第肆拾肆話:金華猫と大男(御剣椿視点)

「切り刻むねぇ・・・やれるもんならやってみにゃー!!」


勢いよくサイアムが飛び出した瞬間、私は刀に手をかけると勢いよく抜いて、魔技『千切り』を繰り出した。


「はあっ!」


・・・・・


手ごたえあり!


「・・・・ハッ!ばかめ、どこも切れてにゃいじゃにゃいか?」


「いいえ、あなたはもう切れている。」


「にゃに?!う、腕が!足が!!そん・・・にゃ、ばかにゃん!」


直後、肉塊が落ちる音と真紀さんの嗚咽の音が聞こえた私は勝利を確信した。


「さあ、残るはあなたただ一人です。覚悟しなさい大男。」


だが、男は怖気づくことなく不敵な笑みを浮かべた。


「ふっふっふ・・・。」


「何がおかしい?!」


「たった一人だと?何を勘違いしている。世界が広いことを知らぬ箱入り娘め。俺がただの猫獣人を連れてくるとでも思うたか?」


「何ィ。」


「きゃああ!!」


声に驚いて振り向くと同時に背中に衝撃が走った。


「いっつ!」


体をひねり、なんとか攻撃による傷を最小限に抑えつつ攻撃した奴に目をやると、そこにいたのは大男と同じ大きさはある全身が真っ黒なオーラのようなものに包まれた、二足歩行の猫のような1つ目の化け物が真紀さんを捕まえていた。


「化け猫!」


「その通り!本当の私は中国の猫又、金華猫(チンファマォ)さまだ!さあ、茶番はお終いだ。この小娘の体に憑りつき雇い主の虎之介様のとこまで操ってやるとしようかニャン。」


「いやっ!放して!!」


もういちど魔素を使って魔技を発動できれば!


「抵抗しても無駄ニャ、君を助けてくれる女はここで死ぬのだにゃ!」


そう言って金華猫は口を大きく開けて私に向かって空気を吸い上げた。


「なにを・・・うぐぁ!魔力を吸っているのか・・・ただでさえさっきの魔技発動で少ないというのに!」


「いやっ!やめて!」


「あぐぁ・・・。」


何とか気合で立っているが今にも倒れそうだ・・・。


「にゃっふっふ・・・どうだ動けまい?気絶寸前まで魔力を吸ってやったわ!貧血よりもつらい貧魔にあえぎながらご主人様に復讐されると良いわ!」


そう言って奴は彼女を連れ去ってしまった。


「糞・・・待て・・・。」


後ろで男の鼻息がしたと思ったら後ろに押し倒されて仰向けにされた。


「痛いっ!」


背中に受けた痛みが砂に食い込んで意識が飛びそうになる。


「グフフ、痛かろう?苦しかろう?つらかろう?俺たちに盾突いた罰だ。これから屈辱も追加してやる・・・たっぷりと味わえよっ!」


そう言って男は私の服を破いた。


「くっ、このケダモノめ!」


「いつまでそんな強気でいられるかな?何も守れなかった剣士様。」


男はゲヒゲヒ笑いながら服を脱ぎ捨てた。


悔しいがこいつの言う通り守るべき人も名誉も家柄も自分自身さえも守れなかった。


また、守れなかった・・・。我慢していた悲しみが涙とともにこみあげて来た。


「グスッ・・・誰か、助けて。」


その時、服を脱いだ男の体に黒い手が次々と巻き付いてきた。


「な、なんだこりゃ!気持ち悪い!あっちいけぇ!!」


男が払っても払ってもまとわりついてくるこの黒い手は『暗黒魔技』、麻生閣下?


いや・・・この気配、麻生さんじゃない。そういえば、これを使える人は知り合いでもう一人いたわね。


「悟・・・君?」


「待たせたな。御剣さん!」


顔だけ声がした方を向くと少し顔を赤くした悟君が立っていた。

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