第7話
「ふーん。この先にはなんだか王国の王都があるのか」
ピリンキに起こされたばかりのセカンドが朝食を作りながら三馬鹿から話を聞くと、この街道の先にはツェン・ペェーラ王国の王都が存在してるらしい。
「違いますよアニキ! ツェン・ペェーラ王国です! ツェン・ペェーラ!」
「おお、すまんすまん。それでそのチンピラ王国にはエルフなんかもいるのか? それと人口はどれくらいなんだ?」
焼き上がったばかりのパンとソーセージを皿に乗せて三馬鹿に振る舞いながら矢継ぎ早に質問をしていく。
「ありがとうごぜぇやす。エルフですか……そうですね流れの【
「そうっすね。他種族なんか滅多にみないっすから。あと人口ってなんすか? それも美味いんすか?」
「馬鹿野郎、人の数の事だサブノーリト。確か十よりは多かった気がします。へへ、実は俺十までしか数えられないんです」
三馬鹿の頭の悪さに眩暈がしてきたが、唯一【
「ヤスが今言った【
「えっ!? アニキ……一体どこの秘境から旅して来たんでやすか?」
「そうっすよ……。攻略者達が登る場所は一つ……いや七つっすよ!」
「そうですアニキ。あの天高くそびえる【星降りの塔】です」
ハチベェが指差す方向を見ると、雲を突き抜かんとばかりに巨大な塔が高々と聳え立っていた。
「凄く高い塔だな。昨日はお前らのせいで全然気づかなかったよ。それで、あの塔には何があるんだ?」
「へい……これは噂に聞いた話なんでやすが、中には目も眩む様なお宝や非常に強力な武具があるとかないとか」
「それだけじゃないっす! 神話の時代の魔道具や貴重な魔導書も発見されたとか!」
神話の時代やら魔導書やら、心を震わす様なワードに少し気持ちが昂るが、すぐにそれはなりを潜めた。
「おいおい、そんな子供騙しみたいな話を素直に信じると思うなよ。証拠はあるのか証拠は」
セカンドがそう催促すると、三馬鹿達は困った様な顔をして顔を見合わせたあとに、自分達の痛々しい身体を披露し始めた。
「残念ながら証拠はありません。俺達は夢破れて
ハチベェが右脚の義足を取り外しながら神妙な面持ちでそう告げた。
「へへ、俺は左手をバッサリでやすよ。まぁ、もう慣れましたでやすけどね」
そう言ったヤスの目は笑ってはいなかった。
「オレは……そんな二人を見てると涙がとまんねぇっす……ププッ、プブォ!」
突然笑い出したサブをヤスとハチベェがぶん殴った。
どうやら二人が手足を失った原因は、塔の一階にあった宝箱に擬態したミミックと言う化け物に噛みちぎられたからだそうだ。
「テメェ、サブノーリト! 笑うんじゃねぇでやすよ!」
「そうだそうだ! 元々はお前が焚き付けたんじゃねぇか! なーにが、『伝説の武器の気配がする……』っだ! ただのミミックじゃねぇか!」
「だ、だってよぉ……あん時のお前らときたら間抜けにも程が……グハァ!」
再度笑い出そうとしたサブを二人がボコボコにし始めた。
「まぁ、落ち着けよ二人共。それにサブ、お前は健康体なんだろ? なのになんでお前は街を離れて盗賊なんかやってんだよ。それに
「まぁ……そうなんすけどね。でもこいつらとは腐れ縁なんすよね。ガキの頃から何をするにも一緒だったんで……まぁ、その……いいかなって」
セカンドの質問に顔を腫れ散らかしたサブが恥ずかしそうにそう言った。
「サブノーリト……。殴って悪かったでやすよ!
「俺もだ! 死ぬ時は一緒だぜ!」
「や、やめろ! 離せ! 抱きつくなっす!」
まるでB級映画の様な感動シーンを繰り広げている三馬鹿をよそに、セカンドとピリンキは今得た情報を考察していた。
「仮にあいつらの話が本当だとして、過去にこういった惑星が発見されたデータはあるか?」
「いいえ。宇宙の半分を支配しているカイゼル帝国のデータバンクにはその様な情報はありません。恐らく、秘匿されているか発見されていないかのどちらかでしょうね」
『そうか……』と返したセカンドの興味はすでに【塔】にある様で、どこか心ここにあらずの状態だった。
「とりあえずこんな所でダラダラしててもしょうがないな。あいつらが言ってたチンピラ国の王都とやらへ行ってみようぜピリンキ。あっ、お前らちょっとこっち来いよ」
今だに抱き合っていた三馬鹿が小走りでこちらにやって来た。
「どうしたんでやすか、アニキ」
「もう行っちゃうんすか!」
「すっかりお世話になってしまいましたな」
短い付き合いだが根が悪そうには見えない三馬鹿を、セカンドはいまいち嫌いになれないでいた。
「まぁ、出発するにはするんだがな。最後にお前らに聞きたい事があるんだ。お前ら、俺以外に人を襲ったり殺したりした事があるか? あるならここでお別れだ」
その質問への三馬鹿の返答はとても素早いものだった。
「襲ったことはあるでやすが、殺した事はないでやす!」
「そうっす! しかも他の二人が使いもんにならねぇんで全部返り討ちにされましたっす!へへっ」
「逆にりんごを恵んで貰った事もありましたなぁ。あれは美味かったです」
三馬鹿の予想を外れる返答に少し呆れつつも、まだ落ちるところまで落ちていなかった事を喜んだ。
「そうか。ならヤスとハチベェにはこれをやるから飲め」
セカンドがリュックから瓶に入った錠剤を取り出すと、一粒ずつ二人に手渡した。
すると二人は少しの迷いも無く錠剤を飲みこんだ。
「アニキ、飲みましたでやすが……な! て、手が! な、なんかおかしいっす!」
「俺の足も! なくなったはずの足の感覚が! があぁぁぁぁ!」
「ど、どうしたんだよ二人共! ア、アニキ! 一体何を飲ませたんすか!」
セカンドが飲ませたのは、とある惑星にいた爬虫類から抽出したエキスを元に作られた【再生薬】だった。
この【再生薬】は短い時間で失った部位を再生させる事ができるが、流石に一瞬で元に戻る事は出来るはずもなく、更には膨大なカロリーを消費するため、再生後は大量の食料を接種する必要があるが、人類には夢の様な薬だった。
「今のは、無くなった手足を生やす……秘密の薬さ。生え切るまでもう少しかかるからな。サブ、お前はちゃんと見張っててやれよ。あと食料を置いてくからあいつらに食わせてやれ。それじゃあな……。あっ、それとな! もう二度人を襲ったりするんじゃないぞ!」
少し恥ずかしそうに早口でそう言い切ったセカンドは、振り返る事無くその場を立ち去る事にしたようだ。
「ま、待ってくれよアニキー! アニキー!」
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