 セカンドはやれやれと思いながらも一緒になって書類を拾ってやった。


 「ほら、これで全部だ。それでこの紙に記入すればいいのか?」

 

 しかし、この三つ編み眼鏡職員はセカンドの話を聞いていないのか、急に泣き出してしまった。


 「うわーん! またやっちゃったー! どうしてこうドジなのよー! うえーん!」


 そんな三つ編み眼鏡職員の姿を見て、周りの攻略者や同僚の職員達が『泣き虫サッちゃんが出たぞ』と噂していた。

 しかし初対面のセカンドには最早、情緒不安定な面倒な人としか思えなかった。


 「まず落ち着け。ほら、この飴を舐めろ。そしてお前の仕事を思い出すんだ。ほーらお前は仕事をしたくなーる」


 セカンドがそう暗示を掛けるが、この泣き虫サッちゃんには効果が無いみたいだ。


 「私なんて……私なんて! あっ、この飴美味しい……じゃ無くて! 聞いて下さいよ! 私はもう三年目になるんですけどね────」


 そらからは小一時間サッちゃんの苦労話に付き合わされたセカンドだったが、なんとか怒る事なく辛抱強く我慢した。

 ピリンキがここにいたら手放して褒めてくれただろう。


 「よーく分かった。お前は頑張ってる。お前は駄目なんかじゃない。さぁ、まずは俺の登録から再出発だ。ほら、今度はばら撒くなよ」


 「うぅ……。なんか誤魔化された気がしますが……。これ以上は課長に怒られちゃいますからね。ではこの紙の記入欄に書けるとこだけでよろしいので書いて下さい」


 ここまで来るのにだいぶ掛かったなとしみじみ思うセカンドだったが、すぐに書類に目を落として記入を始めた。

 しかし名前以外は、使える魔法だの職業だの意味が分からない物ばっかりだったので適当にササっと書いて提出した。


 「……出来たぞ」

 

 「はい! えー……名前がインチキ太郎さん……? 色んな食べ物を出せる魔法? 職業が……昼寝師!? な、何ですかこれは! 出鱈目ばっかりじゃないですか!」


 『流石に騙されないか……』と、少し目の前の残念職員を舐めていたセカンドだったが、このまま出鱈目だと認めるのも癪だったので無理やり押し通す事にした。


 「ふん……。出鱈目だと? 勝手に決めつけないで欲しいな」


 そう言うとセカンドは、リュックの中から様々な料理や菓子を出して机の上に並べてやった。


 「ゴ、ゴクリ……。こ、こんな料理やお菓子は見た事がないですぅ……。で、でもまだダメですぅ! これらが本物か確認しなければならないのですぅ」


 残念サっちゃんの口からは滝の様な涎が流れ落ち、もう我慢できないといった感じだった。

 そんな姿を見たセカンドが一度頷いてGoサインを出した。

 

 「どうだ、これで信じる気になっただろ?」


 残念サッちゃんは料理を大量に口を含んでコクコクと何度も頷いている。


 「けぷっ。はぁ〜、こんなに美味しい料理を食べたのは初めてですぅ……。私、泣き虫サッちゃんこと、サリナ・ボードマンがインチキ太郎さんの攻略者登録を許可します」


 こんなに上手くいって良いのかとセカンドは一瞬不安になったが、まあ上手く行く分には良いかと開き直った。


 「そうだ、登録には銀貨五枚いるんだよな? それでだ、この魔石を買い取って欲しいんだ。それの買取金から登録料を差っ引いてくれ」


 セカンドはこの世界に来て最初に倒した翼竜の魔石を一つ机に転がした。


 「はい! 買取ですね! 買取は大歓迎ですよー! たくさん売れれば私達もボーナスがいっぱい入りますからねー。うーん、それにしても大きい魔石ですねー。まるでSランク……うーん……」


 そのままパタリと倒れてしまったサリナに頭を抱えるセカンドだったが、すぐに代わりの職員が駆け付けてくれたので事なきを得た。


 「す、すいません! 私共の馬鹿がご迷惑をお掛けしました! そ、それで買取ですよね?」


 「ああ、それを頼む。なるべく早くしてくれると心底助かるんだがな」


 散々時間を取られたセカンドは、少々八つ当たり気味の態度を取ってしまったが、代わりの職員は気にせずスムーズに話を進めてくれた。


 「この大きさ……それに澄んだ翠色……間違い無い、ワイバーンの魔石だ……。失礼ですが、これはどうやって入手されたのですか?」


 いきなり視線が厳しくなった職員に少し戸惑うセカンドだったが、隠す事でも無いので正直に告げた。


 「ああ、森の奥でバッタリ遭遇してな。空から地上に叩き落としたら死んでしまったよ」


 「貴方一人であのワイバーンを倒したと? ははっ、ご冗談がお好きな様ですね。よろしいでしょう、こちらは金貨二十五枚と銀貨三十八枚で買い取りましょう。それから登録料を引いた金額をご用意いたします。それでよろしいですか?」


 『ああ、頼む』と答えたセカンドは、やっと終わったと少し伸びをする為に後ろを振り向くと、床に倒れ伏すハチベェと、見知らぬ攻略者と言い争うヤスとサブの姿が目に入った。

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