丑刻様と丑狐首塚
冴木さとし@低浮上
第1話 丑刻様
「本日12月1日のご依頼は~! じゃじゃーん、美少女、鈴木さんのご相談! 誰もいない部屋から変な物音がするんだって! おかしくない? 興味わかない? このお話!」
と、相沢さんは教室から今まさに家に帰ろうとしていた僕の目の前に立ち力説してきた。このクラスで綺麗だけど残念な部類に入るであろう相沢さんは、怪奇現象や怖い話が大好きだ。
けれども僕はハッキリ言って興味がない。そういう怖い話は苦手だから関わり合いになりたくない。見たくもない、幽霊なんて。そう思った僕は
「却下」と断ったが、
「すげないお答え! そこをなんとか!」
負けじと手を合わせ拝んでくる相沢さんだ。
「僕がその話を聞いたってたいしたことはできないんだから、相沢さんが一人で鈴木さんの相談にのって解決してきたらいいんじゃないですか?」
と僕は応じる。
けれども相沢さんは
「私の霊感がこれは当たりだと言ってるのよ! 私の神通力がうなる瞬間よね!
なぜか僕を巻き込みたいようだけど
「却下、僕は来るものを選びますので」
とため息をついた。
「夜須野くんがつれない! いけず!」
と相沢さんは嘆くけど
「別に僕はお化けとか怪奇現象が苦手だから断ってるだけですよ。そこに嘘も偽りもないんですってば」
と言って、ごめんなさいと謝った。
「そこで助っ人を呼びました! ババーン! 当のご本人、鈴木さんです!」
「相沢さん、僕の話ちゃんと聞いてました!?」
僕は頭が痛くなってきた。
美少女、鈴木さん! と相沢さんに称された彼女は
「ごめんなさい、夜須野くん。でもどうしても気になってしまって。最近、噂になってる
思ったより鈴木さんは深刻そうな顔をしている。
「丑刻様? なんですか、それ?」
思わず僕は鈴木さんに問い返していた。
「実は噂になってるのよ」
と神妙な顔をして相沢さんは話してくる。
「丑刻様から災難を避けられるって言われてるおまじない」
と、うつむきながら鈴木さんは他人に聞かれないためか小さな声で話す。
「僕はあんまり乗り気じゃないんですけど、鈴木さんは話す気満々です?」
コクコクとなぜか鈴木さんだけでなく相沢さんまで、もの凄い勢いで頷いている。
「相沢さんがそもそも話を持ってきたんだから、責任もって調べてあげたらどうですか?」
ぶっきら棒に僕は相沢さんに話した。
ところが鈴木さんは僕と相沢さんの間に入って話しだす。
「でね。六日経つと誰もいないはずの場所からカリッカリッて何かを引っかいているような変な物音がするの。その七日後にはヒタッヒタッて水に濡れたような足音が近づいてきてね。この丑刻様のお話を聞いた三十日後の深夜一時……」
と手を震わせた手をぎゅっと握ってこう呟いた。
「そこには誰もいなくなる」
と、鈴木さんは怯えた様子で話したのだった。
教室はみんな帰った後で、この場には僕たち三人しかいなくなっていた。
「やけに日数とか時間がはっきりしてるんですね。この手のお話って大抵、そこらへんって曖昧になりませんか?」
「そ、それが同じなのよ。誰もがみんなきっちり丑刻様の話を聞いて六日後から始まって三十日後なのよ」
「三十日後に終わるんですか? っていうか誰もがって?」
なんだか雲行きが怪しくなってきた。
「二十一日後には引っかく音は一日中鳴り響くようになる」
と、よく分からないことをいう鈴木さんにため息をつきながら僕は
「その音って何なんです?」
と疑問に思ったので聞いてみる。
僕の疑問を聞いても全く返事をせず
「ヒタッヒタッて足音も大きく聞こえるようになってね。そしてこの話を五人に話さなかった場合は、三十日後の深夜一時に丑刻様に連れていかれていなくなる。もし助けを求めれば首塚ができあがる。それを避けるための丑刻様のおまじない……」
と聞いてもいないのに問答無用で言いきった鈴木さんは一人で勝手に頷いた。
僕は
「で、鈴木さんは今の話をしたことで丑刻様のおまじないの五人中二人は達成したんです? そして僕と相沢さんは丑刻様のおまじないの災難を受けないために誰か五人にこの話をしろと?」
と確認してみる。
「そうなの、ごめんね。私もあと二人探して話をしなきゃ。丑刻様に連れていかれちゃう。それじゃぁ私はこれで」
と自分の鞄を胸に抱いて立ち上がり走り去った。
そして相沢さんと僕の二人が置いてけぼりにされた訳だ。
「鈴木さんを指さして涙目になってたって許さないんだからね? 相沢さん」
この場から逃げようとした相沢さんの肩を僕はがっしりとつかんだ。丑刻様なんて信じちゃいないけども嫌な話だ。相沢さん、どうしちゃってくれるのよ?
「私は無実よ。鈴木さんにこのままだと丑刻様の生贄になっちゃいますよ? って騙されたの。私の意志じゃどうにもならないことだったのよ!」
と、泣き言をいった上に明後日の方向をみて謝っても僕は許さん。謝るなら相手をちゃんと見ていいなさいと心のなかで毒ついた。
「まぁ、チェーンメールのいたずらでしょ、こんなの。カリッて音がするって言ったって柱が乾燥した時に鳴る音なんじゃないですか? 水に濡れた足音って言われても、昨日は雨が降っていたからその音の可能性も高いですよね? 心配することなんてありませんよ。怪奇現象も心霊現象も起こりません」
と僕はため息をついた。
「家に帰りましょう。この話はこれでおしまいです。ではまた明日~」
と言って、僕は教室からでた。
けれどもその翌日、鈴木さんは忽然と姿を消したという話を、相沢さんから聞くことになるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます