第参拾話:親殺しの狙撃手
―――狙撃手視点―――
俺は深呼吸をして気持ちを落ち着かせるために自分を鼓舞した。
「大丈夫、俺はやれる。俺はソゲキならば誰にも負けない自信がある。」
「だが、それは止まった獲物であるならばの話だ。」
意地の悪そうな顔でニヤついているのは雪女の恐山由紀子だ。
「・・・!なんだお前か。狙撃手の後ろに立つなとあれほど言っただろ?」
「後ろを警戒するのも狙撃手の仕事でしょ、谷垣英武。親を殺して奪った金で奴らの仲間入りしてもらったくせに。」
「覚えておけ由紀子、賄賂も実力の内だ。それに、もともとは俺の金だ。熊に襲われて死んだ爺さんや俺ばかり働かせておいてその金で吞んだくれる上に暴力をふるう似非マタギの両親なんざいらねえ。」
「ふーん・・・まあ、いいや。命令が出たよ、追跡班全滅だって。」
「ふん!所詮、雑魚は雑魚か。下っ端は使い捨てられるのがお似合いさ。」
「あたしたちもその中に入ってるんだけどね。」
「ぐにに・・・まあ、いい。手筈通りしっかりやれ。あと俺を敬え、一応先に入った先輩なんだぞ。」
「先輩かぁ、じゃあ私が元気になるおまじないをかけてあげる。」
「なんだ?」
「ほらー、頑張れ頑張れ先輩!頑張れ頑張れ先輩!・・・どう?元気になった?」
ジャンプするたびに、白を基調とした着物から半分露出していた双丘が揺れる。
おかげで違うところが元気になっちまったッ!
「おっ!そうこうしているうちに獲物が来たよ。」
「よ、よし!」
そそり立つ息子を隠しつつ配置に着く。ちなみに彼女は狙撃されるのを防ぐために俺がいたビルとは別のビルに移動した。
「援護、たのんだぞ?」
俺は無線で合図を送った。
[任して!]
彼女がそう言うと彼女がいる部屋から、冷気を帯びているであろう青白い玉が発射させられた。
青白い玉が道路に着弾すると道路はあっという間に凍り付いた。
――――主人公視点――――
「な、なんだ?!急に道路が!」
「せ、制御が効かん!!」
「ぐぁぁあああ!!!」
ガシャーンとものすごい音を立ててタクシーは前の車両にぶつかった。幸い、歩道に近いところに止まったので脱出できれば生き残れそうだ。
後続が追突してくる危険もあるため、俺たちは急いでタクシーから脱出した。
「おじさん!大丈夫?」
「なんの、これくらい。アフガンで目の当たりにした砲弾の嵐に比べればそよ風さ。」
そう言って最後まで残った運転手がタクシーから降りた次の瞬間、後続車が次々と衝突した。
当たり前だが、いきなり道路が凍るなど映画の世界でしか目撃しないため、対処できるものはおらず、気が付けばあたり一面が鉄のガラクタと化した車、バス、トラックであふれかえっていた。
「タクシーは後で弁償する。」
「何、気にするな。しかし、いったい誰がこんな魔法を?」
「これだけ広範囲の魔法を撃てるんだ。相手はかなりの実力を持っている・・・油断するな吾。」
「うん!」
――――狙撃手視点――――
「どう、すごいでしょ?」
こちらに戻って来た由紀子は嬉しそうに近寄って来た。
「さすがは雪女だ。あたり一面を凍らせるほどの魔法は熟練冒険者でも易々と打てるものじゃない。」
「むふー。」
どや顔をしている由紀子はまるで親に褒められた少女のように可愛かった。
それに口は悪いが俺のことをよく心配してくれる出来た女だ。
これが終わったら、俺はこいつと・・・いかん、今は仕事に集中だ!
「さて・・・。悪いな坊主、身の丈に合わないものを持ってるお前が悪いんだぜ。・・・あばよ。」
すると彼女が急に何かを察知して横に押し倒す形で俺に覆いかぶさって来た。
困惑している暇もなく彼女の体を反対から撃ってきたであろう狙撃手の球が貫通した。
「ゆ、由紀子―っ!?」
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