第拾伍話:武器屋

「日本にこんな店が・・・違和感しかねえ・・・。」


武器屋は2階建ての一般的な日本家屋で商品は1階部分にずらりと並んでいた。


冒険者たちが使うであろう杖や剣、ポーション、スクロールなどのマジックアイテムが所狭しと並んでいた。


「いらっしゃい、おー!水樹君か。今日は息子さんと一緒かい?」


ああ、そう言えばこの人も前世にいたな。包丁専門店を営んでいたスキンヘッドのおじさん。


曲がったことが大嫌いな職人気質の人だ。


この世界では武器商人なのか。


「はい、子供の武器を買ってやろうと思いましてね。」


「迷宮かなんかに連れて行くのかい?君の息子はまだ6歳だと町会長さんから聞いたぞ。」


「心配いりませんよ。いざとなったら俺が守りますから。」


「まあ、父親であるあんたが言うならこれ以上口出しはしねえよ。」


「早速なんですが、こいつにあった魔剣を見繕ってほしい。彼女はいますか?」


彼女?


「おお、おるぞ。兼子!お前さんに指名が入ったゾイ!」


「はーい、お師匠様。」


女の子が2階から降りて来た。


前世は生涯孤独だった職人気質な爺さんだったがこの後世ではお弟子さんがいたのね。


お弟子さんの体系は少女にしてはがっしりとしていて肌の色はやや褐色、耳たぶが分厚く、髪は黒のおさげで水色のTシャツに藍色のオーバーオールを着ていた。


「そう言えば坊主はワシもこの子も初めてじゃな。ワシはこの危なっかしい冒険者の剣を直してやってる魔道具専門店『かねさん』店主の泉兼定じゃ。」


「危なっかしいは余計ですっ!」


「そしてこいつが・・・。」


彼女は彼に挨拶を催促されたが無言で俺を見つめていた。


整った顔立ちの子にガン見されて俺は顔が熱くなるのを感じた。


「え・・・な、なに?」


「おい!お客さんに挨拶せんか兼子!」


「あ、ごめんなさい。お師匠様、なにしろ彼は興味深い人物でしたから。」


「まったく、すまんな坊主。種族癖(しゅぞくへき)は簡単に直る者じゃねえんだ。許してやっておくれ。」


「大丈夫だよ。注目されるの慣れてるから!」


「ハハハ!こいつは将来大物になるぞ。」


「えへへ・・・ところで種族癖って何?」


「種族癖は文字通りその種族特有の癖みたいなものさ、こいつはドワーフだから興味の対象になったものは飽きるまで見続ける。実際、俺が気づいて声をかけるまで気に入った剣や人を数時間も見続けてしまうこともあったぜ。」


やはり、前世ではいなかった人間は亜人率が高いな。何かしらのジンクスを感じるな。


「そうなんだ。」


「ただ、全員がそうじゃない。ワタシみたいなのはほんの一握り。」


種族を馬鹿にされたと感じたのか少し膨れた。ふくれっ面が可愛すぎる!


「ハハハ、悪い悪い。」


しばらくすると、突然俺と商品を交互に見ていた彼女のジト目がカッと開いた。


吸い込まれそうな茶色の瞳に徐々に光が宿り始めた。


「・・・すごい!君ならどの剣もぴったり合う・・・こんな事初めて!!」


「え、そうなの?」


「うん、剣は普通人によって向き不向きがある。もちろん、普通の剣は誰でも使えるけど魔法で強化や攻撃するための剣、魔剣となれば話は別。」


「へえ。」


「例えば火属性魔法攻撃に特化した剣を水属性魔法の使い手が使おうとすると拒絶反応が起きる。」


「どんな?」


「血液や体液が蒸発して最終的にミイラみたいな状態になって持ち主は死ぬ。」


「ひえっ!」


どんな原理だよと思ったけどここは魔法のあるファンタジーな世界、深くは考えないことにした。


「それで、お嬢ちゃん。私の息子にピッタリな剣はどこにあるのかな?私たちは急ぎで来ているんだ。」


そうだ。ここで油売っている場合じゃなかった!


「あ、ハイ!今取りに行きます!!」


兼子は店の奥へ駈け込んでいった。


「・・・失礼を承知で聞くが急ぎの用事とはなんだ?」


「申し訳ありません。かねさん・・・依頼人から他人に詳細は教えるなと釘を刺されているので。」


さすが父さん、この世界では軍政時代を生き抜いてきただけあって、そう言ったものはしっかりしているな。


「そうだったな、冒険者に対して詮索はご法度だったな。すまなかった。」


「いいんですよ。でも、私より疑り深い人もいるので発言には気を付けてくださいね。」


「わかっとる。おまえさんは顔なじみだったから困っているなら相談に乗ろうと思っただけだ。」


「おまたせ、剣持ってきたよー。」


彼女が持ってきたそれは、光を当てるたびに淡い虹色に光る刀身、柄の上部に躍動感のある銀色の龍が彫られた厨二心をくすぐる代物だった。


「ハイ、これ私が作ったの。」


そう言って彼女は満面の笑みでそれを渡してきた。


「わあ、カッコイイ!ありがとう!!」


彼女は頬を染めて嬉しそうにほほ笑んだ。


「ふふ、どういたしまして。」


その後、いくつかマジックアイテムを買った俺たちは南阿佐ヶ谷駅で地下鉄を待っていた。


「吾、剣は持ったか?」


「うん、ばっちりだよ父さん!」


俺は腰につけた剣をさやから抜いて父さんに見せた。


剣は誇らしげにギラリと刀身を光らせた。


「くれぐれも落とすなよ。」


「うん!わかった。」


ゴーという音とともに地下鉄が駅に入線してきた。


前世の2025年時点で完全に姿を消したシンプルな白い横線が特徴の02系だ。


「前世と全く同じ車両なんだね。」


「歩んだ歴史が違う物もあれば同じものもある。実に不思議な世界だよ。ここは・・・。」


俺は気を引き締めながら地下鉄に乗り込んだ。

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