第弐拾壱話:ぬらりひょん

牛鬼と鵺、その他大勢の妖怪の亡骸を『無限収納』で空間にしまうと再び歩みを進めた。


これ以上能力を隠していても意味がないと思ったからだ。


それにこいつらを回収しておけば、迷宮が死骸を吸収することで魔素濃度が上がるのを少しばかり防げるからだ。


「・・・今日はなんだか驚き疲れたわ。」


「無理もないよナターシャさん。普通ではありえない出来事が次々と起きてるんだから。」


「ええ、本当に・・・そうね。」


「着いたぞ吾、ナターシャ。ここが中ボスの部屋らしい。」


目の前には大きな朱塗りの和風の門がそびえたっていた。


「父さん、ナターシャさん。僕が先に行くよ。」


「気を付けろ。荻窪迷宮は特殊だ!どんな魔物や妖怪が出てくるかわからんぞ。」


「吾さん!・・・気を付けて!」


俺は頷き息をのんでその大きな扉を押し開けた。


ギイイイイイという木がきしむ音とともに扉が開いていった。


中はまるで江戸時代の絵巻に出てくるような地獄が広がっていった。


「まさに地獄って感じだな。」


「ああ、先人たちが絵巻物に描いた地獄は恐らくこの広がる中ボス部屋に己の想像を加えたものだろうな。しかし、長年冒険者をやっているがこんなの初めて見たよ。」


「私も、やっぱりこの荻窪迷宮オカシイデス!」


「・・・!魔法陣だ。何か来るぞ!全員戦闘配置につけ!」


父さんの合図で俺たち3人は身構えた。俺と父さんが前衛でナターシャが後衛だ。


紫色の魔法陣から現れたのはぬらりひょんだった。


「ぬらりひょん・・・こいつを倒した場合確実に宝箱から神秘薬が出現するらしいが・・・まず、こいつを倒すこと自体ベテラン冒険者でも可能かどうか。」


その姿は小さい頃から見ていた某妖怪アニメで見た頭が特徴的な禿げ頭で着物を着たおじさんだ。


ぬらりひょんは、俺たちと同じように帯刀しており雰囲気もただ物じゃないオーラを醸し出している。


「・・・また、愚かな冒険者が来よったか。」


ぬらりひょんはそう言うと刀を抜いた。


また、と言うことは前に来た人たちはもう・・・。


考えているうちに刀身が紫色に妖しく光る。


「むん!」


ぬらりひょんはものすごい速さで間合いを詰めて来た。


早くて見えない!そう思った直後、剣を持つ腕が勝手に動いた。


ガキイン!


「・・・ほう、この私の剣技を受け止めるとは・・・少し骨のある相手のようだ。」


剣が俺を助けた?


「ま、まあな。」


父さんはその隙にぬらりひょんの後ろに回り奇襲を仕掛けようと剣をふるった。


「奇襲など私には無意味じゃよ小僧!」


ぬらりひょんはものすごい力で俺を押し倒すと、その勢いでがら空きになった父親の腹に傷を与えた。すんでのところで父はよけたが、決して浅くない傷を受けてしまったようだ。


「ぐっ!」


「父さん!」


「光の精霊よ、聖なる光で邪悪と戦う勇者に癒しを与えたまえ!」


ナターシャが呪文を唱えると父さんが与えられた傷がみるみるうちに塞がっていった。


「・・・あの娘が厄介だな。」


「行かせるか!ヒョォオオ!!!」


俺は『鵺の咆哮』で動きを鈍らせようとした。


「のんきに小鳥の鳴きまねしとる場合かえ?」


ぬらりひょんはピンピンしているどころかすでにナターシャを捕まえていた。


「ナターシャ!・・・なぜ『鵺の咆哮』が効かない。」


「魔力はお前さんよりワシの方が上だからじゃよ。『鵺の咆哮』は基本的に魔力の強さが術者に近ければ近いほど効きにくくなるんじゃ。冥途の土産に覚えておくんだな小僧!」


「クッ、放しなさい!このバケモノめ!!」


「ふっふっふ。娘の生き胆を喰うと妖怪は長生きできると聞いた。恐らくは魔力が格段に上がるゆえに冒険者や鬼道衆どもに倒されにくくなるからだろう。では、頂くとしよう。」


ぬらりひょんはいやらしい目つきでナターシャに舌なめずりをした。


「にぇ、ニェーット(やめてー)。」


「ナターシャさんを放せ!」


「平伏せ!!」


ぬらりひょんがそう叫ぶと急に体が重くなった。だが、さっきの体がだるくなるのとは感覚が違う。


体が勝手に動くのだ。


「ぬらりひょんの固有魔技か。」


「こ、こいつ強すぎる!」


父さんも魔技にかかったようで必死で頭を動かそうとしている。


「無駄じゃよ。ワシの目が黒いうちは指一本触れることも出来ぬわ!」


そう言うことか、だったからこの特殊魔技が使えるかも!


俺は自分が徐々に地面へ沈んでいく姿をイメージした。


すると、案の定体が地面に埋まり始めた。


「な、なんじゃ!?何が起きている?!」


「吾さん!」


「さ、吾・・・何を?」


沈むイメージをやめると、そこは真っ暗な空間が広がっていた。


「とっさに『暗黒導師』を発動させたけど、ここは一体どこだ?」


「驚いたな。まさか先客がいたとは。」


驚いて振り向くとそこにはある意味見知った人物が俺を見下ろしていた。


「麻生・・・さん?」

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