第伍拾壱話:女工作員と内務省の因縁

「てめえは!俺の片目をつぶしたチャイナ娘!!」


写真と同じ団子ヘアーにチャイナドレス、きめ細やかな白い肌が美しいがその表情は人を小ばかにしたようで、それがすべてを台無しにしていると言っても過言ではない。


「フフフ・・・。仲間は全員捕まり、協力者のジジイも逃げたが最後にお前にまた会うとは私はついているネ!貴様の光を奪った陰魔法で、鬱憤を晴らしてやるアル!!」


少女は笑みを浮かべながらこちらに迫って来た。


俺は戦闘態勢を取ったが真紀ちゃんのお父さんに止められた。


「これはこいつと俺の戦いだ。ここまでの援護は感謝するが、これだけは俺の好きにさせてくれ!」


「わかった。真紀ちゃんのためにも死なないで下さいね。」


俺と俺の家族はその場を離れた。


―――杉村幸一視点―――


悟君とその家族が去っていくのを見届けると彼女の方に向き直った。


「さあ、これで一対一だ。この間の続きをしようじゃないか?山園優香こと王良華!」


王はにやりと笑うと紫色の魔法陣を空中でいくつも出現させてそこから無数の闇を纏った剣を召還させた。


これは3級陰魔法『影法師』、心の闇を武器として召還できる代物だな。


「望むところアル!」


王が手を振り下ろすと同時に無数の剣が私を追尾してきた。


「ほう、腕を上げて来たな。前はせいぜい5本が限界だったのに・・・だが!」


それを私は軽くかわしつつ、よけきれないものは神銀(ミスリル)弾が入ったシンナンブ2662式回転拳銃で消滅させた。


こいつは威力がある割に軽くて小さく隠し持つのに便利な代物だ。


「あの時より命中度が上がってるネ。もしかして光を奪われたのが憎くて特訓してたアルか?」


「まあな、それもあるが俺が実力不足だったせいで貴様に先輩が随分と世話になったのもあるからな。」


「フフフ、間抜けにも燦然と輝くお星さまになった先輩アルか?今思い出しても笑いが込み上げてくるネ!フハハハハハ!!」


先輩に私情を挟むなと口を酸っぱくして言われているが、こいつだけは許せねえ!!


「先輩を笑うんじゃねぇ!」


俺は腰に差した剣を抜き、風魔法『疾風』を駆使して王に切りかかった。


「遅い。」


そう彼女はつぶやくと素早く剣をかわしながら回し蹴りを入れて来た。


「ぐほぉ!」


細くて白い足からは想像できないほどの威力を腹で受け止めながら俺は倉庫の壁まで吹き飛ばされた。


「がぁはっ!」


脇腹に激痛が走ったので恐る恐る見ると、勢いで壊れた木箱の破片が脇腹を突き破っていた。そこで、王を倒せるあるものを見つけた。あとは時間さえあれば・・・。


「もうお終いアルか?」


「ま、まだまだぁ!」


そう言って俺は地面に手を置いて周囲に散らばっていた小石や木箱の破片を組み合わせてゴーレムを複数体作るイメージを行った。


すると、イメージ通りに小石や木の破片が集まり、木や石で出来た子供ぐらいの背丈をした人形の軍団が現れた。


「3級錬成魔法『囮人形』!」


「第1軍団突撃!」


「「「わー!」」」


すばしっこい動きで囮人形たちは王めがけて走って行った。


何体か倒されたが、まだ後10体もいるんだ。さばききれるかな?


「うわー!ちーかよーるなー!!」


王はあっという間に残った数体に羽交い絞めにされた。


「お、重い!あぅ・・・おい!誰だ変なとこ触った奴!!」


どうやらスケベな個体もいるらしい。うらやま・・・じゃなくて、奴が動けない今がチャンスだ!


「こいつで止めだ!」


木箱の中身の手りゅう弾を複数個持ってふらりと立ち上がった俺はそれを一個ずつ待機していた人形に手渡した。


「第2軍団突撃!目標、チャイナ娘!!」


それを合図に人形たちは爆弾を抱えて突撃した。


「やめろ!この外道がぁあああああ!!!」


「知らなかったのか?内務省の人間は目的を達成するために手段は選ばないんだぜ。」


ボガーン!


ピンを抜くのが早かったのか道中で全部爆発してしまった。


だが、すべて計算通りだ。


煙が晴れて歩みを進めると、巻き込まれた人形たちの残骸のそばでアフロヘア―になって目を回して倒れているボロボロの王の姿があった。


「あーあ、女の命が台無しだ。ま、これが因果応報って奴だぜ王良華。」


「ぢ、ぢぐじょー。」


俺はそれを見届けると、のびた彼女に手錠をかけてその場で天を仰いだ。


「ヅラの仇は取ったぜ。先輩・・・いや、部長。」


―――部長視点―――


「えっしゅ!」


私は執務中に盛大なくしゃみをした。


「部長、どうしました?風邪ですか。」


見目麗しいナイスバディな秘書が心配そうにしながら私の前にコーヒーを出した。


「いや、部下が噂をしているだけだ。コーヒー、ありがたくいただこう。」


ここだけの秘密だが、私は今カツラをかぶっている。ハゲは何となく恥ずかしいからな。


前に女工作員にカツラを『影法師』で切り刻まれた時は、ショックで3日3晩寝込んだものだよ。


「ふぇっ・・・。」


「ふぇ?」


い、いかん湯気の刺激でまたくしゃみが!


「えっしゅ!」


その時、衝撃で落ちてはいけないものが頭から落ちた。


しかもそれがよりにもよって淹れ立てのコーヒーに・・・。


「・・・すまんが、コーヒー入れなおしてきてくれるかね?後、し、新品のカツラをたの・・・む。」


「か、かひこまり・・・ました。」


秘書よ・・・必死で隠そうとしているが笑っているのがバレバレだぞちくしょー!

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