第伍拾話:直江津港にて2
校長先生は呆けた顔で俺を見ていた。
「布田月教頭に『彼女は中国人スパイに狙われている。どうしても君の家でかくまってあげてほしい!親御さんにも連絡はして許可取ってある!』とお願いされていたからそのつもりだったが、君の家族から聞いた話だと私は騙されたと聞いたんだが?」
「すでに家族が話しているのであれば話は早いですね。」
前世でも、北朝鮮の工作員に連れ去られた真紀ちゃんを布田月教頭が発見し、その場に居合わせた和田校長が助け出した。
そして、布田月教頭に安全のために校長先生の家に泊めてあげてほしいと頼んだのだそうだ。
一度は断った校長先生だが、押し負けて渋々真紀ちゃんを自分の家まで送った。
もちろん、これは教頭が工作員を雇って行った校長引きずり下ろし作戦の一環で校長先生はまんまと引っかかった訳なのだが・・・。
「・・・ええ、あなたは必ず布田月教頭に校長の座から引きずり降ろされます。女児監禁の罪をかぶせられてね。」
「たしかに、私がやっていることに違法性がある。でも・・・。」
すると真紀ちゃんのお父さんが一歩前へ出た。
「私には連絡は来ていません。先ほど私の妻にも連絡をしたがそんな電話は来ていないそうです。」
「なんてこった。じゃあ、私はこの場でお縄になるべきじゃないのか?」
「いえ、あなたはただ騙されただけですし未遂です。それに目の前に保護の許可を取る親御さんが目の前にいますよ。」
「あ、ああ・・・そうでした。」
正義感があるけどどこか抜けている。前世と変わらないや先生も・・・。
「ハハハ!むしろ、捕まってしかるべきは教頭の方です。」
「あやつ、何か罪を犯したのか?」
「魔素発生装置2台を倉庫から無断で校外に持ち出し、1台を捜査のかく乱に使うために地下鉄荻窪駅の引き込み線に、もう一つは恐らく国外に密輸することで大金を得ようとしたのでしょう。ですが、安心してください。我々が二つともすべて確保いたしましたから。」
「そうかご苦労だった。あの・・・バカが。いや、バカなのはそんな大胆な犯行を行っていたのに気づけなかった私か?奴の処遇は間違いなく懲戒解雇になるだろう。」
「和田左衛門さんはお優しい。司法だとそうはいきませんね。」
「具体的には?」
「死刑でも最も重い銃殺刑になるでしょう。」
この世界の日本ってそんな処刑方法あるんかい!
「フン、妥当だな。では、悟君。具体的に私は何をすればいいのかね?」
「まず、布田月教頭は恐らくあなたの家に現れて真紀ちゃんが居るか確認をするでしょう。その時は普通に応待すればいいだけです。」
「それだけか?」
「ハイ。」
「要は普段通り過ごせということか・・・わかった。妻にも後で話を付けておく。」
「よろしくお願いします。」
その後、校長は車で港を後にした。
「あれ?そう言えば和瑠男は?」
「奴だったら、真紀に何度も言い寄ってくるものだからここに着く前に輸送車に移したよ。屈強な男たちに囲まれて真紀が見ているところでおもらししてやがったぜ!ハハハ!!」
「アッハハハ・・・。」
なんか、前世でいろいろ俺に対して行った嫌がらせの付けがまわっているみたいだな。
「教頭先生は?」
「ああ、彼は君の言う通りわざと取り逃がしたよ。本当にあの家に来ると思うのかい?」
「間違いなく、彼は来ます。校長は約束を反故にはしませんが教頭先生は疑り深いですから。」
「しかし、惜しかったな。」
「なにがです?」
「あ、いや。こっちの話だ。今回壊滅させた工作員集団の中には因縁の相手がいたからね。俺が直々に相手したかったものだが・・・。」
「おやおや、嬉しいことを言ってくれるアルネ。」
「・・・!」
そこには、腰に手を当てて妖艶な笑みを浮かべるチャイナドレスを着た少女が立っていた。
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