第拾弐話:人生の分岐点

2度目の人生と言うのは素晴らしい。


例えばテストは、すでに20年以上の知識があるのでいつも100点!


前世で常に満点に近い点数であることを鼻にかけていた岩原博士(いわはらひろし)は、この後世でも性格はそのままで、俺より下になるのが気に食わないようだ。


「また君が私より良い点を取るとは・・・まさかあなた不正を働いているわけではありませんよね?」


彼はメガネを指で位置調整しながら俺に迫った。


「まさか、そんなわけないだろ?」


ま、不正と言えば不正なのかな。


「いいや!あるな。半年間で行われたテストはずーっと100点、おまけに「ごくらくかみさま」や「だいばくふう」だっけ?それもあっという間に習得しやがった!この3つは優秀な3級冒険者ですらどう頑張っても習得に3年もかかる代物だぜ!?」


「・・・どこから突っ込んでいいのかわからないが、布田月君。極楽神様じゃなくて獄炎神楽、大爆風じゃなくて大瀑布(だいばくふ)ですよ。」


彼はメガネを指で位置調整しながら布田月に迫った。


「ぐぬぬ・・・。」


「ちなみに大瀑布は家を一瞬で破壊するほどの威力のある大量の水流を生み出す魔法です。『魔學』で習わなかったとは言わせませんよ?」


「うるせえ!校長に気に入られてるからってあんま調子のんじゃねえぞ!えーっと・・・ハカセ!」


「ひろしです。ともかく古明地君、今まで黙っていましたが私もあなたの不正をいつまでも見逃すほどお人好しとは思わないことですね。このことは校長先生に話しますから。退学も覚悟しておいてくださいね。ヒヒッ。」


前世で似たようなことを言われて、今の自分が引くほど泣きついて床に振り落とされたあげく女子たちにも笑われたのだが、ある出来事が起こってうやむやになったのだ。


ただし、それ以降幼馴染だった真紀ちゃんは以前より構ってくれなくなったが・・・。


なので俺は満面の笑みで煽った。


「どうぞお好きに、ガリ勉君。」


周りがざわついた。


「き、貴様ー!」


「わかってんのか?!おまえ、校長のお気に入りの機嫌を損ねたらな!この学校にいられなくなるんだぞ?!」


「おうおう!校長が何だって?」


「あ、七飯先生!」


やはり来たか・・・。


七飯七海(ななはんなつみ)、俺のクラスの担任だ。


彼女は、トレードマークのオレンジのショートヘアにオレンジ色のTシャツ、藍色のホットパンツにサングラスと言った、今日も今日とておおよそ先生とは思えないラフな格好をしている。


肌は小麦色に焼けており、Tシャツとホットパンツからたくましい手足が生えている。


誰にも負けなさそうな彼女も前世では、布田月家の餌食になってしまった者の一人だ。


理由としては、今日この場所で生徒の一人である俺が布田月と岩原にさんざん虐められていたのを見ていられずに仲裁に入った際に布田月にある言葉を言われてカッとなり殴り飛ばした。


そして、その末路は言わずもがな悲惨なものになりこれ以降俺を助けるものはいなくなったのだ。


もし、あの出来事が起こりかけたらこのチートスキルで彼女の悲惨な歴史も変えてやる!


「なんでもないですよ先生。」


「なんでもなくないだろ?布田月!岩原!古明地君はまっとうに勉学に励んでいるのにそれを不正呼ばわりするとは・・・。」


ゴメンナサイ先生、それに関しては奴らの言う通りなんです。


「ひゅーひゅー、先生もしかして古明地君のこと好きなのか?」


七飯先生は顔を赤くして反論した。


「ばっ!馬鹿を言え!私は生徒に手を出したりはしないぞ!?たぶん・・・。」


いや、そこは断言してほしかったなー。


ま、違う意味で前世のあなたは手を出したんですけどね。


「ヒヒッ、先生の癖に子供に発情するなんて世も末ですなー。」


「まったくだ!年増女は年増らしくおっさんに腰振ってりゃいいんだよ!ガハハハッ!!」


ああ、ついに言ったか・・・よし、気づかれないようにスキルを発動しておくか。


「貴様・・・今なんて言った?」


「あん?」


「誰が・・・年増女だ布田月ィイイ!!!」


先生は、黒いオーラを纏いながらそれを拳にためて目にもとまらぬ速さでストレートを繰り出した。やはり魔法を使ってきたか。


真紀ちゃんは口を押えて震えていた。


「あ、あの魔法は殴った相手に24時間地獄の苦しみを味わわせる準2級陰魔法『閻魔拳(えんまけん)』!先生お願い!やめてー!!」


先生の目にもとまらぬストレートを俺は魔技『筋力超上昇』と本来、魔物の大群が押し寄せて来た時の防御用として使う準2級陽魔法『神聖壁(しんせいへき)』を止めるための右手に重ねがけして、先生と布田月の間に割り込んだ。


直後に強力な魔法同士がぶつかり合う時に起こる瘴撃破(しょうげきは)という現象が俺と先生の間に発生した。


「「「キャー!」」」


女子たちの黄色い声が風でもみくちゃにされた教室を駆け巡った。


「七飯先生の攻撃を受け止めた!本当に何者だ!?あいつ!!」


「こ・・・古明地君?」


あまりの衝撃に先生は一瞬で正気に戻った。


「七飯先生、たしかに和瑠男君はあなたに対してひどいことを言いました。ですが、だからと言って教え子に手を出していい理由にはなりません。」


「・・・すまない。頭に血が上ってどうかしていた。ありがとう、古明地君。」


「和瑠男、お前も年上には敬意を表せって親に言われなかったのか?」


俺はできる限りの怒りを込めて和瑠男をにらんだ。


和瑠男は先ほどの先生の殺意マシマシの右ストレートを目の当たりにしたせいか、今までの覇気は無くなり涙目になりながら股から悲しいものを漏らしていた。


「は、はい・・・ゴメンナサイ。」


弱弱しくそう言った後、足早に教室を出て行った。


まずいな、未遂だったとはいえ七飯先生は生徒を殴ろうとした。しかも、確実に苦しめるやり方で・・・。


「さ、さあ。お前ら席につけ!授業を始めるぞ。」


クラスの子供たちは恐怖からか無言で椅子をガタガタ言わせながら席に着いた。


だが、真紀ちゃんだけは違った。


しゃがんだままその場から動こうとしなかったのだ。


「・・・真紀ちゃんどうした。顔色が悪いぞ?」


「なに?!」


俺の言葉を聞いて先生が戻って来た。


なんだ?こんなの前世の記憶にないぞ?


「だ、大丈夫だよ。古明地君、先生・・・。」


真紀ちゃんは、先生に背中をさすられながら必死で笑顔を作った。


「いやいや!明らかに平気じゃないだろ!!おい、しっかりしろ真紀ちゃん!!」


「う、うん・・・。」


真紀ちゃんは脂汗を流しながら小刻みに震えながらも立ち上がった。


だが、その直後に膝から崩れ落ちてしまった。


「真紀、真紀ー!!!!」

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