第2話 おまじない

 鈴木さんは学校に来なくなった。姿を消したというのだから当然だ。相沢さんに聞いても分からないという。先生たちに話しても同じだった。


 小さな引っかかりを感じながら、僕は学校生活を送っていた。

「鈴木さんをあのあと見た?」

 と相沢さんに尋ねても

「そうね。鈴木さんのクラスのみんなも知らない、登校拒否かな? っていうのよね」

 ということだった。


 丑刻様うしこくさまの話を聞いたとき、鈴木さんはあと二人に話さなきゃと言っていた。怯えるように話していた鈴木さんは家族から行方不明届が出されたという。

 

 去年の行方不明者は八万四千八百五十人もいたそうだ。このまま見つからなければ今年の行方不明者の一人に鈴木さんは含まれることになるだろう。


 ◇


 相沢さんは相変わらず

「私は怪奇現象や心霊現象が見たいのよ! この世の不思議に興味があるの!」

 と言って、この人の話を聞いてあげて! とまたしても僕になぜか話を振ってきた。


「相沢さんが話を聞いて自分で調べればいいんじゃないですか?」

 と僕は呆れた目で相沢さんを見るが、そこら辺の空気を読めないのが彼女だ。相沢さんが連れてきたのは可愛い女の子でしかも相談事は……

「丑刻様のお話って知ってます?」

 案の定、『丑刻様のおまいじない』だった訳だ。


「最近って丑刻様の怪談話が流行っているの?」

 と僕は思わず聞いていた。女の子は佐藤さんという名前だそうで

「流行ってるっていうか。チェーンメールみたいなものだから拡散されていくんです。SNSやネットで騒いでる人がいて興味本位で見てたんですけど……」


 ネットとSNSか。最近はそんな感じで怪談話は広がっていくのかね? と心のなかで僕はぼやいていた。


「その、丑刻様のことで騒いでた人の更新がなくなるんです」

 と佐藤さんは唇を噛みしめる。

「丑刻様のおまじないに騙されたって気づいたんじゃないの?」

 誰にともなく言った言葉を佐藤さんは首を振って否定する。


「その丑刻様の話をしてた人たちが何も更新しないんです。それでいつ更新するのをやめたのか。私、気になって調べてみたんです」

「へぇ、それは面白いね。どうだったの?」

 と、どうせ作り話だろうと思っていた僕は適当に聞いてみた。


 けれども佐藤さんは僕の目を見つめ

「丑刻様のおまじないで騒いでた人たちって、みんな三十日を境に更新されてなくて、止まったままなんです」

 と話した。僕は

「またまた~、そんな嘘みたいな話を言われても」

 と受け流した。


 相沢さんは目を輝かせて

「どう? これぞ怪談! って気がしてこない!?」

 とやたらノリノリだった。


「まだ、怪奇現象って決まった訳でもないでしょう? ネットで更新しなくなったって、別に忙しくなっただけじゃないんですか?」

 相沢さんはチッチッチッと人差し指を左右に振って

「それはそうだけど……それじゃぁ、面白くもなんともないじゃない!」

 と自慢げに言いきった。怪談話なのに面白いもクソもあるかと僕は思った。

「好奇心の代償は割と高いものなんですよ?」

 と僕は相沢さんの不安を煽るように、わざと揶揄った。


 けれども佐藤さんは僕たちが話をちゃんと聞いていない、とでも思ったのだろうか。語気を荒げ

「で、でも! 6日後にはカリッカリッって音がするってみんな言いだすんです! わ、私は後ろに気配を感じてて……」

 と少し黙り込んだ。そして

「ごめんなさい」

 と泣きだしそうな声で謝り、下を向いてしまった。


 相沢さんは僕をみて

夜須野やすのくん、謝りなさいよ。みんな不安で怖くて仕方ないから私に相談してくれたんだよ?」

 と言って、僕の頭をこつんと叩いた。

「うん、言いすぎだった。ごめんなさい」

 と僕は謝った。


「佐藤さんもごめんね? 夜須野くんってデリカシーないのよね。でも怪奇現象を全く信じてないから、否定してくれると思って連れてきたのよ」

 と相沢さんの発言を聞いて、この子は今さら何を言いだしてるんだと思った。それならそうと、あらかじめ言っておいてくれ!


「いや、ほんとにごめんね。そうだよね、そんな事実を見つけちゃったら不安になるよね」

 と僕は改めて謝った。

「いえ、私こそ大きな声をだしてごめんなさい」

 と佐藤さんがまた謝ってくれたけれど……丑刻様か。実際なんなんだろうねぇ?  鈴木さんは僕たちに丑刻様の話をした後で行方不明になった。ネットでは30日を超えて丑刻様の話を騒ぎ続ける人はいないという。僕が鈴木さんと話をしたのはちょうど六日前だったなと思いだしていた。

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