第玖話:妹の懺悔

「お兄ちゃん。」


「ん?どうした。恋美?」


「今日は・・・お兄ちゃんと一緒に入る!」


「ボファッ!」


直後、父さんから聞いたこともない音がして吹かしていたタバコの煙が広がり、父さんにまとわりついたかと思うと換気扇に一気に吸い込まれていった。


「ゲホゲホ、い、今なんといったかね恋美?」


「だって、パパともう入りたくないもん!」


「そ、そんなー。」


もうちっと言葉選びがあっただろ妹よ。ほら見ろ、見たこともねえ顔で落ち込んでるぞ?


「だってー、パパったら私が嫌だっていうのに『良いではないか』とか言いながらあちこち触ってくるんだもん!」


「あーなーたー?」


母さんはすさまじい形相で父さんをにらんだ。


「ち、違うぞ!母さん、これは親として当然のスキンシップであって・・・。」


「スキンシップだったとしても子供が嫌がったらやめるのも親というものです!」


「でもー。」


「でもじゃありません!」


「はい。」


傍で待機しているメイド2人と使用人は笑いを必死でこらえていた。


かわいそうだが母さんが正しい。


でも、こんなやり取りがもう一度見れる日が来るなんて思ってもみなかったなー。


「ほら、お兄ちゃんいくよ!」


母さんと父さんとのやり取りを懐かしいものを見るような眼で眺めていた俺は、妹に手をグイッと引っ張られた。


「ああ、そうだな。」


俺の手をしっかり握った恋美の手は柔らかくて暖かかった。


風呂場での少しの沈黙の後に妹が口を開いた。


「お兄ちゃん。」


「なんだい?」


「前世では冷たい態度をとってごめんね。わたし、ニートになっちゃったお兄ちゃんとどう接していいかわからなくて・・・・。」


俺はそっと抱きしめた。


「ああ、わかってたよ。俺がお前と同じ立場ったらそうしてる。それに原因がほかにあるとはいえ、ニートになってしまった俺にも責任がある。だから約束する!この後世世界では有り余るチート能力を使って、この国最強の冒険者になって絶対に恋美も家族も絶対に幸せにしてやる。」


妹は親に聞こえないように何度も嗚咽しながら泣いた。


俺は黙って頭をなでた。


風呂を出ると父さんと母親は目を腫らしていた。


「え!な、何があったの父さん母さん!」


「喧嘩!?やだよ!私のせいで・・・私のせいで。」


父さんは慌ててそうなった事情を説明した。


「え、じゃあ・・・。」


「申し訳ありません。わたくしが止めたのですが。」


謝るミーシャの横でメーニャがしょんぼりしている。


よく見ると二人も目が赤い。


「好奇心に負けてつい・・・。」


「聞き耳を立てて僕たちが前世の記憶を引き継いだ人間だということが判ってしまったということか。」


「ハイ。」


「まあ、別にいいよ。いずれなんかの拍子にバレるかもなと思ってたし。」


「あ!ありがとうございます!」


「父さんもそれでいいよね。」


「ああ、構わんぞ。それにいい機会だ。彼女らに俺たちの秘密を教えよう。」


そして父さんによって使用人やメイド二人に俺たち家族が前世の記憶を持って生まれたことを打ち明けた。


「なんと!では旦那様は同一人物として生まれ変わったということですか?」


「ああ、俺だけじゃなく家族全員がな。」


「不思議なこともあるもんだにゃあ。」


その後は他愛もない話をみんなでしながら一日を終えた。

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