第捌話:魔法学校入学
俺たち家族は、リムジンで学校に向かっている。車から見える景色は前世と似ているようで違うのでこれがなかなか面白い。
例えば看板に関しては、明らかに白やベージュ、青を基調としたモダンチックなお店の看板や信号機にぶら下がっている看板の漢字が一部旧字体になっていたり、日本語が右から左に読むような言わば戦前の文字スタイルになっている。
それを見て日本が連合国に勝利した世界であることを再認識した。
そして、道行く人たちの中には犬や猫などの獣人や妖怪、エルフ、ドワーフ、ハーフリンクと言ったおとぎ話にしかいない亜人がいるのだ。この世界を一言で表すのであればそう・・・カオス。
また、首にプラカードを掲げて剣や槍、弓矢等を装備した人の姿も見える。
「父さん、首にプラカードをぶら下げている人たちってまさか?」
「ああ、あれが冒険者だ。魔物を狩ったり、薬草を集めたり、迷宮に潜って未知の鉱物やお宝を手に入れて生計を立てている人たちさ。ほら、父さんもちゃんと持っている。」
胸ポケットから出されたカードを見るに父さんは準2級冒険者で、扱える属性魔法は陰を除くすべてだ。
ちなみにカードをぶら下げていれば銃刀法で捕まることはないらしい。
そして、休日でもないのに所々に日の丸を掲げた家が立ち並ぶ。前世だったら、いろんな意味でありえない光景だ。
「緊張してるのか?吾。」
「うん。」
「ハハハ!無理もないか、今から魔法を扱う学校の中でも最優秀を誇る私立学校に入学するんだからな。」
「そうよ、名門中の名門とうたわれる宗端學園でしょ?大丈夫かしら・・・。」
「なに、心配するな。吾は優秀だ。なにせ、たった5歳で火、水、風、雷、錬成、陽、陰の魔法全てをすでに習得したんだからな。」
「そうね。入学の条件が4つ以上の魔法をすでに習得している者のみ、入学が許可されるって書いてあったし・・・吾君は十分満たしているでしょ。」
「着きましたよ。」
車を降りると目の前に立派な門構えの学校が見えた。
「こ、これが宗端學園・・・。」
学校が放つ何とも言えないオーラに俺は息をのんだ。
宗端學園初等学校、この学校の敷地は前世では宗端小学校という普通の学校が建っていた。
宗端學園は、戦後になってファシズム思想の知識人をかくまっていた、アメリカに都合の悪い財閥の息がかかっているなどの理由からGHQに廃校させられたのだが、この後世ではそもそも日本が戦争に勝っているのでそのまま存続したようだ。
ピーピー!ピーピー!
学校の存在感に圧倒されていると、父さんのポケットから簡易携帯(この世界ではポケベルの事をそう呼ぶらしい。)の呼び出し音が鳴った。
「だれから?」
「冒険者組合施設からだ。すまないがセバスチャン、息子たちを頼む。」
「かしこまりました。」
セバスチャンと呼ばれた使用人のおじいさんはうやうやしく頭を下げた。
・・・・・
始業式は、問題なく終えることができた。2度目の小学校入学式を体験した感想は、正直言ってない。
いや、ないと言えばウソになる。
なんて言うか、実感がないのだ。
やはり、死後の世界に行った後に記憶を持ったまま、別世界の日本で前世と同じ両親の息子として生まれたこと自体、自分でもいまだに信じ切れていないのかもしれない。
つまり、自分の理想的な白昼夢を延々と見ている気分なのだ。
俺は、こんな状況下でもポジティブでアグレッシブに動ける前世陰キャ日本人のラノベ主人公に、尊敬の念を抱かざるを得ない。というか、あれで前世陰キャはさすがに無理があるだろ。
授業終了のチャイムが鳴ると皆一斉に帰り支度を始めた。
俺の人生2度目の小学校入学式はあっという間に終わった。
やはり、知らない人同士は緊張しているのか、お互いを興味ありげに見つめあっているものの、交友関係を築くまでには発展しないようだ。
そのことを家で両親に学校のことを聞かれた際に話した。
「そう、吾はどうだったの?」
「うーん、いざ見知った子と何か話そうとすると何を話していいか分からないんだ。」
もちろん、俺が言う見知った子とは幼稚園で知り合った子もそうだが、前世の小学校時代に知り合った子も含む。
「まあ、焦ることはないさ。小学校生活は6年間もあるんだし・・・。」
そう言って父さんは換気扇のそばで煙草を吹かした。
「お兄ちゃん。」
「ん?どうした。恋美?」
「今日は・・・お兄ちゃんと一緒に入る!」
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