第拾玖話:百鬼夜行

奥の方から無数の魔物の咆哮が聞こえた。


「まずい!あれは百鬼夜行だ!!あの規模が外に出たら魔害どころの騒ぎじゃねえぞ!!」


「父さん、百鬼夜行って最後に正体不明の太陽を禍々しくしたようなヤバイ妖怪が出てくるって言う。」


「空亡のことか、そこは心配いらん。あいつは攻略難易度1級以上の迷宮で発生する百鬼夜行にしか現れない。」


「海外ではこの現象はスタンピードって呼ばれている奴ね。というか普通、攻略難易度3級の1階層で出るかしら?」


「まず間違いなく出ないな。出るとしても中間層にあたる5階層より下で頻度は低く、しかも規模は小規模で妖怪も大して力のない雑魚ばかりだ。」


先頭には先ほど倒した鬼や雷獣が複数体存在しており、真ん中は一反木綿や砂かけ婆、ろくろ首、かまいたちなどの実力が十分ありそうな妖怪たちが隊列を組んで迫ってきている。


ちなみに砂かけ婆の姿は江戸時代の着物を着たおばあさんではなく、ボロボロの貫頭衣を着た肌が灰色で髪の毛は白くぼさぼさな顔が醜い鷲鼻のおばさんと言った感じだ。


そして後方には・・・。


「あの・・・父さん、妖怪の大群の後ろに鵺と牛鬼がいるんだけどあれって百鬼夜行に出てきたっけ?」


「何?!」


父さんとナターシャは顔を真っ青にして身構えた。


「おいおいおい!何の冗談だ!?俺は夢でも見てるのか?!」


「ありえない!日本の3級ってこんなに難しいんですか!?」


「馬鹿言え!日本が特別難しいわけじゃない!やっぱりこの荻窪迷宮がおかしいだけだ!!何が3級迷宮だよ!準2級の下層でもこんなバケモノ出てこないぞ!?」


いつも飄々としている父さんがここまで慌てるってことは相当やばいのか・・・気を引き締めないとだな。


この世界の牛鬼は角が生えた牛の頭に紫色の鬼の体をしていて、どちらかと言うとミノタウロスに近い見た目をしている。


鵺は平家物語同様に猿の顔、狸の胴体、鋭い爪が生えた四つ足は虎、しっぽは蛇である。


「父さん!ナターシャさん!多分この様子だと引き返してもより強い妖怪が出現して挟み撃ちにされる!ここは、素直に百鬼夜行を倒して先に進もう!」


「そうだな。それに、迷宮は攻略のための魔道具も道中に現れるし・・・行くしかないか。」


「吾さんの言う通りね。ここで引き下がっちゃったら、故郷のみんなに笑われちゃうわ。スパシーバ(ありがとう)!吾。・・・」


それにこれだけ強そうな妖怪が出るんだ。必ずどこかに神秘薬があるはずだ。


絶対に見つけ出して真紀ちゃんを助けてやるんだ!


鬼や雷獣は経験しているため難なく倒せたが、一反木綿や砂かけ婆、ろくろ首、かまいたちと言った妖怪には以外にも苦戦した。


厳密には複数体倒せたのだが、油断したすきに砂で目つぶしをされ、ろくろ首に動きを封じ込まれてかまいたちで体のあちこちを切られ、最終的に動けなくなったところで一反木綿に剣を奪われたのだ。


だが、突如父さんでもナターシャでもない不気味な金切り声が聞こえたかと思うと、目に入っていた砂粒が消え視界が徐々に開けた。


そこには先ほどの妖怪を全滅させた父さんが心配そうな顔をして立っていた。


「大丈夫か?吾。」


「ああ、ありがとう父さん。これは・・・千切れた一反木綿?」


「ああ、こいつ剣の刀身部分に巻き付いて吾から取り上げたんだが、その拍子にバラバラに切れちまった。」


「こいつ、剣を奪ったと思ったら体が突然千切れたのよ。一反木綿は噂ではミスリルの剣でも切れない強靭な体を持つモンスターって聞いていたけど・・・。その剣って一体。」


「ほ、ほら!そうしている間にもどんどん牛鬼と鵺が迫ってきている。どうにかしてここを切り抜けるぞ!!」


俺はそう誤魔化しながら剣を拾い上げた。


ブルルルルアアアア!!!


牛鬼はこの世の物とは思えない鳴き声を発しながら斧を振り回して突進してきた。


妖怪たちは後ろの最強妖怪がしびれを切らして突撃してため、対処できずにバラバラにされた。


ヒョー!ヒョー!


鵺もそれに呼応して残りの妖怪を蹴散らしながら襲ってきた。そのため、俺たちと接敵したころにはもう彼らしか残っていなかった。

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