第陸話:前世の記憶がもたらした奇跡

夕食を済ませた後、俺は父さんと風呂に入った。広くて豪華でバブリーな風呂だ。


前世でも同じような風呂だったが、1998年当時のアルバムに映っていた風呂は古ぼけていて、所々にひびが入り、黒カビもあちこちに生えていた。


でも、後世世界の家ではまるで新しく作り直されたかのように綺麗だった。


しかも、そばには前世ではいなかった先ほどの猫耳メイドさんたちが立っていた。


彼女たちは、薄布を一枚着た状態だがそれはもちろん、俺たち親子の背中を洗ってもらうためだ。


ためなんだけど・・・二人とも見えちゃいけないところが見えていて目のやり場に困る!


しかも、二人とも目鼻立ちがしっかりしている美人さんだから息子が反応・・・は、さすがにそこらへんはまだ3歳児、ピクリともしない。


「どうだ。悟、毎日のようにメイドさんに背中を洗ってもらう気分は?」


「最高ですニャー。」


「おほめに預かり光栄ですニャー。」


「あー、ずるいです!ミーシャお姉さま!私も吾様をゴシゴシしたいですー。」


「こら、メーニャ!あなたはご主人様の担当でしょ?そんなわがままを言うと捨てられちゃいますよ。」


「ひいっ!捨てるのは勘弁してください。ご主人様―!」


「アハハ、そんなことはしないよ。明日も風呂に入るんだから、交代制にしたらどうだ。」


「なるほど!さすがご主人様です!!」


「やれやれ、ごめんなさいね。ウチの新人が・・・。」


「あ、いえ!別に気にしてませんから。」


「ふふ、やさしいのね。さすがご主人様の息子さんですわ。」


「だって、猫耳メイドさんにご奉仕させてもらうのが俺の夢でしたから。」


「えっ・・・。」


「あっ・・・。」


やーっちまったあー!!気分が良いと素が出てしまう自分の悪い癖がー!


その夜、俺は寝床でお父さんに問いただされた。


ちなみに母さんは、横で爆睡怪人グルガになっている。


ちなみに爆睡怪人とは、母さんのあまりのいびきの五月蠅さから、前世の父さんがつけたあだ名でこの後世世界でも健在だ。


「吾、正直に話してほしい。」


「ハイ。」


「そんなに縮こまらなくてもいい。単刀直入に聞こう・・・前世の記憶を持っているのか?」


もう、覚悟を決めて話すしかない!


「ハイ、前世も古明地吾という三十路になっても定職につかない糞ニートでございました。」


「やっぱりか・・・。」


「あのー、俺を研究機関に売り渡したりとかしませんよね?」


「あほか、どこに3歳にも満たない息子を好き好んで研究機関に売り渡す親がいるか。むしろ、俺はお前をそいつらからどんな手を使ってでも守ってやる。」


「お、お父様(どうざま)ー!」


「しーっ、声がでかい。爆睡怪人グルガが起きる。」


「グガッ!吾、あなたー・・・愛しているわ。むにゃむにゃ。」


一瞬、場が凍り付いたがどうやら寝言だったようだ。


「ほっ・・・それともう一つ質問だ。」


「ふぁい?」


「お前が元居た世界は、魔法がなく日本やドイツが連合国に負けた世界で、お前の死因は周囲確認もせずに横断歩道に突っ込んできた右翼街宣車から女の子を守ろうとしたこと・・・違うか?」


俺は驚きのあまり目を丸くした。


「はい・・・すべてその通りです!なぜ、そんなことを?」


「実はな・・・父さんも母さんも君と同じように、前の世界からこの世界に同一人物として転生したんだ。転生をつかさどる女神様によってな。」


俺は驚きを隠せないでいた。


なんせ、前世で読んでいた小説でも似たような展開はあるため、転生者はいるかもしれないとは思っていたが、まさかそれが自分の両親でしかも、前世と同一人物だとは夢にも思わなかったからだ。


「父さん・・・。」


「なんだ?」


「前世では親孝行できなくてごめん。」


「気にするな。お前がこの世界にもう一度俺の息子として生まれてきただけで十分親孝行は果たせているぞ。」


「俺、父さんの息子でよかった!」


俺と父さんは、お休みのあいさつをした後にぐっすり寝た。


翌日、父さんの右ほお辺りに赤い手形ができていたが、突っ込むなという念を父さんから押された気がしたので突っ込まなかった。

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