第13話 再会の喜びをやっと。
エンジェルン、メンタルン、アリファが、アリファの部屋に到着してから約三十分。
睡眠によって精神面のおおよその回復を見せたアリファは目を覚ますと事の結果を簡潔に二人から聞き、急いでマジカルンに変身し魔力通信を使ってスペシャルンと連絡を取った。
魔力消費量の激しい通信は数分で切れてしまったが、それから間もなくスペシャルンがアリファの部屋にやって来た。
「全くよぉ。マジでオレに全部投げやがって。疲れたぞちくしょう」
窓から入って来たスペシャルンは開口一番に不満を漏らす。
軍服は黒いため汚れは気にならなかったが頬には拭った跡などが見受けられたので魔法少女とは言えあの規模の証拠隠滅はかなりの重労働だったのだろう。
まだ息の合った弓使いの黒服を始末する事も含め。
「…そう言わないで。こっちはこっちで治療だったりで大変だったんだ。縫物なんて久しぶりだったよ」
「まぁそう言うこった。悪く思うなよ、スペシャルン」
「……チッ。ケガ人ヅラしやがって」
「ケガ人だっつの」
しかしベッド際でシップや傷薬の準備をしていたメンタルンの言葉を受けて渋々ながらも納得したようだった。
「にしても……。独りで挑んだとはいえボロカスだなおい」
意地の悪い笑みを薄く浮かべてそう言ったスペシャルンは壁に背を預けている包帯でぐるぐる巻きのエンジェルンを見て改めて笑う。
「うるせー。九十年ぶりの実戦だったんだからしゃーねぇだろ」
「言い訳にしちゃあ上出来だな。はっはっは」
「うるせーバカ」
そんな冗談に違いないだろうスペシャルンの悪態をエンジェルンの最後の処置を行っているマジカルンは瞳を伏せながら真摯に受け止めた。
「……ごめんなさい。私が、アリファを止められなかったせいよ」
元凶の一端として今回の一件を深刻に捉えているんだろう。マジカルンの表情に明るさは無い。
「気にすんなじゃねぇ~よ。奴らとの因縁にケリつけられたんだ。オレぁ満足だぜ」
それを見てスペシャルンはどこかバツが悪そうに頬を掻くと窓際で腰を下ろしながら今度は誤解が起きぬよう満面の笑みで答えた。
「…当然、僕もだ。それにこうして再び会えたんだ。経緯はどうあれ喜んで良いんじゃないかい?」
「……だけど」
スペシャルンに続きメンタルンも微笑み、手にしていた包帯をマジカルンの腕に巻き始める。
「わ、私は別に…!それよりエンジェルンを…!」
慣れた手つきで巻いているメンタルンに対しマジカルンは焦った表情で処置を辞めるように訴えるが当のエンジェルンは大きなため息を吐いて渋い顔をする。
「アホ。俺はもう充分だっての。いい加減お前の手当しろよ。アリファがかわいそうだろが」
「あ、アホ…!?そもそもそのアリファが貴女の処置を優先して欲しいって言ってるのよ。…まぁ、正確には花園ちゃんのだけど」
「だからアホなんだよお前らは。うちの相棒がもういいっつってんだ。いい加減加害者ヅラするの辞めろバカ」
エンジェルンの口にしていた通り彼女の処置は充分過ぎる程にマジカルンの手で徹底して行われていた。手伝っていたメンタルンが処置のし過ぎなのではと思うくらいだ。
なのでエンジェルンはいい加減マジカルンに順番を渡そうとして少々の悪口を交えて説得を行った。
「な……!?……分かったわよ。アリファが納得してくれたし私も納得したわ。……お願いします」
それが功を奏したのか、それとも普通に状況を正しく認識したのか。マジカルンとアリファは渋々頷くとメンタルンに傷ついている腕を差し出した。
「…うん、良い子だ」
「あっははは!前は今で言うギャル?ってヤツだったマジカルンがこうも淑やかになってると目を疑うな!!」
「…だね。まぁ、静かで好戦的だったエンジェルンが行き当たりばったりなのに冷静な性格になってるのも驚きだったけどね」
「そりゃこっちのセリフだ。前のお前は詐欺師紛いだったのに、今は分かりやすく良い奴になってやがるし、スペシャルンなんかマジで性格一切変わってねぇじゃねぇか。どっちも驚いたわ」
「あはは!故に特別ってな。ちょいと寂しいが変わらないでいる奴も必要だろ?」
「抜かせ」
「…仲間外れでかわいそうだね」
「あぁん!?」
マジカルンの治療を行う中、三人はかつてのそれぞれの性格を思い出し笑い合う。
「……本当に、みんなのお陰よ。ありがとう」
その中で一人、感謝に満ちた笑みを浮かべていたマジカルンはそう呟くと頬を濡らした。
「…痛くし過ぎたみたいだ。ごめんね」
「……うん。大丈夫よ。気を遣わないで大丈夫。私は今、嬉しくて泣いているから、隠す必要なんてないわ」
「…そうかい?ならいいんだ」
彼女の涙に後悔の念があるのではと察したメンタルンは、しかしマジカルンに首を振られ頬を柔らかく弛ませるとそれ以上は何も言わずに治療に戻る。
「私は……」
そうマジカルンが話し始めた時だった。
「よせよ。今更昔の事なんざ掘り返すな」
エンジェルンがぴしゃりと話を遮った。
「あん時はあん時。こん時はこん時だ。今日はこのまま帰って、後でまた会おうぜ。積もる話はそん時だ」
「…だね。僕は賛成だ」
「オレも相棒に無理言って出て来たからな。引きこもりなんだよ、こいつ。家ん中も心ん中も似たようなもんだろっつって連れてきたせいでお怒りなんだよなぁ。なにせすまほ?ってのが弄れねーから」
「んだよ、結構俺の相棒に似てんじゃねぇか。こいつも引っ込み思案で自信が無くてよ。流石に引きこもりって程じゃなねぇが、休みの日なんかは専ら部屋にいるぜ?」
「マジか。案外仲良くなれそうじゃねぇの」
エンジェルンの言葉を皮切りに最早マジカルンが何か言おうとしていた雰囲気は完全に霧散した。
それを感じたマジカルンは小さく頬を緩ませると囁くような声で言葉を漏らす。
「……ありがとう、みんな」
彼女の言葉が聞こえていなかったのか。誰もその一言には触れなかった。
けれど全員の口元が僅かに綻んでいたのは間違いなかった。
「さて!どいつもこいつも学校バックレてる状態だからな。さっさと帰るか!」
「…だね。僕の相棒も能天気で奔放なせいでちょっとだけ先生に警戒されてるからその方が嬉しい」
「オレのは年中バックレだけどいい加減うるせぇから帰るわ。次はいつ会う?」
「……今週末の土曜の十時とかでどうだ?場所はここ、アリファの部屋だ。良いよな、マジカルン?」
「勿論よ。アリファも喜んでる。二人で出来る限りのもてなしの準備しておくわ」
「飯はオレに作らせろよ。家じゃ全然できなくってイライラしてんだ」
「…君の料理か。楽しみだ」
「っし!じゃあそんなわけで!なんか変更ありゃ魔力通信で連絡!解散!」
「お疲れ様」
「…丁度君の処置も終わりだ。お疲れ様」
「乙!!」
エンジェルンの指揮の下、再集合日を決めた四人はマジカルンを残して窓から部屋の外へと出て行く。
アリファの部屋で起きた出来事はほんの一瞬ではあったが、彼らにしてみればただそれだけの時間で旧知を温めるに足るのだろう。
皆、未練さなど少しも無いままに別れたのだから。
「んじゃま、そう言う事で」
「…うん、また今度」
「じゃ~なぁ~」
アリファの家から少し出たところでエンジェルン、メンタルン、スペシャルンは改めて別れの言葉を掛け合うとそれぞれ目的地のある方向へと飛んで行った。
一人として同じ方向になる者はいなかったが、皆どこかしら足取り軽く嬉しそうだったのは寝ぼけていた沙那の見間違いではないだろう。
「…っは。大団円ってヤツだ。良かったな、沙那」
《……うん。本当に、よかった》
それなりの速度で飛行する中、二人は一言だけ言葉を交わし一先ず学校に向った。
to be next story.
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