第拾話:魔術の授業1
いよいよ俺も今日から3年生!今日は待ちに待った魔術の授業だ。
今までは国語、算数、理科、社会、体育と言った前世と何ら変わらない授業だったが、3年生の4月にようやく魔術の授業ができるのだ!
流れ的にはまず1年、2年の時に『魔學』とよばれる授業を行い、その後に『魔術』を行う。
『魔學』は他の教科と同じように教室で魔法の歴史や種類、使い方を先生から教わるもので、『魔術』は簡単に言えば実践だ。
俺は胸の高鳴りを抑えつつ授業に臨んだ。
場所は校庭で、生徒たちの前には同じ背丈ほどもある藁人形が置かれていた。
「皆さんよく聞いてください。」
そう言って生徒の注目を浴びる先生は鬼の形相をした・・・というかマジモンの鬼だった。
「私が今日から始まる魔術の授業を担当する伊吹(いぶき)萃狂(すいきょう)と申します。よろしくお願いしますね。」
本人は笑顔で対応したつもりだが、今からこの場にいる全員を食い殺さんと舌なめずりをする数秒前の表情にしか見えない。
「「「ハイ!よろしくお願いいたします!!」」」
もちろんそんな状況下で不愛想な態度で臨む生徒はどこにもいない。
無論俺も例外じゃない。
だが、彼はあくまで先生だ!化け物なんてこれっぽっちも思っちゃいけないな・・・うん!
「いい返事ですねー。初々しくて実に可愛らしい。」
だめだー!完全に品定めしているようにしか見えねー!!
限界が来たのか、女子生徒の一人がすすり泣きを始めた。
「おやおや、どうしたのですか?授業についていけるか不安になったのですね?」
「うん・・・。」
「仕方ない。みんながやっているのをそこで見ていなさい。」
いや、絶対にあんたの風貌が怖すぎるせいだと思いますっ!
「さて・・・魔法を使う前にまずこの世界の魔法について復習はしてきましたね?」
「「「ハイ!!!」」」
そこらへんはばっちりだ。この世界には基本的に3種類の魔法がある。
「では・・・そこの目がキラキラしている少年。言って見なさい。」
俺は立ち上がり覚えていたことを話した。
「ハイ!ルーン文字が刻まれた杖や石を使って魔法を発動させるルーン型魔法、空気中の魔素を取り込み頭の中で念じて発動させる気術型魔法、そして技名を叫んで言の葉の精霊と契約して魔法を発動させる詠唱(精霊)型魔法であります!」
周囲から拍手喝さいが沸き起こった。女の子たちからは好意の眼差しが注がれた。
正直恥ずかしいが自分にしてはなかなか上出来じゃなかろうか。
「大変よろしい。もう魔法の出し方は学んでいると思いますので、いきなりですが実践に入りましょう。」
伊吹先生はそう言うと右手を掲げた。
すると伊吹先生の右手から青白い炎が出現して、それが伊吹先生の右手をあっという間に包み込んだ。
「あれが本当の炎神楽なのか・・・・。」
「むん!」
先生が思いっきり右手をぶん投げると、飛ばされた青白い炎は藁人形に当たり周囲の藁人形を巻き込んで派手に燃えた。
そして、燃えた藁人形はものの数秒ですべて灰となった。
「ふう、さあ・・・実践あるのみです。この学校には防御魔法がドーム状に展開されていますので安心して炎神楽を打ちなさい。藁人形もいくらでもありますからね。」
「「「ハイ!!」」」
皆、先生のお手本通りに炎神楽を打っていく、そのたびに先生は生徒たちをほめちぎる。
強面とはいえ物腰柔らかな先生、うまくできたことによって調子に乗ってくる生徒もちらほら現れるはず・・・。
「なんだこれ、俺なんか幼稚園卒業間際で打てたぜ!」
ほらやっぱり、この世界にもいるんだなこういうのは。
「ほう、それは将来が楽しみです!」
先生に褒められてふんぞり返っているこいつは、前世で3年生の時に都外の学校から引っ越してきて、長い学生生活(いじめせいかつ)の原因を作った奴で名を布田月(ふだつき)和瑠男(わるお)と言う。
ある程度友達がいた俺もこいつが絡んだ事件がきっかけでみんな離れて行ってしまった。
それどころか虐めてくる奴もちらほら現れ始めたんだ。
やはりというべきか後世でも同じタイミングで転校してきやがったか。
しかも、同姓同名で性格も全く同じだ。性格は似なくていいのに・・・。
だが、この後世では彼の自己紹介の時に微妙な顔をした生徒が前世より多かった気がするが気のせいだろうか?
「ふん!まあな。俺は最強の冒険者になってみんなを守る使命があるからな!」
そう言って奴は、俺の幼馴染である杉村真紀の方を向いてとても小3とは思えないほどの下卑た笑顔で手を振った。
真紀は、青を基調としたブレザー、白ワイシャツに赤のリボンネクタイ、水色のスカートを履いた可愛らしい黒髪ショートボブの女の子だ。
才色兼備で信頼のおける人としか優しくしない性格のため、みんなにとって彼女は高根の花だった。もちろん、その人物とは幼馴染だった俺だ。
そして、3年生の最初の頃までは周りのクラスメイトもわきまえていたのか、真紀ちゃんに言い寄る人はいなかった上に、俺に取り入って彼女のご機嫌を取ろうとした子もいたほどだ。
だが、彼女のことが好きな人物の一人である和瑠男はそれが気に入らなかったらしい。
今考えればいじめの根底はおそらくそこにあるのだろう。だが、彼女のそばを譲るつもりは毛頭ない。
あいつにやるくらいなら、俺と同族の根暗フヒヒ系のオタクにくれてやるわ!
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