第弐拾話:牛鬼と鵺

「強いとは言え所詮、モンスターはモンスターね。」


「ナターシャさん、お・・・僕と父さんで食い止めるから後ろで援護していて!」


「ダー(ハイ)!」


俺と父さんで2大妖怪を食い止め、ナターシャが精霊魔法で援護する態勢を取った。


牛鬼は口から紫色の煙を吐いた。


「毒息だ!吾、口をふさげ!!」


「う、うん!」


「毒息ならマカセテ!」


そう言うとナターシャはロシア語で呪文を唱えた。


「風の精霊よ!喜びに満ちた風で仲間に憑つかんとする絶望の霧を祓い給え!!」


彼女が杖を一振りすると俺と父さんの足元に青緑色の魔法陣が出現し、ゴーという音とともに半透明の風がまるでバリアのように出現した。


「すごい!」


「これが精霊の力・・・。」


跳ね返った毒息は牛鬼と鵺にかかったが二体とも何ともないようだ。


「ナターシャさん!これはいつまでもつんだ?」


「持って60秒デス!」


「60秒か。」


「それだけあれば十分!」


「ヒョー!」


鵺が一声鳴くと、急に体が重くなってきた。感覚的には風邪の引き初めに近い。


「な、なんだ?急に体がだるくなってきた。」


「平家物語によると鵺は、鳴き声だけで平安時代を生きた天皇の一人である二条天皇の容態を悪くしたという言い伝えがある。・・・まさか・・・こんなにキツイと・・・は。」


そう言って父さんは力尽きた。


「父さん!」


2体の妖怪は卑しい笑みを浮かべている。


案の定、ナターシャも具合が悪くなったのか風が少しずつ弱まっていった。


隙ありと見たのか、鵺が風の壁を突破してきて俺を爪で切り殺そうとしてきた。


俺はそれを片手剣で真正面から受け止め、開いた手で鵺の体を触った。


その後、両手持に直した後に力をぐっと加えると、拮抗していたのがうそのように押し戻せた。


そして強制的に立ち上がらせた鵺を袈裟切りで倒した。


同時にだるかった体が嘘のように軽くなった。


「そうか、鵺を倒したからデバフが消えたのか・・・。」


「うーん、あれ?さっきまでのだるさが無いぞ?!吾、鵺を倒せたのか?」


「うん!」


「ありがとう吾さん!おかげで助かりました!」


「いやー、あははは。」


それは二人も同じだったようで、先ほどより顔色が良くなっている。


残された牛鬼は怒り狂って突進してきた。


「よし、試してみるか。」


俺は魔学での授業で教わったやり方を実践してみた。先生は『能力奪取』が無ければ一生使う必要がないって笑っていたけどね。


まず、空気を力いっぱい吸い込んでから丹田に溜まった魔素を口から出すイメージで『ヒョー』と叫ぶだけでいいそうだ。恥ずかしいが牛鬼の暴走を止めるためだ!


「ヒョー!!!」


「これは鵺の咆哮・・・。」


俺が叫ぶと途端に牛鬼の元気がなくなり息も絶え絶えに片膝をついた。


「鵺の固有魔技のはずだったと思うけど、吾さんってもしかして鵺?」


「そんなわけないだろう・・・多分。」


「オカシイ・・・カラダ、ウゴカナイ。」


どうやら『鵺の咆哮』は敵対している者に効果があるようだ。


俺は『能力奪取』のため、奴の肩に手を置いた。


「立てるかい?牛鬼。」


案の定牛鬼はその手を振り払った。


「なめるな!ウゴォオオオ!!!」


しかし、なんという体力だ。父さんが倒れるほどの呪いを受けてもなお立ち上るとは。


「クタバレ!ニンゲン!!」


彼はそう言うと大きな斧を俺めがけて振り下ろした。


俺は斧を剣で受け止めた。やはり剣の方が耐久力的には優れていたようで斧はすぐに粉砕された。


「ナニィ!?」


その勢いのまま牛鬼の首が切れた。これで牛鬼の固有魔技も使えるようになったはずだ。

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