第10話


 扉を開けた先は人でごった返しになっており、誰もセカンドが入って来た事に気付く様子もない様だった。


 どうやら攻略を終えた攻略者達が戦利品を買い取って貰ったり、併設されている酒場で馬鹿騒ぎをしている様子だ。


 その時、建物の奥の方にある、恐らくは塔に繋がっているであろう扉から、満身創痍の一人の攻略者が喧騒を切り裂く様な大声で助けを求め始めた。


 「ク、クエストだ! クエストを発注する! 内容は15層に取り残された仲間の救助要請だ! 特異魔獣イレギュラーが出たんだ! 40層のエンペラーガルムだ……頼む誰か……」


 言い終わる前にその攻略者は気を失ってしまった。

 倒れた攻略者の女性は、急ぎ職員と攻略者数名が救護室へと運んで行った様子だ。


 「おい、あいつ確かB級の【革命者】のやつだろう?」


 「へへ、奴等油断しやがったな。ご愁傷様だぜ。しかし、あそこは美人揃いなだけに勿体無かったな」


 「はは、死ねばみんなただの塔の餌だぜ。死体も残らねぇよ。それより俺は生きた女ってね! エミちゃん、エール追加ね!」

 

 この様な事は日常茶飯事なのか、一時は静まり帰った建物内もすぐに元通りの喧騒に再度包まれた。

 職員らしき人もすぐにクエスト内容を書いた紙を掲示板に貼り出したが、誰も受ける様子はない様だ。

 

 「なんか知らんが……ムカつくな。ピリンキ、塔の中にドローンは飛ばしたのか?」

 

 「はい。しかし昨日からですので、まだ15までしか探索が終わっていませんが」


 『流石は俺の相棒だ』と言って人混みに紛れたセカンドは、すぐにステルス機能を作動させ、その身を背景に同化させた。

 

 それから丁度よく塔へと入ろうとしている攻略者の後ろに張り付き、扉を素早く潜ると全速力で塔の中へと身を踊らせた。

 

 塔の中に一歩足を踏み入れると、今までに何回も体験した事がある様な違和感の様なものを感じたが、今はそれどころじゃ無いなと思考を後回しにした。


 「太陽……? ここが塔の中なのか?」

 「間違いありません。不思議ですね」


 肝心の塔の一層は予想に反して草が生い茂る草原になっており、本当に塔の中かと疑う様な光景だった。

 

 「どうやったら塔の一階を草原にしようなんて発想に至るんだろうな」


 「ええ、非常に興味深いですね。こんな時でもなければゆっくりと解析に精を出したいところです。ですが……お急ぎの様なのでそれはまた次回で」


 『だな』と言った瞬間、音を置き去りする速度でセカンドは移動を再開した。

 見た目は既にメビウス合金に覆われた黒いナノテクスーツ姿になっており、セカンドの性能を最大限に発揮できる状態であった。


 「邪魔だ」


 稀に現れるウサギの魔物やゴブリンを汎用型レーザー銃【ルクス】で眉間を撃ち抜いて進んで行く。

 魔物やゴブリンは絶命すると、死体は空気中に塵のように溶かしたあとに、地面に何かを落として消えていった。


 「セカンド、せめて回収を──」


 しかし、そんなピリンキの願いはセカンドが移動する時に発生した風切り音にかき消されてしまう。


 その後も二層、三層と進んで行くと草原エリアこそ変わらないが徐々に魔物の出現率や数も多くなってきていた。


 「クソ、無駄に広いな。仕方ない……飛んで行くか」


 セカンドは自身に搭載されている擬似反重力装置とホバー機能を巧みに使い、その身を宙に浮かす事に成功する。

 

 「細かいバランス調整は私にお任せ下さい」


 セカンドの背中にまるで戦闘機の翼の様な形で張り付いたピリンキがそう言った。

 飛んで行く事の利点として、地形や魔物に気を使わなくてよくなる事と、単純に走るより更に速く移動できる点があげられる。


 「よし。ピリンキ、これからはノンストップで行く。最短ルートで頼む」


 ピリンキの『了解』の返事と同時に最大出力で飛行したセカンドの周りに、音速を超えた時に発生するソニックブームが二個、三個と出現した。


 セカンド自身、何故見ず知らずの相手にこんなに必死になっているのか分からなかったが、何故か行かなければならない使命感の様なものを感じていた。


 それは過去の自分の境遇を重ね合わせたせいなのか、それとも自分をこの世界に連れて来たあの虹色の光の意思なのか……。

 

 セカンドは急ぐ足のなか思考をフル回転させたが、答えが出る事は無かった。

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