第拾壱話:魔術の授業2

彼女は和瑠男に対しては可愛らしい顔を引きつらせながらもなんとか笑顔を作り、そいつに手を振り返した。


ガードの堅い彼女が学校一のクソガキに対してそうせざるを得ない理由は、前世でも後世でも和瑠男(クソガキ)は彼の爺さんでもある教頭先生の威厳を傘にして学校内でやりたい放題していて、彼女自身もターゲットにされかねないからだ。


まったく、前世と変わらずむかつく野郎だぜ・・・布田月。


しかもその悪事はことごとくその教頭がもみ消していた。


例えば被害にあった生徒やその家族の一部が必ずと言っていいほど不審な死を遂げたり、一家総出で夜逃げをしたりといった具合だ。


その後教頭は女児監禁の罪を当時校長だった和田左衛門に擦り付けてその功績を称えられ校長に就任。


そこから和瑠男の悪事はエスカレートしていき、卒業後も特に悪事が暴かれることもなく俺の学生生活は、中学や高校でも不幸にも一緒だった和瑠男とその取り巻きによって最悪なものとなった。


卒業後は新卒で機械系の会社に入社したものの、物覚えが悪すぎて自己都合退職した。


その後引っ越しを繰り返しながら職を転々とし、最終的に奴らが経営していた会社に知らずに入社してしまった。


今までの件で精神肉体ともに疲弊していたところに、今まで以上のいじめや嫌がらせを受けたため俺は精神を病んで引きこもりに・・・。


「・・・さて、次は古明地君の番だね。」


前世とほぼ同じ展開になるならば、実力の差を見せつけて今ここで将来起こりえるであろうこいつとの因縁を断ち切ろう!


「古明地吾君!」


「ハイ!」


俺は元気よく返事をして先生が引いた白いラインの手前に立ち緊張を解すべく深呼吸をした。


同級生たちがかたずをのんで見守る中、俺は和瑠男の方をちらりと見た。


いつの間にか和瑠男は真紀ちゃんの隣に立っていてセクハラまがいのことをしていた。


ワンチャン前世の記憶があるんじゃないかと思うくらいに・・・。


二度目の深呼吸で怒りを抑えた俺は、先生の実技演習通りに右手を突き出して丹田辺りから湧き出る魔素を使って空気が燃えるイメージを作った。


それでも視界にチラチラ入ってくる和瑠男の下卑た顔と真紀ちゃんのぎこちない笑顔でどす黒い感情が魔素と一緒に行ったり来たりするのを感じた。


「いかん、集中集中・・・。」


俺は『炎神楽』と心の中で唱えつつも其れより規模が大きな炎神楽をイメージした。


すると、赤黒い炎が悲鳴のような音とともに右手に現れて、それに驚いた俺は藁人形めがけて右手を振り下ろした。


まるで生き物のように蠢く赤黒い炎は一直線に藁人形に向かって飛んで行った。


炎が当たった藁人形は一瞬にして消滅し、その周辺は紫色の靄が残留して徐々に消えていった。


「な・・・なんだ今の?!」


和瑠男は目を丸くして腰を抜かした。


「吾君、すごい!」


真紀ちゃんは口元を両手で覆い頬を染めた。


「もしや、今のは獄炎神楽!」


「・・・先生、それって炎神楽とは違うんですか?」


「ああ、獄炎神楽は陰属性魔法と炎属性魔法を組み合わせた高難易度魔法の1つ・・・それを周囲に被害を及ばせずに一発で成功するとは、いやはや吾君はすごい!将来は冒険者か軍人さんになるつもりかね?」


「ハイ、私は誰にも負けない・・・自分にも負けない強い冒険者になりたいと思っています!」


「・・・すばらしい!!」


「へへへ・・・。」


心の闇を魔法として放ってスッキリしたせいなのか、先生に褒められたからなのか、はたまた好きな子に好意を持ってくれたからなのかはわからないが、自分でも情けない声で照れ笑いをした。


だが、浮かれていたこの時の俺は知らなかった。校長室の窓に例の人物がこの授業風景を見ていたことを・・・。


・・・・・・・


「和田校長・・・今のは?」


「獄炎神楽だ・・・よもや感情の制御が難しい陰属性魔法を扱える子供が再び現れるとは・・・。」


「あの子・・・危険すぎます!」


「どうしてそう言えるのかね?布田月先生。」


「それは・・・あの魔法はたまたま成功しただけにすぎません。それに子供は憶えた知識をひけらかす傾向にあります。あんなものを人前でポンポン放たれたら・・・。」


「大事故が起きる・・・。そう言いたいのかね?」


「ええ・・・。」


「心配いらんよ。彼は感情の制御が完璧にできる品行方正な大人しか放てない代物を簡単に扱えておる。現代において珍しくなった厳しい親元で育ってきたかあるいは・・・。」


「あるいは・・・なんです?」


「いや、なんでもない。とにかく彼は将来我が大日本帝国にとってなくてはならない逸材になる。わたしは学園長に報告させてもらう。帝国の未来は明るいぞ・・・フハハハハ!!」


高笑いしながら校長は校長室を後にした。


「・・・古明地吾、貴様は私のかわいい孫の学生生活を脅かしかねん厄介な存在だ。必ず退学に追い込んでやる!五体満足で卒業できると思うなよ。フッフッフ・・・。」

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