第拾参話:呪いを解く方法

俺は自分と父さん、七飯先生、そして真紀ちゃんのお父さんと一緒に学校近くの病院に見舞いに行き、真紀の様子を心配そうに見ていた。


しばらく沈黙が続いたが、先に口を開いたのは真紀ちゃんの父親だった。


「坊主、この眼帯が気になるのか?」


きっかけは、彼が前世でつけていなかった眼帯を俺が物珍しさからうっかり凝視していたからだ。


「う、うん。」


「俺は内務省の職員でね、就任1年目にして中華社会共和国のスパイを一斉検挙した功績がある。そのおかげで俺は伯爵様さ。」


前世ではニートから成り上がった気の弱い政治家だったけど、こっちでは前世にはなかった内務省の職員なのか・・・。


・・・っていうかこの世界って爵位あるのね。


「だが、一斉検挙の際に右目に呪いの類を受けてしまってね。右目が負の感情を感じ取ると、ひどい痛みを伴いながら力が暴走するようになってしまったものだから、麻生閣下に頼んで作ってもらった強力な魔力封じの眼帯をしているんだ。」


痛い!いろんな意味で痛すぎるけど、この世界じゃ呪いで右目が云々は常識の範疇なんだっけ・・・早く慣れなきゃな。


後ろで引き戸が開く音がした。


振り返ると担当医が深刻そうな顔でカルテを持ってきた。


「先生!娘は・・・娘は一体どんな病気なんですか?!それとも・・・吾君が言ったように呪い・・・なのでしょうか?」


真紀ちゃんの父親は先生に恐ろしい形相で迫った。


「杉村さん、落ち着いて聞いてください。娘さんは身体的には至って健康そのものですので、十中八九呪いの類ですね。」


「そうですか・・・ならば娘をこんなにした犯人をどうにかしてやることができますね。」


彼はそう言って前世ではつけていなかった右目の眼帯をさすりながら不敵に笑った。


俺と七飯先生はその様子を怯えた眼差しで見ていた。


だが、なぜか俺の父さんだけは難しい顔をしていた。


「ところで、娘にかかった呪いはどういったものでしょうか?」


「あ、は・・・ハイ!呪いの可能性も考慮して魔導科で診察させてもらった結果、一時的に瘴気に近い濃度の魔素を近くで浴びた結果起こった。急性魔素中毒の疑いがあります。」


「治せる・・・のですか?」


「むう、肌がすでに紫色に変色し始めていますので、恐らく中毒になってから大分時間がたっております・・・残念ながら神秘薬でないと直せないかと・・・。」


「そんな・・・。真紀・・・・。」


「彼女の命はもって13日かと・・・。」


真紀ちゃんパパは膝から崩れ落ちた。


やばい!絶対俺と七飯先生のせいだ!しかも、後世世界の真紀ちゃんパパは内務省職員、バレるのも時間の問題だ!!ばれたら確実に七飯先生と俺は殺されるうえに古明地家は没落コースまっしぐらだぁ。


七飯先生は俺に耳打ちした。


「吾君、どうしよう・・・。」


「こうなったら、何とか呪いを解く方法を見つけなければ。」


「どうやって・・・。」


「とにかく先生は今日の一件で布田月一家に目を付けられています。学校へは信頼できるものだけに連絡を入れてしばらく休ませてもらってください。そして、できるなら俺の家に!」


「わかった。」


その後、俺は家でこのことを家族に伝えた。


「何とかならないの?あなた!」


「このまま兄さんが殺されるのはやだよー。」


「助けたいのはやまやまだが、神秘薬は手に入れるのが非常に難しい。」


「授業で聞いたことがある。この世界には魔法薬というものが存在していて、回復薬、万能薬、神秘薬とあるんでしょ。」


「そうだ。回復薬はいわゆるヒーリングポーションで、色は青色で切り傷や擦り傷程度であればすぐにふさぐことができる。万能薬は色が黄色で回復薬でも治せない刀傷や銃創、軽めの呪いを浄化できる。」


「そして、一番入手が難しいのが神秘薬・・・。」


七飯先生が神秘薬に対する効能を話した。


「これに関しては噂程度しか聞いたことがないが、色は血のように赤く、切られた手足を再生出来たり、この世のあらゆる呪いを浄化できるらしい。」


「それを手に入れることができれば兄さんのお友達は救えるのね!七飯先生!」


「ああ、その通りだ!」


「だが入手できる場所が迷宮と呼ばれるところでしか手に入れられないうえに、ベテラン冒険者ですら発見することができない隠し通路の部屋のボスを倒さないと手に入らないらしい。攻略難易度3級以上の迷宮だったらボス部屋でも出現するらしいが・・・それでも1億の宝くじが当たる確率だ。」


「それでも、俺は行く!冒険者になって絶対神秘薬を見つけて真紀ちゃんを救って見せる!!」


「立派である。それでこそ日本男児だ!」


七飯先生はスキンシップが積極的で俺は笑うしかなかったが妹の視線が冷たい。


「でも、あなた。たしか冒険者は15歳以上じゃないと成れないはずじゃ?」


「そこは心配いらん、保護者同伴なら問題ないと規定にもちゃんとあるんだ。」


「父さん!」


「今日はもう遅い、朝一で杉並區役所に行くぞ。」


「ハイ・・・え?」


なんで区役所?


冒険者組合とかじゃないの?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る