第9話


 セカンドは背に乗った少女の案内のもと、人の波を掻き分けてなんとか前へと進んでいた。


 「次はそこの通りを右ね! あっ! そういえばおじさんの名前はなんて言うの? 私はシャーリーだよ!」


 先程とは打って変わって元気になった少女……もといシャーリーがそう尋ねてくる。


 「俺か? 俺はソレイ……いやセカンドだ。セカンドお兄さんと呼べ。いいか、お兄さんだぞ」


 『分かったよ! セカンドおじさん!』とニコニコで返事をするシャーリーに溜息を吐きつつ、指示通りに進んで行くと人もまばらになって幾分かは歩きやすくなって来た。


 「セカンドおじさん、もう降ろしても大丈夫だよ。ここら辺は人が少ないんだ。ちょ、ちょっとばかし古い店が多いからなんだけど……。で、でも良い店ばっかなんだよ!」


 「別に俺は何も言ってないだろ。お前が自信を持って良い店だと思うんなら、俺をそこへ自信を持って連れて行けばいいだけだろ」


 『うん!』と言って元気に駆け出したシャーリーが止まった先は、店の看板に【ウォークラビット】とデカデカと書かれた家屋だった。


 「……これはまた、随分と隙間風が入りそうな建物ですね」

 

 セカンドのマントに隠れていたピリンキがやれやれといった感じでそう呟く。


 「うおっ、急に喋んなよな。ビックリするだろが。それに隙間風なんか気にしたもんでも無いだろ……俺達にはな」


 セカンドがそう言うと、ピリンキは『それもそうですね』と言ってまたマントの中に隠れてしまった。


 「セカンドおじさーん! ここだよ! お父さーん! お客さんを連れて来たよ!」


 シャーリーが声をかけた先には、筋骨隆々の四、五十代くらいの男が受付に座っていた。


 「おお、シャーリー。お帰りな……ど、どうしたんだシャーリー! ズボンが土まみれじゃないか! 誰かにいじめられたのか!」


 「もう! 違うよ! 転んだだけ! それよりほら、お客さんだよ、お・きゃ・く・さ・ん!」


 そう言われて宿屋の主人は初めてセカンドの存在に気づいたのか、ぎこちない笑顔を浮かべて接客を開始した。


 「こ、これはこれは。こんなオンボロ……ご、ごほん! 【歩く兎亭】へようこそおいで下さいました。お泊りでしょうか?」


 「ああ。とりあえずこれで泊まれるだけ頼む。あとシャーリー、これは案内の小遣いだ。足りるか?」


 セカンドは、巾着袋に入っていた残りの硬貨全てを宿屋の主人に渡したあと、先にシャーリーの小遣い用に分けていた銀貨十枚をシャーリーに手渡した。


 「ひ、ひぃふぅみぃ……こ、これだけあれば半年は泊まれますよ! ほ、本当によろしいので?」


 「す、すごい大金だね、お父さん! それにセカンドおじさん、こんなに貰えないよ! シャーリーの小遣い三年分だよ! はわわわ」


 てんやわんやしている親子に、感じるはずのない頭痛を感じ始めたセカンドだったが、このままでは収集がつかないので、親子の反応は無視して話を先に進めた。


 「とりあえず部屋に案内してくれ。明るいうちに王都を見て周りたいからな」


 「私が案内します! ほら、お父さんは夜ご飯の食材の買い出しに行って! 久しぶりにご馳走を振る舞えるチャンスなんだから!」


 「わ、分かったよ、シャーリー」

 

 "はわわわ"していたシャーリーが正気に戻り、父親を買い出しに行かせたかと思うと、すぐにセカンドの手を取り部屋まで案内を始めた。


 階段を登った先は、意外にもきちんと掃除が行き届いており、隙間風以外は文句のつけどころもなかった。

 

 「セカンドおじさん! ここの部屋を使ってね! さ、寒かったら言ってね……お、お布団いっぱい持ってくるから! で、ではごゆっくり!」


 そう言うとシャーリーは急いで部屋から出て行ってしまった。

 

 案内された部屋はベッドが一つあるだけの簡素な部屋だった。


 「何も全額差し出す必要はなかったのでは? この後も何かと入り用でしょうに」


 誰もいなくなった事を見計らって出て来たピリンキが、やれやれと言った感じでそう言い放つ。


 「いいんだよ。それよりこれからどうするかだな」


 「どうするも何も、既に心は決まっているのでしょう? 私としては調べてから入る事をおすすめしますがね」


 長い付き合いのピリンキには、セカンドがこれからどうするかは既に予想がついている様だ。


 「まあな。それに、晩飯までにはまだ時間があり余ってるからな」

 

 そう言った後のセカンドの動きは早かった。

 すぐに部屋を出て、シャーリーに『出かけてくる』と告げると、【塔】に向かって移動を開始した。


 「しかし、あの【塔】と言うのは王都の中心に添えるほど重要なものなのでしょう? 初顔がすんなりと入れて貰えるとは思えませんが」


 「なに、百聞は一見にしかず……だ。行けば分かるだろ。いざとなったらステルス状態でこっそり……な?」


 『やれやれです……』と嘆くピリンキの機嫌は思ったより悪くはなかった。

 恐らく、未知の情報を解析できる機会が早まった事にピリンキも喜んでいるのだろう。


 それからセカンド達は、物珍しい品物達の出店に目を奪われつつ歩くこと数十分、遂に目的の【塔】に到着した。

 しかし、セカンド達には都合が悪い事に【塔】の入り口を守るかの様に、とても大きな建物がデカデカと存在していた。


 「やれやれ。ピリンキ、お前の悪い予感が当たったな」


 「まぁ、私はドローンで見たので知っていましたがね。どうやら建物を経由しないと塔の中には入れない様になっているみたいです。どうしますか?」


 『とりあえず建物の中に入ろうぜ」と言ってセカンドは勢いよく扉を開けた。

 

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