第8話 秘密のキス

コハル。会いたいな。


「シーン」 えっ! かなりドキッとした。


コハルやん。詩も一緒に。「どないしたんや?」


「病室に行ったらおらんかったから公園やなと思って。えへへ」


「ちょうどコハルに会いたかった」


「シンどうかしたん?」


「何でもないけど。ちょっと寂しくなったな」


「そうなんや」「詩、抱っこしようか」「とーしゃん抱っこ」 


「うん。 いい子やな詩は」「うん。詩いい子やで」


「そうやな。ほんでどないしたんや」


「シンのパンツがもうなかったんや。だから持ってきたんや」


「そうか。ありがとう」 


「お父さんが午前中休みやから乗せてきてもらってん。

駐車場で待ってもらってるねん」


「そうなんや。ありがたいことや。よろしく言うといてな」


「うん。だからもう帰るね」「そうか。寂しいけどな」


「シン、チューしようか」「そうやな」


僕は周りを見回した。 大丈夫そうだ。


チュッ。 「コハル愛しているよ」「私も」


「ありがとう」 


「とーしゃん詩もチューは?」


「ごめんごめん」 チューッ。


「キャアー」


「詩のほっぺやらかいのぉ。詩、ママとお家に帰るんやで」


「うん。とーしゃん。また来るね」


「また来てや」


「うん」


「あーちょっと待って、やっぱり行くわ」


玄関までついて行った。


「お父さんすみません、ありがとうございます」


「いやいや。ちょっと時間が空いたからね。

それじゃまたね」


「ハイ。ありがとうございます。気を付けて」


病室に戻って寝た。 お昼ご飯のアナウンスで目が覚めた。


お昼ご飯を平らげるとまた眠くなる。


病気か俺は! 病気で入院しているけどやな、寝過ぎやろ。


そしてまた寝た。


次に目が覚めたのは一時半だった。


あんまり寝てない。


テレビを見たり散歩に出かけたりコンビニに用事もないのに行ったり。


結局週刊誌を買って読んでいた。


特集、夫が浮気をするとき。


何やこれは。 読んでみた。


結局結婚していようがしていなかろうが、出会いは出会いで普通にあることで

それがきっかけでやっちゃう所まで行ってしまう。


そして終わるのはばれたとき。


許してもらえるパターンもあれば別れてほしいと言われるパターンもある。


何や、何でもあるんやな。


 でもな、これって誰かが傷ついているしさらりと書いてあるけどもっとしんどい話のはずや。


文字にするとなんやえらい軽いものに感じてしまう。


ほんまに読み物やなと思う。


僕の知っている人は見た目も性格も絵にかいたような男性である。


その人が僕の失恋の話をしたときに私も同じような経験がありますと話してくれた。


「私の場合は吐きましたね。吐きつづけました。止まらなかったです。


ご飯はもちろん食べられなかったですし、寝れませんでしたもん。


だからお酒を浴びるように飲んで寝ました。


げっそりと痩せましたよ。それが三年ほど続いて何とか立ち直りました。


今はもう、思い出すこともないです」


この黙ってたら鬼みたいな顔の人でも浮気されると精神的なダメージがすごいのだなと思った。


人に寄るのだろうけれどそれでもひどい出来事だと思った。


 男でも女でも関係なくダメージを受けるときは受けるし、ケロッとしている人もいるようだ。


 ケロッとしている人はもう生活の安定さえあればもうええねんという人もいるようだ。


どうなんやろ。 


経済的に自立できている場合でも継続と別れが両方あるみたいやし。


やっぱり男と女ってわからんなと思う。


答えは一つではないにしても浮気はあかんなと思う。


せめてバレんようにしないと辛いと思う。


僕もいろんな人から相談は受けるけれど答えは言わないほうがええ気がする。


夜になり沢村さんが病室に顔を出した。


「おはようございます」


「おはようございます」


「今朝はありがとうございました」


「いえいえ。こちらこそお話聞いていただいてありがとうございました」


「鴨居さんのお話とても素敵だなって思いましたよ」


「そうなんですか」 


「はい。傷ついた鴨居さんを見つけたら今度こそ私がって思いましたもの」


「沢村さん、それは言い過ぎですよ」


「でも鴨居さん、奥さんの前の方って心が死んでしまうくらい好きだったのですよね」


「そうですね。今の奥さんの力というか僕を最初から無条件で愛してくれたことが僕の心の傷をいやしたのだと思います」


「やはり私ではお力になれないみたいですね」


「いやいや。僕の話をきちんと聞いていただけることで傷が癒えて行くのですよ、ありがとうございます。今日もお仕事頑張ってくださいね」


「はい!ありがとうございます。また来ますね」


「ハイ。でももうおやすみなさいですよ」笑


「そうですね。おやすみなさい」


「おやすみなさい」


深夜、ぼんやりと目が覚めた。


誰かが僕のベッドをのぞいている。


しばらくじっとしていた影が近づいてきた。


沢村さん。 


寝たふりを続けていた。


沢村さんは僕に顔を近づけると小さな声で「好き」とつぶやいた。


僕は寝たふりを続けた。


不意に唇に感触があった。


そして彼女は去って行った。

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