第8話
三馬鹿の姿が見えなくなってから更に三時間ほど歩いて行くと、巨大な円形の外壁に囲まれた大きな都市がハッキリと見え始めた。
どうやら、セカンドとピリンキの目的の【塔】は都市の中央に立っている様で、まるで【塔】が都市を守っているかのような幻想的な光景だった。
「でもこれじゃあ、他の国に攻められたら目標はここにありますって言ってる様なもんだな」
「恐らくですが、それを補っても余りある利益があるのでしょうね。これは
『だといいんだがな』とピリンキに返したあと、セカンド達は再度都市に向かって歩き出した。
「そうだピリンキ、この国に入国審査みたいなのはあるのか? 一応身分証はあるが、この星では使えないだろうしな」
「問題ありません。入り口の兵士に少しばかり握らせれば、素通り出来るみたいです。商人などは荷物の検閲などがあるみたいですが」
『この国のお金を持ってない俺達には問題大有りだろうが……』とセカンドは思ったが、優秀なピリンキさんがそんな事を見逃すはずは無いなとすぐ我に帰った。
案の定、ピリンキは身体の中から硬貨が入った小さな布袋を取り出して、セカンドに投げ渡して来た。
「仕事が早いな。どこで手に入れたんだ? ずっと一緒にいたのに気づかなかったよ」
「ええ、丁度誰かさんが寝ている時にドローンが届けてくれましたよ。探せば落とし物はどこにでもあるものです」
『なるほどな』と呟きながらセカンドは渡された布袋を開けて中身を確認した。
中には金銀銅に分かれた三種類の硬貨が入っていたが、見ただけで価値が分かりそうな数字などは刻まれていない様だった。
そうこうしてるうちに目的の王都の入り口が見え始め、同じく王都に入ろうとしている長蛇の列にセカンドとピリンキも紛れ込んだ。
「さーて、やっと着いたな。ピリンキ、お前は目立つからリスにでもなってポケットに隠れとけ」
ピリンキは、セカンドが言い終わる前に身を隠していたようで、既に影も形も見えなくなっていた。
「意外に列が捌けるのが早いな。この国の兵士は優秀なのかもな」
「戦闘力は分かりませんが、賄賂を貰う様な軍属がまともであるはずがありません」
「まぁな、下は上を見て育つものだからな。これはこの国の政治には期待できそうもないな」
『ですね』とピリンキが言い終わるや否や、いつの間にかセカンド達の番が来ていた様で、不機嫌な兵士の怒鳴り声が飛んできた。
「おい、貴様! 何をぼさっとしている! 早くせんか!」
その乱雑な態度に少し苛立ちを覚えるが、ここで騒ぎを起こす訳には行かないのでグッと我慢する事にした。
「すまんな。なにせこんな国に来るのは初めてだったから慣れなくてな。ああ、それと身分証なんて高尚なもんは持ってなくてな、握手で勘弁してくれ」
そう言って握手を求めるセカンドに、兵士は最初
「ふん、田舎者にしては殊勝な心掛けじゃないか。通ってよーし! 次ぃ! ほら、ぼさっとするな!」
偉そうな兵士の興味はもう次の標的に移ってしまった様で、既にこちらを見てもいなかった。
「楽でいいと喜ぶべきか、こんな雑でいいのかと嘆くべきか……。まぁ、俺には関係ないか。それでこれからどうするよ? ピリンキ」
セカンド達が怪しまれない様に小声で喋りながら潜った門の先は人で溢れかえっていた。
動こうにも目的地がないセカンド達はどこに行けばいいか分から無い様子だ。
「まずは宿を探しましょう。……と言っても情報が無いので、どこが良い宿かもわかりませんがね」
「まぁ、なんとかなるだろ。とりあえず動こうぜ」
しかし、そう言ってセカンドが歩き出そうとした瞬間、怒声をぶつけられると共に誰かが足にぶつかって来た。
「しつこいぞ! 案内は間に合ってるって言ってるだろ! この浮浪児め!」
「ご、ごめんなさい……。うぅ……」
みると、見知らぬ中年が十歳くらいの子供を蹴飛ばして去って行くところのようだった。
セカンドは、その子供の上着を掴んで立たせると、子供を鋭い視線で睨みつけた。
「おい、ガキ。俺の足にぶつかるなんていい度胸だな。お詫びに良い宿まで案内しろ。お小遣いやるからよ」
「うぅ……ゆ、許して……え? いいの? お金くれるの?」
セカンドは『だからそう言ってんだろ』とぶっきらぼうに言った後、服についた土を丁寧に払ってあげていた。
「ほら、おんぶしてやるから乗れ。人が多くてあれだからな……ほら迷子になっちまうだろ? 俺がな」
「ふふふ。おじさん、見た目はダサいけど良い人だね! 案内は任せてよ! 良い宿をしってるんだ! あっちだよ!」
『おじ……ダサい……。見た目は二十代後半で止まってるんだがな……』と呟いたセカンドの嘆きは、案内人の少女には残念ながら届かなかった様だ。
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