日本庭園でホットコーヒー
胡麻桜 薫
第1話
その日本庭園にはいくつかの入り口がある。
僕は園の『正門』にあたる入り口を、待ち合わせ場所に選んだ。
来園者が集中するのは別の入り口で、正門は比較的落ち着いている──そんな話を聞いたからだ。
それに、どうせなら正門から入ってみたい、という単純な理由もあった。
(あっ・・・ほんとに来てくれてる)
庭園の門へと続く古めかしい石の階段。その下の歩道に、
大学の、二つ上の先輩。僕が待ち合わせをした相手だ。
先輩は整った顔立ちの、かっこいい人だと思う。
ボサボサ髪の僕と違って、髪もきちんとセットしている。
身長は、僕の方が少し高い。僕が179センチで、先輩は多分173センチといったところだろうか。
だが、ひょろりとしている僕と違って、先輩は程よく鍛えられた、引き締まった体つきをしていた。要は、スタイルがすごく良いのだ。
三芳先輩は寒そうに両肩を縮こませ、両手をウインドブレーカーのポケットに突っ込んでいた。
その黒いウインドブレーカーは、11月下旬に着るには防寒的な意味でやや頼りないように見える。
僕は先輩に近づき、声をかけた。
「先輩、本当に来たんですね」
せめて『来てくれたんですね』と言うべきなのに、やや緊張していたせいで、失礼な言い方になってしまった。
案の定、先輩の顔に呆れたような表情が浮かんだ。
「約束したんだから、来るに決まってるだろ」
僕は慌てて頭を下げた。
「す、すみません・・・! あの・・・今日は、ありがとうございます」
顔を上げると、苦笑している先輩と目が合った。
「・・・気にしなくていいから、早く行こうぜ」
僕らは並んで石段を上がっていき、開かれた門扉の間を通った。
門から入って右側に、小さな料金所がある。
予想通り、料金所に列はできていなかった。
入園料を支払うと、先輩はずんずん先へ進んでいった。
「すぐ先に池があるから、そこから見て回るか。別に、回る順番とかは決めてないんだろ?」
「あ・・・はい。とりあえず、見どころは一通り回っておきたいんですけど、正直どこに何があるか分からなくて・・・すみません」
先輩は立ち止まり、怪訝そうな顔をした。
「謝るなよ。なんでそんなに低姿勢なんだ」
「いや、でも・・・」
まごつく僕を見ると、先輩は途端にバツが悪そうな顔をした。そしてややぎこちなく、表情をやわらげた。
「・・・とにかく、気にしなくていい。案内するために俺が同行したんだから。お前は、もっとリラックスしろ」
気遣うような、先輩の言葉。
全く嬉しくないと言えば、嘘になる。でも嬉しさより、先輩に面倒をかけているという後ろめたさと、それからぎゅっと胸が詰まるような苦しさを、僕は強く感じた。
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