第4話
「見渡す限りの森だな……。おっ、来たかピリンキ。とりあえずMap情報を俺にインプットしてくれ」
少しも悪びれる様子のないセカンドに若干呆れつつ、蚊の姿に変わったピリンキはいつもよりも高速で回転した針をセカンドのおでこにブッ刺した。
「いきますよ」
「ま、待て待て! いつもはそんな高速じゃ……アババババ!」
普段なら1秒もかからず終わる作業を、ゆっくりと時間をかけて復讐を終えたピリンキは、溜飲が大幅に下がったようだ。
「完了です。この惑星の全ての調査はまだ終わっていませんので、この大陸周辺の地形情報と現地民の言語情報をインプットしました。その結果、いつもより激しくなってしまいました」
「いやいや、これより膨大な容量をインプットしてもこんなに激しくなかっただろが。それより人里まで遠いな。まぁ、ゆっくり行くか」
セカンドは、中型星間遊泳機ニンジャを安全な場所に隠すには場所が限られているため、秘境も秘境……何がいるかも知れない大秘境に着陸したピリンキに文句を言う事はなかった。
「飛んで行けばすぐ着きますよ。それとも歩いて向かいますか?」
「そうだな……。それも悪くないな」
セカンドの予想外の返答にピリンキは、一瞬思考がフリーズしたが、すぐに正常に戻した。
「セカンド……。あなたも見た通り、この星の生物は情報に無いエネルギーを使う可能性があります。無駄な接敵は避けるべきです」
「馬鹿だな、ピリンキ。情報がないから集めに行くんだろ。よし、行くぞ!」
『馬鹿……私が馬鹿……』と繰り返し呟くピリンキを残して、セカンドは勢いよく駆け出した。
しかし、駆け出した先は断崖絶壁になっており、崖から飛びしたセカンドは重力に逆らえずに落ちて行った。
「アババババ! ピ、ピリンキ!」
「……情けなくて涙が出ますね。地球最後の
大鷲の姿に変わったピリンキが足でセカンドを掴んで飛びながら、延々と説教を繰り返す。
「しゅ、しゅまん。どうにもこの惑星に来てから感情の抑制が……」
「言い訳は後です。11時の方向に複数の生体反応を検出。30秒後に接敵。一応戦闘の準備をして下さい」
ピリンキの警告に顔を上げたセカンドの目には、大きな翼を携えた小型の竜の群れがこちらに向かって高速で飛翔してくる姿を捉えていた。
瞬時に戦闘モードに切り替えたセカンドの体の表面が黒いナノテクスーツに覆われ、手には愛銃の【テュポン】が握られていた。
「セカンド、超広範囲滅殺重砲【テュポン】では威力が強すぎます。イタズラに殺しては生態系を崩す恐れがあるので、なるべく気絶に留めて下さい」
「……了解」
セカンドがそう一言言うと、【テュポン】を手の中に収納すると、先程とは一回り小さな銃を取り出した。
「セカンド! 前方から多数のエネルギー反応を検出! 何かが飛んで来ます!」
「おお! 魔法か! 魔法なのか!」
焦るピリンキとは反対に、セカンドは興奮が冷めやらぬ様子だった。
そして、目の前に相対した翼竜達が翼を大きくはためかせると、半透明な風の刃が数十発と発射されセカンド達を襲った。
「回避不能──擬似MAGIフィールドを展開──成功」
すかさずピリンキは小規模ながらにMAGIフィールドを展開し、翼竜達が放った風の刃から身を守った。
「擬似とはいえ、MAGIフィールドに傷をつけるか……。ピリンキ! 【エア】を放つ! 反動を軽減してくれよ!」
セカンドはピリンキの『了解』の言葉と共にチャージを完了した超圧縮空気砲銃【エア】を翼竜達の中心に向け発射した。
巨大な空気の塊を高速でぶつけられた翼竜達は、吹き飛ばされる者や直撃して落下する者が多数でたお陰で、もう群れとしての
唯一被害を免れた数頭も急いで逃げ惑う始末だ。
「セカンドにしては最良の結果と言えるでしょう。一応、落下した翼竜の様子を見に行きましょう。良い検体が手に入りそうです」
「何が『セカンドにしては最良の結果』っだ! 俺はこれでも近代の
セカンドの文句を『はいはい』とかわしながら、ピリンキは森の中へと降りて行った。
そして嬉しい事に翼竜の姿はすぐに見つかり、ピリンキ達は翼竜のすぐ側に着陸した。
「近くで見ると、先程より大きく感じますね。しかし、こんな質量の生物が飛び回れるのが不思議でなりません」
「馬鹿だなピリンキは。そこはほら、魔法の力で飛んでんだろ。それよりこいつら保存していいよな? カプセル投げちまうからな」
『馬鹿? これで2回目です……セカンドには一度痛い目に……』とブツブツ言うピリンキに構わず、セカンドは背中に背負っていたリュックから小さなカプセルを取り出すと、息絶えていた翼竜達に向かって投げ始めた。
するとカプセルが触れた瞬間に、翼竜達の体が光の粒子に変わりカプセルに吸い込まれてしまった。
「流石は地球最後の発明と謳われた【カプセルホイホイ】ですね」
「ああ。何回聞いても原理は分かんなかったけどな。ある物は使わにゃ損だからな」
「仕方ありませんよ。セカンドは戦闘にだいぶ容量を取られていますからね。しかし、安心して下さい。貴方の足りない部分を補うために私がいるのですから」
『はいはい。頼りにしてますよ』と言いながら、セカンドはそのまま徒歩で森の中へと歩き始めた。
「本当に歩いて行くのですか? 非効率すぎて涙が出ますね」
「いいだろ別に。急ぐ旅でもないんだから。ほら、冒険が俺達を待ってるぞ」
『待ってませんよ』と言いながらもセカンドの後を渋々とついて行くピリンキだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます