第3話


 虹色の何かに呑まれた中型星間遊泳機ニンジャは、見た事もない惑星の重力に引っ張られて、今まさに大気圏に突入しようと落下を始めようとするところだった。


 【警告 警告 MAGIフィールドを展開して下さい】


 コントロール室から繰り返し鳴らされる警告音によって再起動に成功したピリンキは、すぐにMAGIフィールドを展開し、全てのチェック項目の確認を終えた。


 「セカンド、セカンド。起きて下さい、セカンド」


 だらしない顔でスヤスヤと寝ていたセカンドは、ピリンキの容赦ない電気ショックで覚醒させられた。


 「アババババ! ピ、ピリンキ! 起きた! 起きたから! たくっ……痛くはねぇけど変な感じがするから、やめろって言ってるだろ……」


 「すみません。あのまま起きるのを待っていたら何年かかるか分からなかったもので。それよりこれを見て下さい」


 ピリンキによってコントロール室の大画面に映し出された光景にセカンドは、超人力機械兵士サイボーグになってから抑制されていた感情が、とても大きく揺れ動くのを感じていた。


 「見渡す限りの大海原おおうなばら……まるで地球みたいに美しいな……」

 

 「そうですね。それより既にナノテクドローンを各地に飛ばして大気や地形などの情報を集めています。何処に降りるかはその情報を解析してからにしましょう」

 

 「それよりってお前……。せっかく人が数十億年振りの感傷に浸っているって言うのによ」

 

 ピリンキは更に『そうですね』と言いながらドローンによって得た情報を解析しているところだった。


 そのまま数時間が立ち、景色を見るのにも飽きたセカンドがまた眠りに落ちそうになった時にピリンキが声を上げた。


 「セカンド。大体の解析が終わりました。酸素濃度や重力などは、地球とあまり変わりはありません」


 「それはなによりだな。生態系はどうなってる? これだけの星だ、他の宇宙移民から目をつけられてもおかしくはないぞ」

 

 しかしピリンキは、セカンドの質問に答えるのを少し躊躇しているようだった。


 「今ある情報の中には他の宇宙移民の痕跡はありません。それより現地の生物ですが……」

 

 「なんだよピリンキ。お前にしては歯切れが悪いな。現地の生物がどうしたんだよ、人類くらいはいるんだろ?」


 動物型ロボットであるピリンキは今、猿の見た目していたが、それを龍の形に変えながら再度話し始めた。


 「現地にいるのは……物語に出て来そうなエルフにドワーフ、それに獣人に魔人、更には小さなハーフリングと人間、それに加えてドラゴンや様々な怪物達が生息している様です」

 

 『はい?』と返事をしたセカンドの思考はショートし、それ以上考える事を放棄したようだ。


 「ピリンキにも遂にバグが発生してしまったか。待ってろ……今初期化してやるから……アババババ! 電気ショックはやめろ!」

 

 再度猿の姿に変わったピリンキがコントロール室の大画面に映像を流し始めた。


 「これを見れば嘘ではない事がわかるでしょう。それより、私をバグが発生する様な旧世代のポンコツと一緒にするのは許せませんね」


 セカンドは心にもない『ごめんごめん』を繰り返しながら、流れている映像を食い入る様に見つめていた。


 映像には武器を持ったエルフ達が、迫り来る蛇の化け物に立ち向かっている姿が映し出されていた。


 エルフの手や杖からエネルギーの塊の様な何かが発射され大蛇の化け物を怯ませた。

 そして剣を持った一人のエルフが人間離れした跳躍を見せながら剣を振りかぶると、光り輝いた剣身が大蛇の頭部を胴体から見事に切り離した。


 「うぉ! 今のは何だ!? 噂に聞く魔法か! 魔法なのか!? どうなんだピリンキ!」

 

 「落ち着いて下さい。今はまだ、情報が足りません。しかし、とてつもないエネルギーが観測された事は確かです」


 その後も『すげぇすげぇ』しか言わないセカンドを尻目に、ピリンキは着陸の準備に入った。


 「おっ、降りるのか?」

 

 「はい、丁度よくニンジャを隠せそうな大穴を見つけましので。セカンドは準備を完了して戻って来て下さい」


 『了解』と言い残して部屋を出て行ったセカンドを見送ったピリンキは、すぐに着陸体制を整えて着陸予定である大穴へと突入して行った。

 

 大穴の中は既にナノテクドローンによって調査されており、中には小さな虫や蝙蝠くらいしか居ないと判明していた。

 

 「着陸時のチェックリストを確認……オールクリア。ステルスモード解除。……着陸成功。これよりニンジャは省エネモードに切り替わります」


 全ての作業を完璧に終えたピリンキは、猫の姿に変わり、準備を終えて急ぎやって来るであろうセカンドの到着を待っていると、不意に外からの無線を傍受した。


 「ごめんピリンキ。待ちきれなくて外に出ちゃったわ。ピリンキも早く来いよ」


 『まったく……』と言いながら出口へと向かうピリンキの顔には、機械に出るはずのない青筋が浮かんでいるようだった。

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