第肆拾参話:お留守番中の襲撃(杉村真紀視点)

直江津港に来た私たちは早速工作員がいるという廃屋付近に来た。


「お前はここに残っていなさい。」


「悟君に私がさらわれるって言われたのを信じているの?」


もちろん、悟君のことは信じてる。だって、前世でも実際私は布田月家の取り巻きにさらわれて、校長を引きずり下ろすだしに使われたんですもの。この後世でも同じことが起きる可能性が無いとも言い切れないし・・・。


でも、だれでもこの世界で前世の記憶を持っているわけじゃないって女神さまに言われましたし・・・。確信が持てるまでこのことは誰にもしゃべれないのよね。


「ああ、お前は杉村家の大事な一人娘だ。お前が信頼している者からの助言だから無下にするわけにもいかんし、金輪際お前に変な虫を寄り付かせるわけにはいかん!」


「お父様!わかりましたわ。ここでおとなしく待ちます。」


「私は谷垣さんと一緒に行ってきますわ。お留守番ちゃんと守ってね。」


「子供扱いしないで!恐山さん!!」


「まだまだ、十分子供じゃないか・・・じゃ、行ってくる。」


「む、むう・・・たしかにそうでしたわ。」


膨れていると御剣さんが車に乗りこんできた。


「旦那様、真紀ちゃんの護衛はわたくしにお任せください。」


「頼んだぞ、御剣さん。」


「お嬢様、活躍して名誉挽回したい気持ちはわかりますがここは我慢しなくてはなりませんよ。」


「わ、わかってるわよ。みんなしてうるさいわね。」


しばらく待っていると左のドアの外からカリカリと音が聞こえた。


窓を少し開けるとにゅっと顔をのぞかせたのは日本では珍しいシャム猫ちゃんだった。


「あら、カワイイお客さん。」


「にゃー。」


「誘導ご苦労、サイアム。」


その後ろから黒のTシャツに紺色のジーパンを身に着けた身長が2メートル程あるガタイの良い禿の大男が現れた。


「これぐらいお安い御用ですにゃ。」


そういうと、その猫はくるりと1回転して黄色のインナーの上に黒を基調とした漢服を着た女性の猫獣人になった。


「サイアム、ドアをぶっ壊すからそこどけ。」


「是(ハイ)にゃ。」


「むん!」


あっけにとられているうちに私側のドアがもぎ取られ、シートベルトをしていなかったためにあっという間にその男にさらわれてしまった。


「キャー!」


「なっ、糞!待ちやがれ!!」


御剣さんが車から飛び出して目にもとまらない速さで男の膝を切った。


「啊啊啊啊啊啊啊!!!」


両足を失った男はあまりの痛みに私を放り投げた。


「きゃん!」


「お嬢様!!」


すかさず御剣さんが私のもとへ駆けよって来た。


「お怪我は?」


「へ、平気よ。ありがとう。」


「ご主人!」


「俺のことはかまうな!早く女剣士を倒して、杉村真紀を連れて仲間のもとへ!」


「わ、わかったにゃ。とりあえずこれ飲んで安静にしてるにゃ!」


先ほどの猫獣人が万能薬を渡すと長く鋭い爪をすべての指先から出してものすごい剣幕で近寄って来た。


「よくもご主人様を噛ませ犬扱いしやがって・・・。」


御剣さんも負けじと剣を構えながら猫獣人を睨みつけた。


「剣豪たる御剣家の令嬢として、これ以上失態をさらすわけにはいきませんのよ。」


「目的のために手段を選ばない日本鬼子め!ご主人様を歩けなくしたことを後悔させてやる!」


「り、日本鬼子・・・言ってくれるじゃなーい?」


明らかに御剣さんの顔がより険しくなり、持っていた剣や体全体がそばにいる私の気が狂いそうになるほどのオーラを発した。


相対している猫獣人は全身の毛を逆立てながら後ずさりした。


「ふにゃっ!こ、この殺気は想定外にゃ!!これがサムライの覇気かにゃ!?」


「ふ・・・ふふふ、誇り高き神国の人間に対して汚い口でほざく泥棒猫ちゃんは、お仕置きとしてバラバラに切り刻んで魚の餌にしてやりますわ!」

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