第20話


「いつからこんなにお節介になったんですか?」

 

 「うるせぇやい。気まぐれだ気まぐれ」


 セカンドとピリンキは路地裏から無事に脱出して行ったルシア達を見下ろしていた。

 ルシア達は気付いてはいなかったが、襲撃者の半分以上を殲滅したのはセカンド達だったのだ。


 「やはり、彼女達がターゲットでしたか。宿に戻るなり、複数の人の気配を探知したのでおかしいと思ったのです」


 「今回ばかりはナイスだったな。さぁて、尋問の時間と行こうか。ピリンキ、拷問器具に変身だ」


 『普通に自白剤でいいでしょ』と少しノリの悪いピリンキが、捕虜にした襲撃者の一人に薬を打ち込んだ。


 「名前と所属を言え」


 自白剤の効き目が良かったのか、襲撃者がスラスラと答えて言った。


 「我等に個別の名は無い……。我等は何処にも属さない」


 セカンドは構わず質問を続けた。


 「誰の命令で彼女達を狙った。雇い主の目的はなんだ」

 

 「雇い主は知らない。教えられていない。目的は……第三王女ルシア・サザーランドの排除……」


 その後も幾つか質問をしたが、それ以上は満足いく答えを得られそうにないと判断したセカンドは、プロフェッショナルなこの兵士達に敬意を払い、一撃のもと楽にしてあげる事にした。


 ただ意識を失って倒れているだけの襲撃者も大勢いたが、二度とルシア達を襲えない様にしっかりと殲滅する。


 「Schlafe in Frieden安らかに眠れ……」


 全ての事後処理を終えたセカンド達は、近づいて来る大勢の人の気配を感じてすぐに宿屋へと戻り急いだ。


 「それにしても第三王女ですか……。あまり深入りすると後戻り出来なくなりますよ」


 セカンドもそれは分かっているのか、反論しようとして開いた口をすぐに閉じてしまった。

 そして、宿屋に戻ったセカンド達を待っていたのは、頬をプックラと膨らませてプンプンと怒っているシャーリーだった。


 「セカンドおじちゃん! 食べ物を残すのはいけない事なんだよ!」


 「す、すまんシャーリー! ど、どうしても行かなければいけなかったんだ! 許してくれ!」


 手を合わせて頭を下げるセカンドを見て、シャーリーもいくらか怒りのボルテージを下げてくれた様だ。


 「これこれ、その位にしなさいシャーリー。それよりセカンドさん、あんな貴重な薬をありがとうございます。それに店もこんな立派にして頂いて……」


 「それを言うならピーちゃんもでしょ! 一番頑張ったのはピーちゃんなんだから! ねーピーちゃん!」


 この7日の間にすっかり仲良くなったピリンキがいつの間にかシャーリーの肩に移動して、さも当然ですと言う顔をセカンド達に向けて頷いていた。


 「なーに勝ち誇ってやがる。許可も取らずに勝手に改装しやがった癖によ。それに美味しい料理を教えたのは俺だぜ。食材の提供もな」


 いつの間にかマウントの取り合いを始めた二人を微笑ましく見守るシャーリーとアンデルだった。

 

 「これ位にしましょう。これ以上は野暮と言う物です」

 

 「……だな。そうだアンデルさん。この国の第三王女について知ってる事はあるか?」


 セカンドはやはり王女の事が気になる様で、深入りする気満々の態度を見て、ピリンキは深い溜め息を吐いた。


 「うーん……。そんなに詳しくはないねぇ。あっ、でも何年か前に王位継承権を放棄して市井に降りたって号外が出てたっけか」


 「継承権を放棄か……。それはまた勿体無い話だな。理由は知ってるのかい?」


 「さぁ、そこまでは号外に書いて無かったなぁ。すみませんね、お役に立てませんで」


 『いや、いいんだ』と言ったあと、先程自分が残した昼飯を出して貰い、ちゃんと完食してシャーリーの機嫌を完全に治す事に成功した。


 「ねぇ、セカンドおじちゃんも塔を探検してる人なの?」


 「ん? まぁな。だけどまだ一回しか入った事は無いけどな」


 『あはは』と笑うセカンドにジト目を向けるシャーリーだったが、この短い間にセカンドの扱いにもだいぶ手慣れた様だった。


 「本当にセカンドおじちゃんって、適当だよね!」


 「まぁ、そんなに怒るなよ。ほら、飴ちゃんやるから機嫌治せ。そうだ、シャーリーは塔に詳しいのか?」


 猫の形をした細工飴を受け取ったシャーリーが『わーい』と喜びながら機嫌よく返事をしてくれた。


 「勿論! 塔に関しては私の右に出る者は……た、大していないんだからね!」


 「そ、そうか。なら幾つか聞かせてもらおうかな。勿論、報酬は用意するぞ」


 報酬と言う言葉に二つ返事するシャーリーを見て、思わず頬が緩むセカンドだった。


 「あの塔は誰が作ったんだ?」


 「作者は不明……。だが、人間には不可能と思われる。神か……又はそれに属する者が作った可能性が高い」


 『シャ、シャーリーさん?』と、いきなりのシャーリーの変わり様に驚くセカンドだったが、もしかしたらそう言うロールプレイなのかもとそのまま質問を続けた。


 「し、質問を続ける。塔は何層まであるのか知ってるか?」


 「今現在、何層まであるのかは不明。ただし、確認されているだけで、S級攻略者パーティの【深淵】が到達した48層が王国の塔では記録として最高である」


 セカンドにはS級の攻略者がどれくらいの強さを有するのか知り得なかったが、あの広い階層を48層も攻略出来るのだ、弱い訳が無いなと思い直した。


 「よし、次で最後だ。シャーリー……お前、俺達に何か隠してるな?」


 セカンドのその言葉に驚愕の表情を浮かべるシャーリーだったが、すぐに笑顔になって誤魔化した。


 「な、何の事かなぁ? あっ、もしかして今まで説明してたのがピーちゃんだってバレちゃった?」


 どうやら今までの説明はシャーリーの背後に隠れていたピリンキが声を変えて代行していたらしい。

 

 「ピリンキだったのかよ! それについては全く気が付かなかったが……って、今はそれよりお前の身体の事だ……。ここ最近、寝る前に激しい咳をしてるだろ」


 セカンドの指摘に、シャーリーは下手くそな口笛を吹いて誤魔化し始める。

 しかし、セカンドの真剣な目を見て観念したのか、シャーリーは正直に話し出した。

 

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