第11話 ★


 セカンド達が15層を目指して飛行を開始した頃、その15層の洞窟エリアに息も絶え絶えになっている3つの人影があった。


 「ハァハァ……。も、もうだめ……もう走れない……ハァハァ……」


 白いローブに身を包んだ白魔術師のソフィアが顔を絶望の色に染めてその歩みを止めてしまった。


 「バカ! 死にたいの! ほら走って! きっとフォスカが助けを呼んで戻ってくるわ! それまで……」


 動きやすそうな軽鎧と白いマントを身につけた魔法剣士のルシアがソフィアに肩を貸してそう励ました。


 「二人共! あそこに横穴があるわ! 早く入って!」


 そう叫んだのは、はち切れんばかりの筋肉がチャームポイントの心は乙女のヴォルヴァリーノだ。

 ヴォルヴァリーノの指差す方向にある横穴を確認したソフィアとルシアは最後の気力を振り絞って横穴に駆け込んだ。


 「ハァハァ……で、でも……こ、こんなとこ……ハァハァ……す、すぐバレちゃうよ……」


 「そ、そうね……。せめて……遮る物があれば……ハァハァ……」


 少しして息を整えた二人は、ヴォルヴァリーノが一向に横穴に入ってこない事に気がついた。


 「ヴォルちゃん! 早く来て! ガルムが来ちゃうよ!」


 「ヴォルヴァリーノ……。あなた……まさか!」

 

 ルシアが気づいた時にはもう既に遅く、ヴォルヴァリーノは魔力を纏った拳を壁に叩きつけ、崩れ落ちる瓦礫で入り口を埋めてしまった。


 「ソフィアちゃん……あまりルシアちゃんに迷惑かけちゃダメよ? ルシアちゃんも……みんなを……この国をお願いね? それと安心して、ガルムは私が引き付けるから……。じゃあ……またね」


 ヴォルヴァリーノは二人の制止の声を振り切り、今来た道を戻って行ってしまった様だ。


 「うぐ……ひっぐ……ヴォルちゃん……。な、なんでこんな事になっちゃったのかな……。昨日まで……み、みんな笑顔だったのに……」


 「泣くなソフィア。エンペラーガルムは鼻が異常に鋭い……。もう少し奥に行こう」


 今し方、長い付き合いの仲間がその身を犠牲にしてまで囮になってくれたと言うのに、その態度は無いだろうとソフィアは憤慨しそうになったが、ルシアの涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔を見て己を恥じた。


 「そうだねルシアちゃん。絶対に生きて帰るの。じゃないとヴォルちゃんに怒られちゃうんだから」


 普段甘えてばかりのソフィアの成長した姿に、ルシアは再度目頭が熱くなった。

 こんな時でもなければ手放しで褒め称え、おでこにキスでもしていただろう。


 「それにしても、15層にこんな横穴があったなんてギルドに報告されていたか?」


 「うーん、どうだろう? 普段、私達は20層付近を探索してるから気にした事なかったよね」


 『それもそうだな』と思い直したルシアは、とりあえず行けるとこまで行こうと、奥へ奥へと歩き始めた。


 暫く歩いて行くと全長3メートルはあるだろう赤い扉がルシア達の行手を阻んだ。


 「うわー。大きい扉だねー。それに扉に書かれてる文字はなんだろう……。エルフ文字? いやそれよりも魔族が使う文字の方が近い……かな? ダメ分かんない!」


 「ソフィア……恐らくこれは【神字カムチェ】よ。まだ全ての種族が同じ言語と文字を使っていた時の創世文字……。文献で見た通りね」


 『ほへー』と感心していたソフィアは、己の足の限界を感じ取りその場に座り込んでしまった。


 その間にもルシアは、幼い頃に見た文献の記憶を呼び起こし、なんとか扉に書かれた文字を解読しようとし始めた。


 「汝────資格────鍵────願い──。……駄目、これ以上は分からないわね」


 ルシアがそう言ってソフィアに振り返った瞬間、横穴の入り口の方で何かが激しく振動している事が分かるほどの揺れが二人を襲った。

 

 「ルルルルシアちゃん! ききき来ちゃったんじゃない! ししし死んじゃうのかな、わわわわ私達」


 ルシアは、今までに無いほどに心が折れている様子のソフィア見て、戦闘では役に立ちそうにも無いなと一人覚悟を決めた。


 しかしその時、ルシアの首に掛けていた青陽石の中にオリーブの葉を模した模様が描かれたネックレスが金色に激しく輝くと、門の中央にある窪みに強く引き寄せられピッタリと嵌った。


 「な、何が起きてる……。と、扉が……開いて……」


 ゆっくりと鈍い音をたてながら開いた扉の先には、花畑が咲き誇るとても広い空間が存在していた。


 そしてその空間の中央にある台座には、とても精巧な模様を描かれた、少し細めな直剣が神々しく突き刺さっていたのだった。

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