第拾捌話:スノーエルフ
少女の悲鳴が聞こえた場所まで走って行くと、そこには大量の電気を帯びた犬の魔物に取り囲まれている少女がいた。
その少女は雪のような白い肌、白銀の長髪や長いまつげの美少女で、瞳の色と同じ藍色のローブを身に纏っており、杖を持っていたことから魔法使いだと思われる。
犬の魔物は複数体で少女を取り囲み、少女は電撃にやられたのであろうか服や肌が焦げている。
身体のあちこちに傷を負っていて息も絶え絶えで今にも倒れそうだった。
「女の子が襲われている!あの魔物は一体?」
「雷獣だ!性格が獰猛で狡猾。そのうえ、連中は見ての通り電気を使った攻撃や鋭い爪によるひっかき攻撃が得意な厄介な妖怪だ。」
「お姉さん、大丈夫!?」
俺は少女に噛みつこうとしていた雷獣を蹴り飛ばすと、少女に声をかけた。
少女は驚いた顔をしていたが、頷き持っていた回復薬を飲んですぐに杖を構え、呪文を唱えた。
「炎の聖霊よ!聖なる炎で我が敵を滅せよ!」
詠唱型魔法、呪文の言語からしてロシア人であろう。
少女が呪文を唱えると、杖の先に赤い魔法陣が現れた。
そして、そこから大きな炎が出現して雷獣の群れに直撃した。
その一撃で多くの雷獣が倒されたが、まだ10数体程残っていたので俺は残った魔物たちのヘイトをこっちに向かわせるために、武器商人から購入した角笛のような見た目をした『魔物誘導笛』というマジックアイテムを使った。
少女はそこで魔力が切れたのかその場に座り込んだ。
「吾、油断するな。」
「わかってるよ父さん!」
俺は、雷獣が放つ電撃を特殊魔技『瞬間移動』を使ってよけつつも剣で一体ずつ倒して行く。
見ず知らずの少女に奥の手を見せるわけにはいかないが人命がかかっている。
四の五の言ってる暇はないっ!
「ハラショー・・・。」
驚く少女をよそに俺はまるで作業のように次々と倒して行った。
「ふう、父さん大丈夫だった?」
あらかた片付いたところで父さんの方を振り返った。
「おう、俺も最後の一体を倒し終わったところだ。」
父さんのそばには5体ほどの雷獣が血まみれで倒れていた。
「さすが父さんだ。」
「からかわないでくれ、お前の方が3倍以上の数を倒してたぞ?」
「まじか、夢中で気づかなかったけどそんなに倒してたのか。そう言えばお姉さん、回復薬はまだ残ってる?」
「ええ、まだ結構残ってるから大丈夫。」
日本語をしゃべれるのか
少女はそう言うと、持っていた万能薬を飲んだ。
すると、傷や火傷がみるみるうちに回復していった。
傷があらかた直ると、立ち上がって俺たちにお礼を言った。
「助けてくれてありがとう。私はエルフのナターシャ、ナターシャ・リェース。よろしくね。」
なるほど、たしかに彼女の白銀の長髪からエルフ特有の笹穂耳がちらりと見えるな。
「俺は水樹、古明地水樹だ。で、この子が俺の息子の・・・。」
「古明地吾だよ。よろしくね!」
「ふふ、よろしくね。それにしてもお二人ともロシア語が御上手なのね。」
「ああ・・・俺は元軍人でロシア連邦共和国の旧首都イルクーツクにあった日本軍基地で、1年程勤務していた時代もあるからだ。息子は・・・その縁でロシア語を昔から習っていたんだ。」
さすが父さん。ごまかしが美味い、本当は能力のおかげなんだけどね。
「ところで、あなたたちは冒険者なの?」
「うん、見ての通り冒険者だよ。」
俺がそう答えると、少女は安心したように笑った。
「よかったわ。もし冒険者じゃなかったらどうしようかと思っていたの。」
「それってどういう?」
「自分で言うのもなんだけど容姿端麗な女エルフでしょ?だから、助けてくれた見返りにいかがわしいことをする変質者や知能を持ったモンスターもいるから。」
「な、なるほどね。」
俺たちはさらに奥へと進んでいった。
「ところでナターシャさん。君はロシア人なの?」
俺の質問にナターシャは頷いた。
「ロシア人ってもしかして全員エルフだったりする?」
彼女は鈴を転がすような声で笑った。
「違うわ。私はロシア国籍を持っているスノーエルフよ。」
「スノーエルフ?」
「エルフには何種類かいてな。その中の一種であるスノーエルフはもともと東欧の寒い針葉樹林に住んでいたんだ。」
「そうよ。そして私はロシア連邦共和国、ユダヤ州都ピロピジャン出身のスノーエルフで今はモスクワ魔法学校の生徒よ。」
「モスクワ魔法学校か・・・たしかあそこは魔法学校の中でも精霊魔法に特化した学校だと聞いたな。」
「ところで、ロシアの学生である君がなぜ日本の迷宮に?」
「それは・・・。」
ナターシャが何かを言いかけたその時、奥の方から無数の魔物の咆哮が聞こえた。
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