第2話

 僕と三芳みよし先輩は、同じ大学の、同じサークルに所属している。

 文芸サークルだ。

 ちなみに僕は一年生で、先輩は三年生である。


 僕は作家になりたいと思っており、サークルでは小説を書いている。

 聞いた話によると、三芳先輩は雑誌編集者を目指しているらしい。サークルで文芸誌をつくる時、先輩はいつも編集作業の責任者を務めていた。



 なぜ先輩と僕が、待ち合わせをして一緒に日本庭園を訪れることになったのか。

 その理由は、文芸サークルで交わされた会話にある。



 数日前、僕は二年生の後藤ごとう先輩と、次の文芸誌に向けて何を書くかという話をしていた。


「日本庭園が舞台の短編を書く予定・・・なんですけど、庭園のことってよく分からないので、実際に行って勉強しようと思ってます」


 僕らの大学がある町には、有名な日本庭園がある。広大な敷地面積を誇っていて、観光地としても人気の場所だ。

 僕は後藤先輩に、そこへ行くつもりだと伝えた。


「へえ、いいじゃないか。でもあそこって結構混んでるよな。お前、行ったことあるのか?」


「いえ、実は行ったことないんですよ。混んでる観光地に一人で行くのって苦手で・・・だから、ちょっと不安です」


「それじゃあ、三芳さんについてきてもらえば? ね、三芳さん」


 後藤先輩は突然そんなことを言い出し、近くの机で作業をしていた三芳先輩を、無理やり話に巻き込んだ。


「三芳さんは確か、カメラ持ってしょっちゅうあの庭園に行ってましたよね?」


 後藤先輩に尋ねられ、三芳先輩は面倒そうに眉をひそめた。


「・・・去年のことだろ。最近は行ってない」


「でも、詳しいですよね? 清水しみずと一緒に行って、案内してやってくださいよ!」


 後藤先輩はそう言って、僕の方を指差した。僕は気恥ずかしさのあまり、後藤先輩を制止することさえできず、ただその場に縮こまった。


「一緒にって・・・二人で? そんなの、清水だって気まずくて嫌だろ」


「! い、いえ、気まずいなんてことは・・・」


 黙っていればいいのに、僕はつい否定してしまった。


「ほら、気まずくないそうですよ」


 いつの間にか、他の部員達が遠巻きに僕らを眺めている。僕は更に身を縮こませた。

 三芳先輩は口をへの字に曲げ、僕をじいっと見つめた。そして、ボソリと言った。


「・・・わかった、同行してやる」


「え、ほんとですか!?」


 なぜか、僕よりも後藤先輩の方が驚いていた──言い出したのは自分のくせに。


 三芳先輩は呆れ顔で後藤先輩を見て、肩をすくめた。


「・・・ああ、別に大したことないからな、案内するくらい」



 運良く、先輩は週末の予定が空いていた。そういうわけで、僕らは土曜日の午前に待ち合わせをすることになったのだった。

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