第拾漆話:荻窪迷宮2

~ 森少佐視点 ~


周囲を警戒しながら進んでいくと、赤鬼、青鬼、黄鬼、黒鬼、緑鬼が5つの魔法陣から1体ずつ姿を現した。


俺はすぐさま止まれの合図をした。


「来やがったか、戦闘よーい!」


「ぐわおおおおおん!!!」


赤鬼が吠えながら突進し、それを合図にほかの鬼たちが雄たけびを上げながらこちらに向かって走って来た。


「構え!」


部下たちの銃を構える音が聞こえた。


「てーっ!!!」


銃声と鬼たちの情けない鳴き声が響き渡る。


「打ちかたやめ!」


あたりはしんと静まり返った。


「毛が立っている奴はいないようだ。・・・よし、解体作業を始めるぞ。」


全員ナイフを取り出して素材になる牙や心臓に存在する核、皮をはぎ取り始めた。


「核は海軍さんの船にはなくてはならない代物『魔玉』の原材料だ!こういう場では確実に持ち帰るのが俺たち陸軍の仕事である!」


「うえー、気持ち悪いっす。」


「文句を言う暇があったらさっさと作業をする!松沢伍長!」


「は、ハイ!」


しばらくして、転がっていた鬼の死骸が迷宮の床に吸い込まれるように消えていった。


「全員敬礼!」


俺は敬礼しながらそれを見送った。


「何度見てもえげつない光景っすね。」


「しかも、それは迷宮にいる私たちも例外じゃないんですよね。」


「そうだ神崎中尉、くれぐれも迷宮の苗床にはなるんじゃないぞ?」


 「は、ハイ!!!」


 女性隊員の神崎は顔を赤くしてうつむいた。


 「森少佐殿―。」


ほかの隊員たちは俺を呆れた顔で見つめた。


「・・・オホン、すまん冗談だ。苗床にはならんが養分にはなると思うぞ。だから全員気を付けたまえ!」


 「「「了解!!!」」」


 俺たちはさらに奥へと進んでいった。


 「森少佐殿、質問よろしいでしょうか?」


 「鹿島中尉か、発言を許可する。」


 「ありがとうございます。この迷宮、我々が訓練と称してわざわざ出向くほどの物があるのでしょうか?」


 「ある。何せここは、日本政府を悩ます事件の原因を突き止めるための証拠が眠っているのだからな。」


・・・・・・


 「・・・・銃声がやんだ。」


 「銃声は新南部41年式短機関銃ってとこだな。さっきの軍人さんが鬼と接敵したらしいな。」


 「うーん、どんな銃なのかよくわからないよ。父さん・・・。」


 「前世では開発試作されたけど結局、9.19mm弾を使用する拳銃が開発されなかったために、日の目を見ることはなかったニューナンブM66短機関銃の生まれ変わりみたいなものだな。うんうん、やっぱりこの音はいつ聞いてもいいものだ。」


 「さいですか。」


 「吾も将来のために銃は扱っておいた方がいいぞ。」


 「俺は魔法の方がいいや、動画とかで見たことあるけど結構うるさいらしいし。」


 「そうか・・・残念だ。」


 「そんなことより、早く神秘薬を見つけなくちゃ!」


 「ああ、そうだな。」


 鬼を3体も倒したことで自信がついた俺は、父さんと2人で迷宮の隠し部屋にある神秘薬を求めてさらに奥へと進んでいった。


すると、少女の悲鳴が迷宮に響き渡った。


「父さん、今の聞いた?」


「ああ。どうやら誰かが魔物に襲われているみたいだ。」


父さんがそう言うのと同時に、俺は走り出していた。

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