第肆話:転生したら日本人だった件

俺は、ベッドの上で目が覚めた。


「もう3年か・・・。」


そうつぶやいてあたりを見回す。


部屋の内装は、某電子小説でよく出てくる中世ヨーロッパ風の貴族の家ではなく、ブラウン管テレビやレトロな据え置き型ゲーム機、VHS、デジタル置時計がある一昔前の現代日本人の家だった。


「・・・まさか、自分がもう一度同じ自分として生まれ変わるとは思わなかったな。神様の気まぐれか、それともただの偶然なのか。」


カレンダーをみると、1998年の8月になっている。間違いない。


俺は前世と全く同じ環境下で生まれたようだ。


いや、前世とは違うところがないわけではない・・・。


彼女はたしかに剣と魔法の世界に転生させてあげると言ったのだ。その証拠に・・・。


俺は、体に流れるなにかを一か所に集めて水玉を生み出した。


そう、この世界では魔法が使えるのだ。それに、重火器がメインな現代でも剣を使うことはまれにあるしね。


頭の中で独り言をつぶやいているとノックの音がした。


「坊ちゃま、御目覚めですか?」


「うん!入っていいよ!!」


「失礼します。」


ギイという音とともに扉が開き、部屋の向こうから白髪交じりのオールバックで決めたイケオジが歩いてきた。この家に仕える使用人だ。


この世界の我が家では、彼のほかに二人ほど使用人がいる。


「ほう、もう水魔法を習得できたのですね。」


「うん!」


「それは素晴らしい!では、リビングへ報告しにまいりましょう。お父様がお待ちですよ。」


「わかった!」


俺は、怪しまれないために子供っぽいしゃべり方を心掛けている。


前世の記憶を持っていると、この世界の日本だと問答無用でいろいろ調べられそうだからだ。


この人を信用していないわけではないが、前世ではいなかったため素性が判らないからだ。


前世の家と同じ広い廊下を歩き、突き当りにある大きな扉を開けるとこれまた前世と同じ約50畳の広々としたリビングが目の前に現れた。リビングというよりコンパクトで豪華な食堂だ。


中央のテーブルの手前には父さんが座っていて、左隣には母さんが座っていて奥の方にはブラウン管のテレビが鎮座していた。


そして、両サイドにはファンタジー世界にしかいない猫獣人のメイドが2人立っていた。


内装やテーブルが豪華なところ、ファンタジー要素があるところ以外は20年以上前の我が家そのものだ。


前世もこのぐらい広かったが、バブル崩壊と同時に父親の会社が多額の負債を抱えて家計が火の車になり、あちこちにひびが入っていて維持するのに精いっぱいだったと聞いた。


後世ではバブル景気が継続しているのかそれとも・・・。


「おー!起きたか吾。さ、そこに座りなさい。」


「うん!」


俺は父さんに母さんの隣に座るように促された。


こうしてみると、二人とも若いなー。父さんは禿げてないし、母さんはしわとシミがないし・・・当たり前だけど。


「旦那様、坊ちゃまがついに7大魔法の1つである水魔法の習得に成功しましたよ!」


7大魔法とは、父さん曰く火、水、風、雷、錬成、陰、陽の7つの属性魔法のことを指す。


「おお!本当か吾!!」


「うん!なんかね、水よ出ろーって念じたら出たの!」


「それはすごい!1年前には風、1か月前は火属性魔法を扱えるようになったばかりだというのに・・・古明地家はこれで安泰だ!はっはっは!」


「すごいわ吾ちゃん!」


「えへへー。」


父さんに過剰なまでに褒められ、母さんになでられて俺は喜んだ。父さんの書斎にある魔導書を父さんの目を盗んで読み漁った買いがあったよ。


前世では、同じような努力をしても全く褒められることはなかったため、少し不気味に感じたが・・・幸せなのでヨシ!


「さて、吾。すまないがテレビのリモコンを取ってくれ。」


「パパ、はい。」


「ありがとー。」


父さんはテレビを付けて好きなニュース番組に回した。


この世界では魔法や亜人の存在、そして少しばかり豪華になった我が家のほかに、もう一つだけ前世と決定的に違うものがある・・・。


テレビに映し出されたのは、前世の2019年に生前退位された上皇陛下と上皇后様が車に乗って手を振っている御姿だった。


『本日は、我が大日本帝国が大東亜戦争に勝利してから丁度53年の月日が流れました。本日に至るまで、我が国が繁栄できたのは、ひとえに万世一系の大君と皇軍の弛まぬ努力のおかげであります。』


・・・という男声のナレーションとともに愛国行進曲が流れていた。


そう、この世界は日本が連合国に勝利した世界だ。

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