第17話 ★


 ルシア達が窓から外を見ると、太陽はすっかり上って昼の訪れを告げていた。


 「丁度いいわ。お昼にしましょう」

 「ならたまには外に食べに行きましょうよ。このところゴタゴタしてゆっくりと外食もできなかったからね」


 ヴォルヴァリーノの提案に残りの女性達が黄色い歓声を上げた。

 そしてすぐに外出の準備を終わらせて街中へと繰り出した。


 「やっぱり活気がないね。私が子供の頃はもっとこう……ドカーンって感じだったのに」

 

 「何よそれ。本当にソフィアって馬鹿ね」


 じゃれつくフォスカとソフィアを横目に、ルシアとヴォルヴァリーノは何処に食べに行くか話し合っていた。


 「ヴォル、足は大丈夫か? それにこんな街外れの方に飯屋なんてあったか?」

 

 「ふふん。実は、私の筋肉愛好家仲間がやってる宿屋があるんだけど、そこのビーフシチューが絶品なのよ」

 

 「ほう。こんな所にそんな名店があったとは。これは楽しみになって来たな」


 そして一行はヴォルヴァリーノの案内の元、あの少し寂れた隙間風が入りそうな宿屋がの建物の前まで来ていた。


 「ほえー! 凄い建物だね! 鉄のお家なんて初めて見たよ!」


 「それにこの壁に描かれた兎の絵も素晴らしいな……。さぞ高名な画家に頼まれたのだろうな」

 

 「問題は味よ味! ほらヴォル、何をビックリした顔で止まってるのよ! 早く案内してちょうだい」


 ヴォルヴァリーノは、何度『ここは違う』と言う言葉を飲み込んだか分からなかった。

 しかし、看板に書かれている【ウォーク・ラビット】の文字を見て意を決して扉を開ける事にした。


 「アンデル、いるかしら? 私よ、ヴォルヴァリーノよ。……いないのかしら」


 店の中は人っ子一人いなかったが、前に訪れた時とは違い、オンボロだったテーブルや椅子は全て鉱石由来の物に変わって、お洒落な雰囲気を醸し出していた。

 そしてヴォルヴァリーノ達が少し待っていると、奥の調理場の方から一人の強面の男がのそのそとやって来た。


 「ああ、すいません。今この店は改装中でして……ヴォ、ヴォルヴァリーノ! どうしたんだその手と足は!」


 「久しぶりね、アンデル。話したい事は沢山あるんだけど、まずは私の仲間にご飯を振舞ってくれないかしら。みんなお腹ペコペコなのよ」


 再度お腹の音を鳴らしたソフィアが恥ずかしそうにお腹を手で押さえた。


 「あ、ああ。それは構わないが……。まぁ、いい、空いてる席に好きに座ってくれ。とびっきり美味いビーフシチューと特製ピザをご馳走してやるぜ」


 ヴォルヴァリーノ達はと言う料理に聞き覚えはなかったが、無事にご飯を食べられる事に安堵して席に着き始めた。


 「ねぇねぇ、ヴォルちゃん。凄くお洒落なお店じゃない。なんでもっと早く教えてくれなかったの」


 「本当にね。それに見てよこのテーブル……多分石を切り出して作ったのだと思うけど、こんな綺麗になる物なの?」

 

 好き勝手に質問して来るソフィア達に『一番聞きたいのは私よ!』と戸惑うヴォルヴァリーノだったが、それに救いの手を伸ばしたのは料理をカートで運んで来たアンデルだった。


 「お待たせしました。こちら、当店自慢のビーフシチューと付け合わせの白パンでございます。それにこちらがピザと言われる他国の料理になります。お熱いので食べる際はお気を付けて下さいね」


 まだ多少のぎこちなさがあるが、まるで何処かの高級レストランな給仕の仕方に焦る女性達だったが、ただ一人こんな事は慣れてますとばかりにルシアが音頭を取った。


 「ありがとう、店主よ。どれも美味そうだ。ゆっくり堪能したいと思う。それに今日は改装中にも関わらず無理を言った様だ。本当に感謝する」


 ルシアの言葉に、他の面々も思い出したかの様にお礼を重ねた。


 「いえいえ、いいんですよ。ヴォルヴァリーノの頼みなら無下にはできませんからね。それにヴォルヴァリーノ、後で話を聞かせてもらうからな」


 最後に鋭い視線をヴォルヴァリーノに送ったあと、アンデルは奥へそそくさと引っ込んでしまった。


 「す、凄い威圧感のある人だね……」

 「ああ、恐らく只者ではあるまいな」


 ヴォルヴァリーノはアンデルが元高位な攻略者である事を知っているが、本人に許可も無く喋ったりはしなかった。


 「ほら、早く食べましょう。冷めちゃうわ」


 待ちきれなかったルシアがビーフシチューを一口食べると、口の中をが走り回った。

 今までに見た事ない恍惚としたルシアの表情を見た他の面々も恐る恐るシチューを食べると、そこからはもう手が止まる事は無かった。


 そしてあっという間にビーフシチューと白パンを食べ終えた女性陣はピザと言う未知の料理に手を出すか一瞬悩んだが、先陣を切ったソフィアの目の輝きを見て、他の皆もピザを口に含む。

 そして、が始まった。


 「ダメだよフォスカちゃん! これは全部私のなんだから!」


 「馬鹿! ソフィアの馬鹿! これは私のだ! 馬鹿!」


 「落ち着きなさい二人共! そして王族として命令します、これは私の物です」


 「皆んな……思い出して、この店を教えたのは私なのよ? だからピザも私の物なの」

 

 普段、暴走する皆を止める役のヴォルヴァリーノまで参戦した事により、ピザが無くなるまでこの醜い争いが終わる事は無かった。

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