第6話 公園のベンチにて

入院中、沢村さんが勤務の時はあまり深い話にならないように気を付けていた。


沢村さんもそれに気が付いたのか体調以外のことをあまり聞いて来なくなった。


今回入院したときに担当だった大林さんがやってきた。


「やっぱり鴨居さんは人気ありますね」


「なんでですか?」


「色んな看護婦さんがね鴨居さんっていい感じやねって言ってるのよ。

まず優しそう。そして話しやすそうって言うのがポイント高いみたいでね。

話始めても嫌がらずに真剣に聞いてくれる。 その親身さもいいみたいですね。

聞いたら答えを教えてくれる。大概はニコニコしている。なんですって」


「そうなんですか。うれしいですね」


「結構かっこいい人が入院してきても何の反応もなかったのに鴨居さんの話になるとね、身を乗り出すじゃないけど結構話に入ってくる人が居てるのよ」


「そうなんですか。なんか僕がかっこよくないみたいな感じですね」 笑


「あっ。ごめんなさいそんなつもりではなかったんです」


「いいですよ。ちょっと言ってみたかっただけですから」


「それでね私思ったの。 最近特に沢村さんって鴨居さんに気があるのかもしれないなって感じなのよ」


「いやいや大林さん、そんなん言うたらあきませんよ」


「でもね私もちょっと気になってるんですよ」


「何がですの?」


「鴨居さんって、結構鈍いですよね」


「うーん。何がとはその流れから聞かないほうがいいような気がしています。笑

でも良い人かもって言われている人ほど裏の顔はきつい時がありますからね。

沢村さん騙されやすいかもしれませんね。そして大林さんもですよ」


「そうなんですか」


「自分からは内容は言いませんけどド変態ですからね」笑


「本当ですか? どんな変態なんですか?」


「そんなん言えませんよ。多分涙を流すと思いますわ。 想像してみてくださいね。  でも他の人には言わないでくださいね」


「はぁ。わかりました」


「さあそろそろ寝ますわ」


「あら、そうですか。じゃあまたお話に付き合ってくださいね」


「ハイ、気が向いたら。 おやすみなさい」


何やら不穏な空気が漂い始めている気がする。


こんな時はかかわらんほうがええ気がするな。


大林さんは沢村さんの事を気にしてるみたいやな。


でも沢村さんは変なことに巻き込まれんようにしないとあかんな。


特定の人の話の時に食い付くというのはわかる人にはわかるって言うことに気が付いてないのかもしれない。



朝ご飯を食べた後、それは病院の公園でベンチに座ってのんびりとしていた時だった。


不意に「おはようございます」という声がかかり驚いた。


こんなところに知り合いはいないけれど。


なんと沢村さんだった。


「おはようございます。もう帰ったのかと思ってました。

どうしたんですか?」


「鴨居さんが時々散歩しているって聞いていたので、ちょっとお話でもどうかなと思って」


「こんなきれいな女性に声をかけてもらったらうれしいですよ」


「そんなことないですよ」


「お座りになりますか?」


「はい」


「ではこちらどうぞ」 


「はい、ありがとうございます」


「おうっ、沢村さん?」 笑


「はい?」


「くっつき過ぎではないですか?」 (間違いない、お互いに惹かれている)


「ああっ。 ごめんなさい、つい」笑 


「沢村さん、なかなか面白いですね。笑 ドキドキしましたよ。

もしかしたら次は僕の膝の上に座るのかもしれませんね」笑


「ええっ、どうしてわかるんですか?」


「わかりますよってそんなこと考えてますか?」 「はい」


「ほんまですか?」「はい」


「でも何かこう通じるものがあるような気がします」


「そうですね」


「今日もいいお天気ですね」


「そうですね」


「今日は風もありません」


「そうですね」


「救急車の音が聞こえますね」


「そうですね」


「昨日は夜勤でしたね」


「そうですね」


「僕を探していましたね」


「そうですね」


「僕に話しかけましたね」


「そうですね。 ブーッ」笑 (沢村さんが噴出ふきだした)


「鴨居さん、私にそうですねしか言わせない作戦なんですか?」


「ああ、よくわかりましたね」笑


「どこまで付き合ってもらえるのか試してみたんですよ」


「どこまでも付き合うつもりでしたけど噴出しちゃいました。

まだまだですね」笑 (なんてかわいらしいんだろう)


「修行しましょう」


「そうですね」


「でも今から帰って寝るんですよね」


「そうなんですよね。もったいないですけど」


「まあ僕も昔三交代やってたからよくわかりますよ」


「そうなんですか」


「はい」


「でも昼間に寝るっていうのも気持ちがいいんですよね。意外と」


「そうですよねー。わかります」


「恋人とかが隣に居たら最高ですよねー。あらっ。鴨居さんちょっと引きぎみですか」笑


「まあ気持ちいいですよね」笑


「三交代ってどこかに行ってらしたんですか?」


「僕は高校卒業してすぐに働きに出ましたから。その時は名古屋に就職しましてね。

あの頃が一番仲間もたくさんいて楽しかったなぁ」


「鴨居さん遠い目になってますよ」笑


「ああ、すみません。ちなみに沢村さんどんなお話がいいのですか?」


「そうですね。恋バナなんかどうですか」


「ええっ。そこから行きますか」


「そのほうがいいような気がしています」


「はい」


「じゃあ沢村さんから行きますか」


「鴨居さんからお願いします」


「僕ですか」


「ぜひ聞きたいですね。鴨居さんの女性遍歴を」


「そうですね。かなりの方と恋愛してきましたからどれから話していいものやら」


「鴨居さんって女たらしなんですか?」


「女たらしってなかなか今では聞かない言葉ですね」


「そうですか。でも他に言い方を知りません」


「うん。ちょっと引き気味の沢村さんに真実をお伝えするとですね、ちなみにかなりの方というのは冗談です。そんなにたくさんの女性とお付き合いしたわけでは無いですよ。自分なりに濃い恋愛をしたなと思っていますけど」


「そうなんですか。奥様とはどうやってお知り合いになられたのですか?」


「そうですね。話せば長くなりますね。僕は妻に救われたので」


「救われたんですか?」 


「はい。妻と出会ったのは失恋直後でした。それまで付き合ってきた女性に気になる人ができたと言われて僕の心は死んでいました」


「鴨居さん心が死んだというのは全然穏やかじゃないですね」


「そうですね。十代の終わりから二十歳前半の四年間付き合ってきて何も成しえなかった。 ずっと結婚したいと思っていたのに。お金を貯めることができなかったんです。 それに二度浮気されてしまいました。

むなしさが残った恋愛でした。 僕も悪かったんですけれど。

身体を殺すことはできませんでしたが死んでましたね。

最悪なことにその別れた彼女のことを想い続けていたんです。

逃れられないというか忘れられないというか。

そんな時、妻が声をかけてくれたんです。

ギタリストで背が高くて髪を染めてかなりイケイケの女性に見えましたね。

僕には縁のない女性と思っていました。

それが毎週土日に駅の改札口付近で立っている僕を見て不思議に思ったらしいのです。

あの子何してんねんって。笑

まあ確かにおかしかった。 

来るのかどうかわからない彼女を待ち続けてたんやから。

彼女じゃないですね。 元カノですね」


「人間版の忠犬ハチ公みたい」


「そうですね。ハチ公と同じでそこで出会うことは無かったんですけどね」


「鴨居さんどうして駅で待ってたんですか?」


「別れた後、買い物とか行くじゃないですか。 エキナカのお店を通ることもあるんです。そこにね居るんですよ。別れた彼女が。何回か見たけど、声をかける事出来なかったんです。元カノ自体も僕に見つからないようにしていたんですから。

何してんねん。しかもこいつは俺の事いらないって言ったんやから。

完全に拗ねていましたね。そしてそれが本当の終わりだったんです。

声をかけるという気持ちになってから待ち始めたんですが結局来なかった。

来たのは妻でした。何してるんですかって聞かれました。

理由を話して、名前と年齢を教えあって。それから時々声をかけられていました。

今日はどうだったの? って。一ヵ月位でしょうか。 

そのあとあきらめたんです。待つことを」


「はい」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る