第14話 新しい出会い。
全部が終わって最初の土曜日。
私は生まれて初めて真剣に洋服を選んで朔間ちゃんのマンションに向った。
……って言っても、部屋までエンジェルンに変身してもらって飛んで行ったから感慨深さはなんとなく薄くなっちゃった気がするけど。
それでも、生まれて初めておめかしして、生まれて初めて友達の家に行った。十七年間一度もできなかった友達の家に。
《だっ、大丈夫かな!?私、変じゃない!?》
「あぁ?何回聞くんだよ。クソだせぇって言や満足か?」
《や、やっぱり!!》
「だーークソ!そうじゃねぇってのバカ!」
友達同士で遊ぶ時でも何かこう、服装のルールとかあるのかなと思って急に不安になってくる
だから朔間ちゃんの部屋から少し離れた上空でエンジェルンに最後の確認をしたんだけど…ダメって言われて一気に自信が無くなる。
良いのかな、ホントに良いのかな……!?!?
「……沙那!!!」
「!!」
そんな風に不安がっているとマンションの方から私を呼ぶ声がした。
声の主はもちろん朔間ちゃんだ。
「みんな来てる。早く、沙那!」
「おう!今行く!!」
ベランダから身を乗り出し気味に呼ばれ私の代わりにエンジェルンが返事を返す。
それが聞こえたらしい朔間ちゃんは一度だけ大きく手を振ると部屋の中に戻っていく。
「つー事だ。せいぜい笑ってもらえ」
《え…えぇ!?》
「っは!楽しみじゃねぇか」
《全然だよ!?》
いやらしく笑ってベランダに向い飛行を始めたエンジェルンは私の声なんて聞こえてないと言いたげに速度速めに向う。
「…っと。到着だ。そんじゃ交換するぜ」
「うん…。ありがとう…」
結局、今更服装をどうする事も出来ない私はエンジェルンがベランダに降り立ったタイミングで大人しく主導権を貰った。
下を向いたまま。
ーーうぅ……。嫌われたらどうしよう……。
ぶり返して来た不安で少しだけ足が竦む。
本当にこの格好でよかったのかとか、一方的な友達宣言を嫌がってるのかなとか、昨日の夜からずっと考えていた心配事が頭の中を過って腰が引けてしまう。
やっぱり、やめた方が良かったのかな……なんて考えた瞬間だった。
「沙那!!」
「!?!?」
何かが私のお腹に目掛けて飛んできて、そのまま成す術無く体勢を崩してベランダの手すりに頭をぶつけた。
「う…くぅ……!」
さ、最近ボロボロになった身体と入れ替わったりしてたから耐性が付いたりしたのかななんて思ってたけどやっぱり痛いものは痛い…!
何がどうなったの…?
「あ、ご、ごめん!打ったのは頭!?怪我は…!」
状況を理解するために何とか目を開けて飛んできたナニカを見てみると、それはすごい顔で泣いている朔間ちゃんだった。
鼻水まで垂らしている彼女の顔は学校で男女関係なく絶大な人気を誇る帰国子女美少女とはとても思えない。
「だ、大丈夫。大丈夫だよ…?だから、ちょっと…退いてほしい、かな」
「あ、ご……ごめん…」
後頭部に残る少しだけ鋭い痛みと、腹部にあるけっこう鈍い痛み…というか重み。
話すのも少し苦しいから退いてもらえるようにお願いしてみたんだけど、その途端に悲しそうな顔に変わったからなんとなく悪い事をした気分になる。
「…ちょっとびっくりしちゃっただけだから、急にじゃ無ければ大丈夫だよ?」
そのお詫びとというか、ポケットに入れてたハンカチで朔間ちゃんの鼻を拭いてあげた。
「…う、うぅ……!沙那ぁ!!」
「!?!?」
そしたらまた朔間ちゃんは私の胸に飛び込んで来た。
「ねーねー!!いつまで百合?っていうの?見てればいいの~?」
朔間ちゃんの二度目の突進に今度は手すりの下にある壁に頭をぶつけた私は、家の中から聞こえて来た声に意識を取られる。
反射的に向けた視線の先にいたのは空色の髪をしたボブカットの元気そうな子。
群青色の瞳が爛漫に輝いていて真っ白な肌に白いワンピースが似合ってる。びっくりする事に朔間ちゃんにも負けないくらいの美少女だ。
朔間ちゃんが明確に勝ててないのはおっぱいの大きいさだけかも?
「あ……ちょ……今は……」
「ん~何で~?」
小首を傾げているその子を止めるつもりなのかもう一人の子が慌てた様子で出てくる。
褐色の肌から明るそうな印象を受けたけど、濃い青色の髪で右目が隠れていたり膝くらいまで丈のあるぶかぶかの黒いパーカーを着ていたりでなんとなくアンバランスな雰囲気の少女だ。
心なしか声も暗い雰囲気があった気がする。
「な、なんで……って……それは……くふぅん…」
「???ナルちゃんって変の~」
「あふぅ!?ひ…酷い……」
何が何だか分からないまま部屋の中での話は褐色の子がへなへなと倒れる事で終わる。
……というか、話をする前に一方的に撃沈した……?
「…あの子達は……?」
状況が飲み込めないまま取り合えず朔間ちゃんに尋ねてみる。
見た目からして二人とも日本人っぽくなかったからもしかしたら朔間ちゃんの以前の学校での友達とか…?
「…ナルとアンシア・ソリーフィム。褐色の子がナルで、ワンピースの子がアンシア」
「…もしかして?」
なんて、おかしな疑問をようやく泣き止んでくれた朔間ちゃんが否定してくれた。
「そう。ナルがスペシャルン、アンシアがメンタルンの魔法少女なの」
教えてもらって納得する。
それはそうだ。エンジェルン達が決めた約束の日に朔間ちゃんが関係の無い人を呼ぶはずが無いんだから。
だから今の二人は必然的にステッキの持ち主……あの日助けに来てくれた子になる。
「…ごめんなさい。少し取り乱してしまったみたい。さ、中にどうぞ?沙那」
鼻水まで垂らしていたさっきとはまるで変って普段通りの美しさを取り戻した朔間ちゃんは先に部屋に入りながら私に右手を差し出す。
……手を乗せろ、って事かな?
「あ、ありがとう、朔間ちゃん」
海外で言うエスコート?に従って朔間ちゃんの右手に私は左手を乗せた。
すると朔間ちゃんはしっかりと私の左手を握ると輝かしささえ覚えてしまうような綺麗な笑顔を浮かべて私を見た。
「アリファでいいわよ。私と沙那は…友達同士なんだから」
どこか恥ずかしそうにそう言いながら。
「……そ、そう、だね。うん……!」
だけど、嬉しかった。
あの日、私が伝えた気持ちは間違いなく一方的で、嫌われたっておかしくない想いだった。
なのに朔間ちゃ……アリファちゃんは受け止めてくれた。それが嬉しくないはずが無い。
「これからもよろしくね、アリファちゃん!」
「アリファ、ね。それ以外は認めないから」
「…え?」
……一瞬だけ、背筋に冷たさを感じた。
「……沙那と友達になって貰えて初めて気が付いたの。私はそういう所が結構細かいって」
アリファちゃ……アリファ…に、ちょっと食い気味にし、指摘?をしてもらって一瞬背筋が凍るような不思議な感覚が私を襲う。
「あ……えっと……。頑張る」
私の返事に微笑みで返してくれたアリファ……の顔はやっぱり綺麗だったけど……
なんだろう。少しだけ間違えた気がする……?
《っは。なんだかおもしろそうな雲行きだな。頑張れよ?めんどくせぇからな、この手合いの女は》
ーーえ、え……??
「ねーねーそれより早くご飯にしようよ~。スペシャルンの料理って美味しいんでしょ?」
エンジェルンの言葉の真意を聞くよりも前にワンピースの子…アンシアちゃんの声が聞こえてくる。
「あう……!身体、揺らさないで………!」
私のせいでどのくらい待たせちゃったのかは分からないけどアンシアちゃんはかなりお腹が減っているみたいで褐色の子……ナルちゃんの両肩を掴んで激しく揺らして抗議してる。
「食べた事、無い…けど……、美味しいと思う……から!」
「えーー!じゃあ嘘かも知れないって事!?」
「くぅふぅぅ……!頭が~~!酔うよぉ~~!」
首をかくんかくんさせながらされるがままのナルちゃんは揺らすのを辞めてもらえるように必死に訴えているけど、その訴え方を間違えたみたいでアンシアちゃんは更に勢いよく揺らす。
すると一瞬でナルちゃんの雰囲気が変わり……。
「…やめろガキンチョ!!オレのは天下一品だ!安心しろ!!」
「じゃあはやく~」
「ちったぁ驚け!!急に入れ替わったんだぞオイ!!あと揺らすんじゃねぇ!!」
彼女の行動にとうとう我慢できなくなったのかスペシャルンが出て来てアンシアちゃんの肩を鷲掴みにするけど結局揺らすのは辞めてもらえなくて……。
「おおお!この野郎!!やめろってのに!!」
「あっはっはっはっは~!!楽し~~~!」
二人で揺らし合うっていう新しい遊びが始まってた。
「…あ、あははは。なんだか大変な事になってるね…」
「そうね。…でも、こんな風に賑やかなのは好きなの。……初めてだから。同じくらいの子とこうして集まるのは」
「そう…なんだ。……実は、私も、なんだ」
わけの分からない二人の様子を見ていて私達は示し合わせたわけでもないのに顔を見合わせる。
それがなんだかおかしくて笑いが込み上げて来た。…これも示し合わせたわけじゃないのにお互いに。
「…さ、このままじゃ本当にアンシアは何するか分からないし、ご飯にしましょう。材料は沢山あるの」
「そうだね。エンジェルンが認めるくらいなんだし楽しみだなぁ」
《あ?他人褒めるのが珍しいって言いてぇのか?》
ーーうん。
《…ま、否定はしねぇが……。祝いの席じゃなきゃ小突いてたっての、忘れんなよ」
ーーは~い。
《……なんか図太くなってやがんな、こいつ》
「…沙那?」
「うん。今行くね、アリファ!」
アリファに呼ばれて急いでみんなのいる方に向かう。
……初めてかも知れない。
今みたいにエンジェルンと話せたのは。
あんな風に対等にっていうか、同じ感覚で話せたのが初めてだったかも知れない。
何だろう。今く言えないけど、なにかが変ったのかな?私の中で、何かが。
《……っは。一言二言言い返せただけでそれじゃ先が思いやられるな。全く》
…うん、そうなんだけどね。
そうなんだけど、私にはとても大事な事のような気がする。
ーーだから、エンジェルン。
《あぁ?》
ーーこれからも私の相棒でいてね、エンジェルン。
《………考えといてやるよ。相棒》
なんて、ぶっきらぼうに答えて素直じゃないんだから。
…この時は[可愛い]なんて思ってただけだった。
それがエンジェルンには伝わっていたはずなのに……彼女はいつもとは違って怒らなかった。
to be next story.
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