第参話:女神さまと曾爺さん
気が付くと俺は、無傷で何もない空間に横たわっていた。
「・・・?真っ白で静かだ。」
すると、どこからともなく男性のむせび泣く声が聞こえてきた。
それも、一人二人じゃない。かなりの数だ。
「うおー!俺は感動したぞー!」
「え?ちょ、何!?何!?」
「身を挺して女の子を守る!それでこそ日本男児だ!!」
「あの似非日本人運転手とは大違いだぁー!!安倍元総理殿もそうだが・・・なぜ、なぜこのような者ばかりが死んでいくのか!」
「母親の名を叫びながら死んでいった自分が恥ずかしいでありますっ!」
声の主たちは、みんな戦時中の日本軍の格好をしていた。
「あ、あなたたちは一体?」
「その辺にしておけ、私のひ孫が困ってるぞ。」
「は!も、申し訳ありません!古明地中尉殿!!」
「ひ孫?じゃあ、あなたが・・・。」
古明地と呼ばれたその青年は、息を呑むほど美しい敬礼をした。
「大日本帝国神風特別攻撃隊『小鈴隊』指揮官、古明地勝三中尉であります。」
俺は思わず立ち上がって敬礼した。
「ど、どうも。・・・ところで、なぜ曾じいちゃんがここに?」
「あー、まあ・・・そりゃあ、私のひ孫が目の前で人を守って死んだから、身内として何か褒美をやろうと思ってな、知り合いの神様の中に転生をつかさどる神がおってな、その神様と相談したらぜひ私の所へとせがむものだから君の魂を彼女の住処まで運んできたのさ。」
「転生をつかさどる神?」
「おいでなすったぜ!ぼっちゃん。」
隊員に言われて振り向くと、そこには見目麗しい美女が白いワンピース姿で浮かんでいた。
「初めまして、私が転生をつかさどる神、御廻美命(おめぐみのみこと)ですわ。」
「どうも。失礼を承知で申し訳ないですが、転生の神様・・・御廻美命(おめぐみのみこと)なんて今まで一度も聞いたことがありませんが?」
「私は最近生まれたばかりだから認知度はゼロなのよ。」
「そうだったのか・・・。」
「ところで、あなたが古明地吾さんなんですね。」
「そうですが。」
「素晴らしいわ!」
「え?」
彼女は満面の笑みで踊った。
「見ず知らずの女の子を暴走車から守った!死ぬ気で!!しかも女の子は無傷!!!こんな勇敢で心優しい青年が惨たらしく死んじゃうなんて・・・日本の損失がまた増えちゃったわね。」
「全くでさぁ。」
「そりゃ、どうも。」
「だから、あなたには特別に異世界で幸せな生活を送らせていただこうと思ってここに連れてこさせたの。あと、そんなに硬くならなくてもいいわ。会話もため口でいいわよ。」
「そ、そうか・・・って異世界に?!まさか、チート能力を俺に!?」
「おっ、食いついた。そして察しが良い!さすが、わかってるー!」
「まあ、暇つぶしに呼んでいたからな。で、今から行く世界は?」
「もちろん。剣と魔法の世界よ。」
そう言って女神さまは、両手いっぱいに光る玉をどこからか取り出して俺の頭にのせた。
すると、頭からぬるま湯をかぶったような感覚に近いものを味わった。
「ほう、ああやって能力が付与されるのか?」
「これで完了!あなたに特殊魔技をすべて授けたから、そこでうっかり死んじゃうなんてこともないわ。」
「特殊魔技?」
「特殊魔技は言い換えるとユニークスキルの事ね。技名を言えば発動できるの、7大魔技とも呼ばれているわ。」
「どんなものがあるんだ?」
「空間の穴からどんなものでも出し入れできる『無限収納』、強い恨みで睨みつけることで魂を引きはがすことのできる『離魂成立』、一定時間影を操れる『暗黒導師』、触れたモンスターや人物を殺すことで能力を手に入れられる『能力奪取』、一度来た場所に移動できる『瞬間移動』、外国人の話した言葉、書いた文字が日本語に変換できる『言語理解』、魔技や魔法の習得速度がほかの人より10倍ほど上がる『成長加速』ね。」
「どれもこれも世界をひっくり返せるほどの能力じゃないか!」
「そ、だから家族以外にはなるべくこのことは秘密にしておくように。」
「ぜ、善処します。」
御廻美命様は微笑むと指を鳴らした。
すると、俺の体が光り始めた。
「お別れのようじゃな。」
「ああ、特攻隊の皆さん、女神様、そして曾爺さん。・・・ありがとうございました!!」
俺は曾爺さんに負けないぐらいの敬礼をした。
その瞬間を境に俺の意識は再び消えていった。
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