第22話


 ピリンキが船に戻ってから七日が経った。


 セカンドはその間にも様々な情報を集めていた。 

 その情報の中には一筋縄では行かない物も数多くあった為、それの対策に朝早くから行動を起こしていた。


 「まさか物理攻撃が効かない敵がいるとはな。あのまま勢いで飛び出してたら痛い目に遭う所だ」


 元高位の攻略者だったアンデルが言うには、30層から40層にかけて一部の魔物にそう言う性質を持った奴がいるとの事。


 それに対抗するには魔法が有効らしいのだが、魔法が使えない者や魔力切れの時の為に幾つかの予備策があるらしい。


 「着いたな。アンデルが言った通り、本当にデカい教会だ。それにしても、星が変わろうが時代が変わろうが宗教とやらは無くならないらしいな」


 アンデルから聞いた対抗策の一つ、【聖水】を手に入れる為、セカンドはこの国の指定宗教のゼ・アーレ教の大教会へと足を運んでいた。


 「ほっほっほ。お若いの、教会の入り口で大層な物言いじゃ。お主、どう見ても信徒には見えんのう。なんじゃ、今日は喧嘩でも売りに来たのか?」

 

 いつの間にか現れた、庭師の様な格好をした老人がセカンドに飄々とした態度で話しかけて来た。


 「いや、すまない。長い事生きたが、一度として神とやらに助けて貰った事が無いもんでな。つい、愚痴ってしまったよ」

 

 「ふむ……。ただ生意気なだけでは無い様じゃの。それにしてもお主、変わった身体をしておるのぉ……」


 一瞬、警戒を露わにしたセカンドだったが、すぐに『まぁ、別にバレても問題ないな』と思い直した。


 「ふっ、爺さん……中々やるじゃないか。その目も魔法の一種なのか?」


 セカンドを見つめる老人の瞳の中に、六芒星の様な陣が浮かび上がっていた。


 「正確には違うがの……。こう言う事も出来る様になるんじゃよ。……ほら、持ってけ小僧」


 普通の目に戻った老人がポケットの中から取り出して投げつけて来たのは、小さな瓶に入った澄んだ液体だった。


 「おっと。……まさかこれが聖水ってやつか? ん? 俺、爺さんに聖水が欲しいなんて言ったか?」


 セカンドの驚き様に、それまで真面目な顔をしていた老人が陽気に笑い出した。


 「かっかっかっか! 見りゃ分かるわい。お主の様なのは沢山来たからのぅ。まっ、気に入ったやつにしかやらんけどな」


 「そうか、正直助かる。礼を言うよ爺さん。これはお布施代わりに受け取ってくれ。実は今、金が無いもんでな」


 そう言ってセカンドがリュックから取り出したのは高めの茶葉と煎餅だった。


 それを受け取った老人は『これはすまんのぅ。暇だったらまた来い』と言って最後まで名乗りもせず庭の奥へと消えてしまった。

 

 「変わった爺さんだ……。さて、お次は攻略者ギルドに行って攻略者登録をして来いって言ってたな」


 正直に言えば、別に登録なんかしなくてもよいと考えていたセカンドだったが、先輩攻略者のアンデルの言う事を素直に聞く事にした。


 街の中央にある攻略者ギルドに向かって歩いていたセカンドは、途中にある出店が立ち並ぶ大通りで、なにやら騒ぎを起こす見知った三人組がいるのが目に付いた。


 「だから出世払いで頼むって言ってるでヤスよ!」


 「そうっす! もう俺達腹ペコなんすよ!」

 

 「うるせぇ! 商売の邪魔だ! 失せやがれ!」


 肉串の店主に向かって乞食行為をしていたのは、セカンドがこの国に来る前に出会った盗賊三人組だった。

 セカンドは見て見ぬ振りをして立ち去ろうとしたが、そうは問屋が許してはくれなかった。


 「ア、アニキ! アニキでヤスか!」

 「会いたかったっす! 兄貴!」

 「我が主よ……。ハチベェールダー……ここに」

 

 どうやらセカンドの格好は目立つのか、すぐにバレてしまった様だ。


 「俺はお前らなど知らん。ほら、しっしっ」


 セカンドが嫌な顔を浮かべて追い払おうとするが、三人組は足にしがみついて離そうとしなかった。


 「嫌でヤス! 恩を返すまでは離れないでヤス!」


 「そうっす! あと腹減ったっす!」


 「我等は今日より、主の手足となりますゆえ。とりあえず、腹が減っては戦は出来ませぬ」


 面倒くさくなったセカンドは、リュックからあんパンと牛乳を取り出して三人に投げ渡した。


 「ほら、これをやるからどっか行きやがれ。俺は忙しいだよ」


 渡されたあんパンと牛乳を貪り食べている三人組を置いて、セカンドは攻略者ギルドへと再度歩き出した。


 既に近くまで来ていた事もあって、ギルドまであと数分も掛からないと言う所だ。


 「あっ、そういえば登録するのに金かかんのかな。聞くの忘れてたな」


 アンデルもまさかあんなに気前のいいセカンドがお金を持って無いとは思わず、言わなくても大丈夫と判断したのだろう。


 「登録には銀貨五枚かかるでヤスよ」

 「高いっすよね! 俺達も苦労したっす!」

 「今となっては良い思い出ですな」


 「げっ、銀貨五枚かよ。こんな事なら少しは残しておくべき……って、何でお前等着いて来てんだよ」


 いつの間にかセカンドの後ろにピタっと張り付いてる三人組を見て、溜め息が溢れるセカンドだった。


 「まぁまぁ。どうやらアニキは攻略者登録をするご様子でヤスね?」


 「なら分からない事があれば俺達が説明するっすよ」


 「何でも質問してくだされ」


 『いや、別にお前等じゃなくても職員に聞けば……』とセカンドが言いかけたところで、三人組の目に涙が浮かべ始めたので仕方なく聞いてやる事にした。


 「まぁ、と言っても聞きたい事もそんなに無いんだかな。そうだ、金が無いんだったな。攻略者ギルドは買取とかもやってるのか?」


 「やってるでヤスよ!」

 「おもに塔のお宝とかっすかねー」

 「あとは魔物が落とす魔石やドロップ品も買い取ってますぞ」


 『なら大丈夫そうだな……』と呟いたセカンドの目の前にある攻略者ギルドの大きな扉を開いて中へと入って行った。

 

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