第肆拾伍話:悟と大男

御剣さんは服を脱いだ男に覆いかぶせられ、見るに堪えない姿になっていた。


俺は彼女の肢体をあまり見ないようにしながらも体全体が熱くなるのを感じた。


「待たせたな。御剣さん!」


「悟・・・君?」


涙目になりながらも彼女はそうつぶやいた。


暖かくなったとはいえ、そのままでは寒いだろうから上着をかけてやった。


「やい!小僧、この手はお前がやっているのか?!いったいどんな魔法だ!」


「お前に教えるわけないだろう。」


「生意気な小僧だ。ぶっ殺してやる!」


「足が無い状態でどうやって僕を殺すの?おじさん。」


「足が無くても攻撃は出来らぁっ!」


そう言って男は手だけで2m程高くジャンプして空中で俺めがけて突進してきた。


俺はとっさによけたが、ちょうどいたところに大きなクレーターが出来た。


それなのに男の拳には傷一ついていない。


「なによ・・・あのバカ力と耐久力は?もしかして、魔技『筋力超上昇』!?」


「え、そうなの?僕も使ったことあるけどあんなに衝撃あったけ?」


「へっへっへ・・・言っただろ?俺は足なんざなくても元の筋肉とこの魔技で十二分に戦える。もっとも足があればお前らなんぞ赤子の手をひねるように簡単に倒せるぜ!」


「言ってくれるじゃないか。そっちがハンデを背負って戦うのであれば僕もそうしよう。」


「何ィ?」


「御剣さんや君にもう見せてしまったから言うけど、僕は特殊魔技『暗黒導師』持ちだ。」


「な、なん・・・だと!?影を自由自在に操り変化も複製も自在にできる特殊魔技のなかでも最強格の奴じゃねえか?!それがどうした?」


「僕は戦闘中、これを一切使わない。そして御剣さん!」


「ハイ!」


「君はここを離れて僕の幼馴染を助けてやってください。それと、その・・・できれば前のボタンをしめていただけると・・・。」


彼女は顔を赤くしながら慌てて前を隠し、上着のボタンをしめた。


「わ、わかったわ!無理しないでね悟君!」


彼女はそう言うと足早に去っていった。


「大きく出やがったな。良いだろう!俺も失った足は使わなねえ、これで5分5分だな。」


まず、先に攻撃したのは大男だ。


彼は思いっきり地面を叩き割れた道路の破片にちょうど良く長いとがったものを見つけてそれを俺に目にもとまらぬ速さで突き刺そうとしてきた。


それを俺は最小限によけた後で容赦なく右腕ごと切った。


「ぐあっ!」


「これで、四肢は後一本だな。」


「ぐふぅ・・・ぐっふふふふ。そうだな!」


なんだこの余裕っぷり、違和感があるな。


彼は器用に転がり万能薬を仰向けに飲んで傷口をふさいだ。


「さあ、俺はまだ戦えるぜ!かかってこいや!!」


そう言って彼は片腕でジャンプした。


「ぶあっ!」


その時の勢いで起きた砂嵐を喰らった。


「クソッ!油断して石つぶてが目に・・・ど、どこだ!」


すると、なぜか腕が勝手に動き何かを切った。


同時に男の痛む声が聞こえた。


ようやく砂嵐が晴れたと思ったら男が達磨になって転がっていた。


「思ったより苦戦しちまった。」


「そうらしいね。しかし、完全に視界を奪ったはずだが的確に胴体を狙ってきやがった。とっさに体を捻って回避して命拾いしたぜ。」


「だが、その姿じゃ自慢の筋肉も使えないだろう・・・じゃあな、魔法が使えない狂戦士さん。」


「やったね!お兄ちゃーん!」


俺は後ろを振り向くと、恋美がこっちに走ってきながら手を振っていた。


「恋美!あまり走ると危ないぞー。」


俺が手を振り返した直後、恋美の顔が青ざめた。


「魔法が使えないんじゃねぇ。魔素が勿体ねえから使わなかっただけさね。」


後ろで声がしたかと思うと背中に嫌な衝撃が入り、俺のお腹を突き破って無くなったはずの奴の足が見えた。


俺は膝をつき黒い血反吐をその場で大量に吐いた。


「お、お兄ちゃん!!」


恋美の叫ぶ声が港中にこだました。

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