第13話 最愛の女

車に乗り込んだ時、ほっとした。


彼女は考えを変えてくれた。


良かった。


生きることはつらいけどそればかりやない。


そこに居るだけで喜んでくれる人もいてるのやから。


自分自身誰かのそばにいることで幸せやと感じることが出来る。


沢村さんは僕と秘密の恋をすることでそれがわかったのだと思う。


ご両親の元でもう一度やり直せたらいいと思った。


まだまだ若い。幸せになってほしい。


そう思った。


家に帰るとコハルが言った。


「こないだシンのパンツ届けに行ったときにな、シンの隣に女の人が座っててん」


「な、なんやて?」 血の気が引いた。


「ほんでなシンに手を振りながら駐車場のほうに消えて行ったんやけどあれは誰?」


「誰やろうな。って、看護婦さんや。 夜勤明けでな。俺に話を聞いてほしかったみたいやねん」


「そうなんや。何の話やったん?」


「それがやな、三年前に亡くなった旦那さんが忘れられへん言うてその相談やった」


「そうなんや。旦那さんなんで亡くなりはったんやろ」


「自殺やねんて」


「えっ! そうなんや。 最悪やな。 見つけたん奥さんと違うねんな」


「違うって」


「自分が好きで一緒になった人の死んだところって見たくないわ」


「そうやな。俺もそうやで」


「ほんでシンはどう答えたんや?」


「俺な、自分の話をしたんや。コハルに助けてもらった話や。すごい話ですねって言うてはったわ。生きていれば誰かが手を差し伸べてくれると思いますよと。

とりあえずそれを話したらありがとうございますって帰って行ったんや」


「そうなんや。 シン、生きていればっていう話をしたってことはその看護婦さんもやばいこと考えてたんやろか」


「鋭いなコハル! そうやねん。 なんか知らんけど俺聞いたわ。生きるために僕と話してるんですよねって。ほなわかりませんって言われてドクンとしたわ。

でも最後はその気配は消えてたと思う」


「シンにわかるんか?」


「はっきりではない。 なんとなくやけど怪しい雰囲気や。 それが消えてたし、わかりませんって言われたときの締め付けられるような感覚が消えたから大丈夫やと思う」


「シンは、結構相談されるねんな。 なんでやろうな。頼りがいがあるように思えるんやろかな。 私はもちろんシンのこと頼りにしてるし信頼してるし中身もわかってるから何でも相談するねんけど、そんなに付き合いが深くなくても相談しようと思える何かがあるんやろうな」


「それは俺にはよくわからへんし、その相談されたことにもちゃんとした回答が出来てるかどうかわからへんねん。そやからたいていの人には地面の穴くらいにしか思われてないのかもしれんな」


「シン。なんや地面の穴って」


「知らんか? 王様の耳はロバの耳っていう話。王様の耳がロバの耳なんやけど、王様に言われへんから地面の穴かツボか何かに王様の耳はロバの耳って吐き出してたんやなかろうか」


「シンそれは聞いたことがあるわ。そやけどほんまに地面の穴やと思われてたらイヤやな」


「まあええやん。吐き出すだけで楽になるんやったらなんぼでも聞いてあげるよ。

ほんで俺も吐き出せるんやから」 


「なんか腑に落ちんけどそんなもんなんかな」


「そんなもんやと思うで」


「ほんでシン。今回もクラクラっとせえへんかったんか?」


「せえへん。 俺はコハル一筋やからな」 


「そうか」 コハルがにんまりと笑った。


「シン。なんか知らんけど相談されたり好きになられたりどうなってんのやろか?」


「わからんな。 そない男前でもないし、背が高いわけでもない、年収も高いわけでは無い。それに鼻が高いわけでもないプライドが高いわけでもない。 

なんでやろうな。笑 俺に惚れたコハルさんにわからんのやったら俺に分かるはずもないやん」


「そうなんかな。ってシン。まだ麻酔が抜けてへんのとちゃうやろか」


「なんでや?」


「プライドが高いとか鼻が高いとか何の関係もないやんか。笑 なんでそんなことを今ぶっこんでくるねん。ああおかし。 もうわらけて来てたまらんわ」


「いや、コハルが笑ってくれたらうれしいさかいに」


「シン。そんなんは今いらんねん。シリアスな話のつもりや。なんでかなって言うてるんやから」


「まあ、冷静になればそうやな。ごめんな。じゃあコハルは俺の何が良かったの?」


「何って聞かれたらナニとちゃうやろか?」


「コハル、そんなことする前から気になってたんやから関係ないんとちゃうか!」


「そうやねんけどな」 


「そっちの方へそっちの方へ話を持って行ってる気がするな」


「あなた、そんなことないわよ」「その言い方はそうやで」笑


「やっぱりお母さんが言っていたフェロモンとやらがシンからはたくさん出てるんやろか」


「そうかもしれんな。おならこきまくったろ」笑


「シン。それはフェロモンと違う。 屁ロモンや!」


「コハルうまいっ!」


「ありがと。 でもぜんぜんうれしない」 


「そうか」笑


(コハル、お前が屁をこいても大好きなのは変わりないからな。でもこんなん言うたら怒られるな)笑


しばらくした後、沢村さんからショートメールが入っていた。


シンさん。


あなたに命をもらいました。頑張って幸せになります。


シンさんが流されない人で良かった。


私は少し残念でしたけれど。


ありがとうございました。 って書かれていた。


生きることに舵を切ったと解釈しよう。


そうしよう。

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秘密の恋  鴨居 伸 @kamoishin

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