第19話 ★


 食後のデザートを食べ終えたルシア達は、最後に出されたお茶を飲み終え、会計を済ませようとしていた。


 「アンデル、本当にご馳走様ね。店の変わり様には驚いたけど、どの料理も最高だったわよ。また来るわね」


 「いえいえ。またのお越しをお待ちしております」


 営業スマイルを浮かべるアンデルとガッチリ握手を交わしたヴォルヴァリーノだったが、アンデルの手の中に何か紙の様な物がある事を察知した。


 皆んなには分からない様にそれを受け取ったヴォルヴァリーノは、皆んなと一緒にお礼を言って店を出た。


 そしてルシア達一行が我が家へ帰ろうと暫く歩いていると、突然フォスカが全然違う道へと歩き始めた。


 「どうしたのフォスカちゃん。こっちじゃないよ?」


 「しっ! 静かにして! ……やっぱり気のせいじゃないわ。誰かに尾行されてる……。人数は……ダメ、多すぎて分からない」


 幸せの余韻に浸っていた残りの三人は、すぐに意識を戦闘へと切り替えた。


 「迂闊だった……。命を狙われてるのだから外食は控えるべきだったな」


 「ごめんなさい。私が余計な事を言ったばっかりに」


 普段ならそんな事は無いと皆でヴォルヴァリーノを慰めるところだが、痺れを切らした襲撃者はそんな暇を与えてはくれなかった。


 「皆んな走って!」


 ルシア達が人目に付かない路地裏に入ったのを見計らって、全身を黒装束で統一した集団が姿を現した。


 「フォスカちゃん待って! ヴォルちゃんを置いてく気なの!」


 フォスカは失念していた。

 ヴォルヴァリーノが義足だった事をすっかりと忘れていたのだ。

 せめて他の人を巻き込まない様にと路地裏に入ったのが全て裏目に出てしまった。


 「ソフィア! バフを頼む! フォスカはヴォルを守れ!」


 すぐにソフィアは【能力向上術式】をパーティ全体に掛けた。

 そしてルシアが皆んなを守る様に前に出たが、襲撃者はルシア達の前後を挟み込み、更には建物の屋根上にまで展開して死角がない様に徹底していた。


 「貴様等……。カルバレン兄上の手の者だな?」


 しかし、ルシアの問いかけへの返事は無く、代わりに放たれたのは襲撃者達の容赦無い魔力弾の集中砲撃だった。

 

 「皆んな! 身を守って! 来て……氷巨人の大盾フロストロンシールド!」


 「私も……。中級防御術式……守り鳥の若羽スワング!」


 ルシアが氷で作られた巨大な盾で皆んなを覆う。

 更にソフィアの防御術式で魔法への耐性も獲得した。

 しかし数十、数百と飛ばされる魔力弾の前にルシア達はまるで身動きが取れなかった。

 襲撃者達は徹底的に距離を取り、ルシア達が弱まるまで交代でこの波状攻撃を続けた。


 「だめね……。このままじゃ持たない。どこかで討って出なきゃ」

 

 既にルシアの氷の盾にはヒビが入って来ていた。


 「でででででも! そそそそんな暇無さそうだよ!」


 「落ち着いてソフィア! あんたの悪い癖よ! 大丈夫、きっとチャンスは来るわ。奴等の魔力だって無限じゃ無いもの」


 フォスカがソフィアを叱りつけている間、ヴォルヴァリーノはアンデルに貰った紙とその中にあった、とある薬を見つめていた。


 「なんか変ね……。奴等の後ろ側がなんか騒がしいわ」

 

 それから耐える事数分、あれだけ連携の取れていた襲撃者達の魔力弾は乱れに乱れ、遂には何も飛んで来なくなった。

 これを機と見たルシアが一気に飛び出した。

 

 「フォスカは向かって来る敵を撃退! ソフィアはそれの援護! 私が反対側をやるまで持ち堪えて!」


 「舐めないで! 先に終わらせてあげるんだから!」


 やはり襲撃者達の数は大幅に減っている様だった。

 しかも魔力弾の撃ちすぎか、襲撃者達は残りの魔力も余り残ってはいない有様だ。


 「一つ! 二つ! 喰らえ……極光オーロラ斬り!」


 ルシアの流れる様な王国式剣術が襲撃者達の息の根を止めていった。

 中には、前の自分なら苦戦を強いられる強敵もいたが、この初代国王の剣に選ばれた今は、火力で圧倒出来るほどだった。

 

 「ふう……。力が溢れる様だ。私はまだ強くなれる……」


 しかし、そんなルシアの余韻を終わらせたのはソフィアの叫び声だった。


 「うわぁぁ! ヴォルちゃんを離せ!」


 見ると、フォスカは地に倒れ込み、ソフィアは腕から血を流して座り込んでいた。

 襲撃者達はヴォルヴァリーノを人質に取って、ソフィア達を動けなくさせていた。


 「み、皆んな! おい貴様! ヴォルを離さんか!」

 

 すぐにルシアが駆け付けたが、襲撃者は表情を変えず淡々と喋り出した。


 「ルシア・サザーランド……。我等の目的は貴様の命だけだ。貴様が首を差し出せばコイツらは見逃そう」


 そう言って更に強くヴォルヴァリーノの首にナイフを強く押し込んだ。

 残っている襲撃者は五名らしく、皆油断なくルシアを警戒していた。


 「わ、分かった……。武装を放棄し、この身をそちらに預けよう。だが、仲間の命を救うと言う約束はたがえるなよ……」

 

 まるで約束を破ろう物なら呪い殺さんとばかりの表情を襲撃者達に向けて、ルシアは剣を手放した。

 その瞬間、これを好機とみた襲撃者全員が一斉に飛び掛かった。


 「ダメー! ルシアちゃんを殺さないでー!」


 ソフィアが在らん限りの声を出して叫ぶが、誰も助けには来ない……と思ったその時、先程まで拘束されていたヴォルヴァリーノが、ルシアを襲う襲撃者達を全員殴り飛ばしてしまった。


 「ふふっ。ルシアちゃんは殺らせないわよ」


 いつの間にか右手と左足を再生させたヴォルヴァリーノがキメ顔でそう言った。


 「ヴォル! そんな……お前……一体何が……。いや話は後だ。まずはここから離れよう」


 色々聞きたいルシアだったが、そんな暇は無いとばかりに思考を切り替えた。


 そして気を失っているフォスカと満身創痍のソフィアを拾ってマイホームへと一目散に走り出した。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る