第2話 洞窟

 私の穴掘り魔法は意外と役に立つことが判明した。

 

 うちの領地は大した特産物も無く、ただ無難に農業をしているだけの田舎である。

 それなのにここ数年、日照りが多く収穫はガタガタだった。

 そして固く乾いた土質のせいで、無駄に土地は余っているのに、中々農地を広げられるような状況にも無い。

 前世は農家の娘で、さらに本格的な家庭菜園歴20年だった私は、いつもこの領内の状況を苦々しく思っていたのだ。

 そんなときに穴魔法である!

 この魔法、世間的な評価はゴミだが、私は中々使えると思っている。

 たしかに基本的に地面に穴を掘ることと埋めることしかできない。

 だが、それを応用すれば地面を耕すこともできるし、井戸を掘ることも簡単にできる。

 加えて魔力効率が良いのか、1間程度連続で使用しても魔力はなくならない。

 おまけにすぐ回復する。

 ということで、お父様に頼んで、井戸を掘る手伝いをしたいと頼んでからは、ほぼ毎日領内中で引っ張りだこだ。

 領内のどこに行っても姫様姫様といってちやほやされる。

 人生でこんなチヤホヤされることが来るなんて想像もしていなかった。

 チヤホヤされるの大好き!


「姫様! ありがとうございます! ありがとうございます! こっちは終わりましたので、次はこちらへ! お願いします!」

「ぉぅ!」


 なんか思ってたチヤホヤとちょっと違うけども、まあ必要とされるって嬉しいよね。

 なんかトラクターとか掘削機みたいな扱いを受けてる気もするけど、たまに泣きながら拝まれることもあるので、本当に感謝してくれてるのだろう。

 もっとチヤホヤしてくれたまえ、苦しゅうないぞ。

 それにしてもこんなに毎日ドロドロになって、汗水たらして働いて……令嬢ってなんやねん!


 そうして1年ほどアンダーグラウンド領の重機として泥と汗にまみれて働き続けたある日、ふと思った。


「おんせん…………」


 そうだよ!

 温泉入りたい!

 よく考えたら井戸掘れるくらいなんだから、温泉もいけるでしょう。

 とにかくいろんなところ掘りまくれば、いつかは出るはず!

 場所何処にしよっかな~。

 家の近くの雑木林の中、温泉が出そうな場所を探す。

 1年間の穴掘り生活によって、私は土の中の状況であれば、何となくだが探れるようになったのだ。

 

「ぐーるぐるー」


 なんとなくドリルのように螺旋を描くようにして地面に魔力を通して、地下の状況を探る。

 何も無いなぁ。

 まぁ結構深く掘らないとダメみたいだし、とりあえず掘ってみようかな。


 ――――ズズズズズズズズ

 

 井戸掘りと同じ要領でどんどん穴を掘っていく。

 うーん、何も出てこないなぁ………………あっなんか抜けた。

 ん? …………うん?

 なんだか空洞が広がってる?

 何だろうこの穴。

 こんなことは初めてだなぁ。

 中どうなってるんだろう。

 気になるわ…………。

 入っちゃおうかな~。

 よし、行っちゃおう!

 

 土を埋めながら掘るという技を使うことで、エレベーターのように縦に移動する。

 体がふわっとしているので、かなりのスピードが出ているのを感じる。

 しかも途中から真っ暗で何が何だかよくわからなくなってくる。

 あっ出た。


 一気に光に包まれる。

 なんか地下なのに明るい……。

 コケとキノコのような植物が発光していて、巨大な空洞を照らしている。

 特に息苦しい感じもしない。

 目の前に広がる神秘的な光景に圧倒される。

 しばらくポカーンとしていると、遠くの方でなんだかドンドンドカドカと音が聞こえてきた。

 こっちに近寄ってきているような……。

 ぼんやりそんなことを考えていたら、音はあっという間に近くなり、目の前に突然背の高い男が飛び出てきた。


『っ!? なんだお前!? まずいな…………逃げろ!!』


 男は上半身裸で褐色の肌に燃えるような赤い髪と瞳をしている。

 そんな男が随分焦ったようにこちらを見つめ、口を開かずにそんなことを言った。


『なんか頭に直接声が聞こえるんですけど? これどうなってんだろ? どうして半裸なのよ…………って怪我してるじゃん!』

『こんなのはかすり傷だ。早く逃げろ! あいつが来るんだって!』

『あれ? 私の考え伝わってる? 何から逃げるのよ…………そもそも逃げるって何処によ?』


 ――――グォオオオオオオオオオオオオオオオ

 

 何か巨大な生き物の叫び声が聞こえたかと思うと、30メートル先に恐竜がいる。

 あんまり詳しくないけど、これは私でもよく知っている。

 ティラノサウルスとかいうやつじゃない?

 

『うわっ! でっか! こっわあああああ!』

『くそっ、もう間に合わない……下がってろ!』


 そう言うと赤い髪の男は腰に吊るしていた重そうな2本の斧を両手に構える。

 強そうではあるけども、流石にそれじゃあ恐竜はどうにもなんないじゃないかな?

 恐竜はドシンドシンとあっという間に距離を詰めてくる。

 このままだと、まぁ2人とも間違いなくパックンチョされちゃうだろうなぁ。


『ちょっとしつれい……よっこいしょ』

『はあ!?』

 

 私は男の前にゆっくり出る。

 そして、ちょうどティラノサウルスのいる位置の穴を埋めた――――。

 

 一瞬にして洞窟は塞がり、恐竜は上半身を残して土の中にグシャッという音とともに消える。

 うげっ、かっこつけてたらちょっとミスった……。

 思いがけずグロイことになってしまった。

 うわわわ…………見ないようにしよう。


『どうよ? 私って穴の中じゃ最強かも』


 折角なので、思いっきり胸を反らし、人生初のドヤ顔してやる。

 赤い髪の男は、斧を持ったまま固まって、口を開けたまま私を見ている。

 よく見ると赤い髭は若干うっとうしいが、中々のイケメン。

 190センチくらいある筋肉質な体格に、サファイアのような真っ赤な目、褐色の肌に白い魔法人のようなものが描かれている。

 中々ワイルドで…………嫌いじゃないぞ!

 でも上半身裸なのは刺激が強すぎ、ちょっと目のやり場に困るので何とかしてほしい。


『地竜をあんな簡単に…………あんた何者なんだ?』

 

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