第伍話:後世世界
『たった今、天皇皇后両陛下、満洲帝国皇帝陛下と皇后さま、大蒙古国総統夫妻、そして我が国を含めた3か国の政府関係者が続々と靖国神社に到着しました。』
女性のアナウンサーがしゃべり終わると同時に政府関係者らは英霊たちに向かって深々と頭を下げ、マスコミのフラッシュがたかれる中、続々と靖国神社へ入っていった。
天皇皇后両陛下と総理大臣の小渕吉三(おぶちよしぞう)、元帥海軍大将の夏川清志(なつかわきよし)、満洲帝国皇帝陛下ご夫妻、大蒙古国総統夫妻が順に英霊に対して毎年恒例のねぎらいの言葉を送った後、午前12時に黙とうを捧げた。
そして、その後テレビは別のニュースを伝え始めた。
俺はこの世界に生まれてから疑問に思っていたことを父さんに聞いた。
「パパ。」
「なんだい?吾。」
「日本はどうやって戦争に勝ったの?」
「そうだな。確かにニュースの言う通り、万世一系の大君の存在と軍人さんの弛まぬ努力のおかげだが、もう一つだけあるとすれば・・・この世界に人類が誕生したころからあったとされる魔法だな。」
「魔法。僕がさっきやった、水よ出ろーってやつだね。」
「ああ、そうだ。第二次世界大戦の時、ナチスドイツの親衛隊最高指導者だったヒムラーが、中世ヨーロッパで行われた魔女狩りによって廃れていた魔法や魔技に有用性を見出してヒトラーの権限の元で研究や訓練を行わせ、実際にダンケルク包囲戦でイギリス軍とフランス軍の包囲殲滅に成功したんだ。」
「最初に第二次大戦で使用したのは日本じゃないんだ。」
「まあな、ナチスドイツはやってることはやばいが頭がキレる連中が多い。で、それを見た我が国日本も徳川幕府(とくがわばくふ)開闢(かいびゃく)以来禁じられていた魔法技術を復活させて、魔導戦艦『薩魔(さつま)』を建造してミッドウェー海戦に投入した。そして、『薩魔』は予想をはるかに上回る威力で、敵艦隊の半数を消滅させたのだ。」
「しょ、消滅・・・。撃破や大破ではなく消滅!?」
「あ、ああ、そうだ。」
俺は開いた口がふさがらなかった。
「アメリカやイギリス、フランスは魔法使わなかったの?」
「あの3か国は宗教の関係上、そして何よりドイツが先に使用したため国民感情的にも、使えなかったというべきだな。だけど、日本とドイツが魔法を使ってあっという間に友好国の軍や自軍を殲滅、消滅させていくのを目の当たりにして、民衆を説得した後に慌てて開発研究を始めた。だが、もう遅かった。」
そう言いながら父さんはメイドさんに注がれた日本酒をグイッと飲んだ。
「イギリスは、最終的にオズワルド・モズレーなどの親ナチ党派の議員や王族たちが裏切って講和を結び、最後に残ったアメリカ合衆国は、我が国とドイツが共同で開発した強力な爆裂魔法を使用した新型爆弾『終末火炎弾(エンドオブエクスプロージョン)』の餌食になり、ニューヨーク周辺の島々にドイツ軍が上陸したことで厭戦気分が国民に蔓延して我が国に全面降伏、めでたく日本を含めた枢軸国は戦勝国に成れたってわけだ。」
「なるほど・・・あれ、ソ連は?」
「猜疑心が強い指導者スターリンが魔導士を恐れていたために、バルバロッサ作戦で劣勢続きになっても、我が国が宣戦布告をして各都市を占領しても、魔導士の地位復活に首を縦に振らなかった。」
出来上がりかけた父さんはメイドに酒を要求し、それに答えたメイドが継いだ日本酒を一気飲みした
「そして、劣勢続きの自国に嫌気がさしてウラル山脈のどこかにある山小屋に閉じこもり拳銃自殺をした。指導者がいなくなったソ連は臨時最高指導者のゲオルギー・マレンコフ主導のもと我が国とドイツに降伏して分割統治を受け入れたのだ。」
「そう言えば式典に同盟国だったナチスの政府関係者がいなかったけど、ナチスはあの後どうなったの?」
「ナチスドイツは10年以上前に軍政時代だった日本よりひどい圧政にウンザリしたレジスタンスとの対処で軍事費が高騰し経済が崩壊、そしてアフガン侵攻失敗が引き金になり政府に対する不平不満が爆発、1991年のクリスマスに崩壊して今は存在していない。」
「じゃあ、今は日本一強の時代ってわけだね。」
「そうだ。この・・・現代では日本は世界の警察ってわけだ。」
「あなた。その辺にしたら?ご飯が冷めちゃうわ。」
「おっと行けない。カワイイ我が子に頼られるのが嬉しくてつい。あははは!吾、今の話は理解しなくてもいい。いずれ学校でちゃんと習うことだからな。」
「うん!わかったよ、父さん。」
こうして、今日も前世の自分が望んでいたにぎやかな食卓は続いた。
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