第3話 ドワーフ

 男はしばらくポカンとこちらを見ていたが、ふと我に返ったのか、急にこちらに歩み寄る。

 そして、私の肩をがしっと掴み、また口を使わずに話しかけてくる。

 

『今のはどうやったんだ? 地竜を一人で倒せる奴なんて初めて見たぞ?』

『おいおい! レディの体に気やすく触んな! ドンタッチミー!』

『わ、わるい。申し訳ない。取り乱してしまった。俺はギュンター・ドレクスラー。ドワーフ族だ。地竜を倒していただきありがとう。あのままだと俺は間違いなく死んでいた。心から感謝を』


 ただ荒っぽい兄ちゃんかと思ったが、急に膝をつき、しおらしく謝罪と感謝をしてくる。


『ま、まぁわかればよろしい! 後なんか恥ずかしいからもう立ってね。それとさっきから声を発していないのに会話できているんだけど…………これはどういうこと?』

『ああ、これは念話だな。俺たち地下に住む者たちは、ドワーフ族に限らず皆このように会話する。失礼だが名前を教えてもらえないか?』

『ああどうも。これはご丁寧に。私はチカ・アンダーグラウンドです。地上から来た領主の娘です。多分人間だと思うよ?』


 念話か~念話ね……なにそれ?

 まぁ地下だと音が色々問題になるからそういう感じのが発達した的なことなのかな?

 考えが駄々洩れって感じでもないし、まぁ便利なのかな?

 とりあえず、私にはめちゃありがたいけど。

 あ、ギュンターが口開けてまた驚いたような顔をしている。

 ちょっと可愛いな。

 髭のせいで老けて見えるけど、なんか結構若そうだなぁ。

 ああ……ああ髭剃ってみたい……。


『ついにエルフ連合は我々を地下へ追いやるに留まらず、我ら一族をこの世から消滅させようというのか?』

『んあ? エルフ? 見たことないんだけど……。そんなんいたっけ? う~ん聞いたことすらないなぁ』

『…………人間族はエルフと同盟を組んでいたのでは?』

『えーしらなーい』


 こいつら一体何と戦ってんだよ。

 わたしゃそんな難しい話はわからんのよ。

 うちの領地は平和だよ、貧乏だけど。

 ああ……なんか色々あって疲れてきたな。

 

『温泉は見つけられなかったし、おなか減ってきたなぁ~』

『これは失礼した。今から街へ案内するので、是非歓待させてほしい。地竜を倒した勇者を放置したとあっては、ドレクスラー家の恥だ』


 色々面倒になってきて、つい考えが駄々洩れてしまった。

 気をつけなきゃな。

 

『ええ~、あんま知らない人の家についていくのはちょっと……』

『ドレクスラー家には温泉も引いているので是非風呂も楽しんでいってほしい』

『はい! 行きまーす!』


 幻想的な巨大な洞窟内をギュンターと一緒に歩いていく。

 いくつも枝分かれして道をくねくねと進んでいく。

 こりゃ一人じゃ帰れないなぁ。

 まぁ最悪上に穴開けて上がっていけばいっか。

 

 そうして30分程度歩いていくと、洞窟の壁面に人工的な門のようなものが見えてきた。

 おお…………でっかい。

 門にはギュンターと似た感じの恰好をした男が立っており、ギュンターに敬礼していた。

 ギュンターって結構偉い人なのかな?

 通り抜けると、巨大なドーム状の空間に出た。

 壁面には無数の開口部があり、人の気配に満ちている。

 中央の広場では多くのドワーフが集まって雑談したり、トカゲみたいな生き物に乗っていたり、ご飯を食べたりと、思い思いに過ごしている。

 男はギュンターと同じように上半身裸で、腕輪や首輪みたいなのをジャラジャラつけている。

 指輪を付けてる人も多く、とにかく宝飾品が好きなようだ。

 女はホットパンツかミニスカートかで、上も基本ノースリーブでとにかく露出が多い。

 褐色肌でアクセサリーも大量につけていて…………なんかちょっとギャルっぽいな。

 しかし例にもれず美形が多くて、見ていて楽しい。

 思ってたドワーフのイメージとなんか違うけど、目の保養になるわ。

 それにしても、これがドワーフたちの街かぁ。

 装飾とか凄いな。

 やっぱ器用なのかな。

 キョロキョロしながらギュンターについて真ん中の広場まで進む。

 すると、突然ギュンターが全方位に念話を飛ばす。

 

『ギュンター・ドレクスラーだ! 地竜を討伐した勇者を連れてきた!』

 

 周囲にいてたドワーフたちが一斉に私を見る。

 ちょっとまてーい! 何てことしてくれんだこいつ。

 こっちには心の準備とかあるんや。

 温泉は入れると思って気軽にホイホイついてきた私が馬鹿だった!

 これはめんどくさいことになる予感。

 あーもうみんなこっちみんなよ。

 こんな地味顔見ても楽しくないぞ。

 

『地竜は討伐されたぞ!! さあ皆の物宴会の準備をしろ!!』

『『『おおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』』』


 激しい念話による歓声で、脳が揺れるようだ。

 うへぇぇ……どうなんのよこれ。

 

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