第4話 沢村さん

翌朝、看護師さんがおかゆを持ってきてくれた。


薬もちゃんと分けてくれている。


コハルにメールした。


コハル、昨日はありがとう。

今おかゆを食べ終わりました。

これからテレビでも見て暇をつぶします。


シン、おはよう。

気分はどうですか。

チンチンは痛んでませんか。

私はそれが心配です。

詩はご機嫌です。



チンチンはおしっこの時とお腹に力を入れたときが痛いです。

それ以外は痛みを感じません。

心配をかけてごめん。


シン、今度の土曜日にお父さんが送ってくれるので行きます。



コハルありがとう。

お父さん、お母さんによろしく言っといて。



了解です。


コハルと詩の画像が送られてきた。


僕も自撮り画像を送った。


シン、変顔は詩がビビってる。笑


わかった。やめとく。


「鴨居さーん。おはようございます。今日担当する沢村です。

よろしくお願いします」


(うわっ。すごいきれいな人やな。)


「どうですか傷の具合は」


「おかげさまで痛みはありません」


「あの、その、大事なところの痛みを術後に訴えておられたようですが」


「はい。おしっこするときはまだまだムチャクチャ痛いです」


「そうなんですか。痛み止め飲んでみますか?」


「前回は全く聞かなかったんですけど飲んでみます」


「そうなんですか。 じゃあお持ちしますね」


「はい、お願いします」


沢村さんが痛み止めを持ってきてくれた。


「沢村さん、耳鼻咽喉科はいつからですか?」


「もともと整形のほうにいたのですが四月からこちらに移動になりました」


「そうでしたか」


「鴨居さん今日はお昼ご飯が終わってから点滴の針を追加しますのでよろしくお願いします」


「はい。わかりました。 お願いします」


「では失礼します」


「ありがとうございます」


コハルからメールが来た。


おはよう。

シン、どんな感じ?

詩は元気に歩き回っています。

私も詩と一緒に歩き回っています。


コハルおはよう。

チンチンは昨日よりはほんの少し痛みが引いたような気がします。

さっき痛み止めをもらって飲みましたがはたして効くのだろうか。

耳の痛みはありません。


シン、了解です。


お昼ご飯が終わりテレビをぼんやりと見ていた。


「鴨居さん」 


「ハイ」


「点滴のお時間がやってきました。よろしくお願いします」


「ハイよろしくお願いします」


「鴨居さん、あまり見ないでくださいね。緊張しいなんです」


「そうなんですか。まあ練習のつもりで気楽にどうぞ」


「ありがとうございます。では行きますね」 「はい」


「ちくっとしますよ。 あっ。 すみません」


「ああ、大丈夫ですよ。次行きましょう」


「すみません。よいしょっと」


次の場所を見定めて針を刺す。


「あっ、また。鴨居さんすみません」


「大丈夫大丈夫。ちょっと深呼吸しよう。 落ち着こう」


「はい。反対の腕で行きますね」


(次で三回目。大丈夫なのか?)


「あれっ。 なんで? 鴨居さん本当にすみません」


「大丈夫ですよ。痛くないですから」


「本当に最後です。 次失敗したら応援を呼びます!」


「まあまあお気軽にやっちゃってくださいね」


「ありがとうございます。ああっ。 あーーーー。鴨居さんすみません。

今日はすごく調子が悪いです。 どうしてなのかわかりません」


「沢村さんそんなに思いつめなくても大丈夫ですよ。さあ出来るまでチャレンジしてください。僕は大丈夫ですから」


「鴨居さんすみません。応援を呼びます。もうこれ以上は私出来ません」


「そうですか。わかりました」「すみません、ちょっと呼んできます」


沢村さんのそばで頑張れーって応援するのだろうか。


「えーそんなに、しくじったのー!?」「すみません」


「鴨居さんこんにちは。 すみません沢村がへたくそで」


「いえいえ大丈夫ですよ。 今日は調子が悪いと言ってたしこんな日もありますよ」


「鴨居さんすみません本当に」


「では私が代わりに処置させていただきます。はい、ちくっとしますねー。 はい出来ました」


(おおっ、さすがやな)


「先輩ありがとうございます」


「はいもう大丈夫だからね」


「はいすみませんでした」


「沢村さんリカバリできてよかったですね」


「もう本当にすみませんでした。今までやってきて四回連続で失敗なんて初めてなんです」


「そうなんや。僕の血管が細すぎたのかもしれませんね」


「いえ、細かろうが太かろうがあまり関係がないんです。私の技術の問題です」


「そうでしたか」


「鴨居さん三回目失敗したあたりから目が怖くなってました」


「いやいや、そんなことないですよ。沢村さん本当に気にしないでくださいね。大丈夫ですから」


「鴨居さんすみません。慰めていただいてありがとうございます」


「入院中よろしくお願いします」


「はい。よろしくお願いします」


沢村さん立ち直ったらええけどな。


 夕方沢村さんが僕のベッドをのぞいて、鴨居さんこれ食べてくださいと

プッチンプリンをくれた。


「今日のお詫びです」


「ええっ。そんな気を使わなくてもいいのに」


「いえ、本当にすみませんでした」


「でもこれを僕が食べることで沢村さんの気が済むのならウインウインかもしれませんね」


「ウインウインですか?」


「そうです。僕プッチンプリン大好きなんですよ」


「そうだったんですか! 良かったです」


「ありがたく頂戴します。沢村さんやと思って食べますね」


「はい。ゆっくりと味わってください」


「ありがとうございます」


「では失礼します」


「お疲れさまでした」


でもよく考えたらきわどい会話やったな。


まあええわ。 プリン食べよう。


やっぱり安定のプッチンプリンやな。 うまい。


コハルにメールした。


コハル、今日点滴の新しい管を入れたんやけど

担当の看護婦さんがなんと、四回も失敗したんや。


ビックリしたけどびっくり出来へんし、出来るまでがんばれって言ったけど

もう出来ないですって先輩と交代してたわ。


さすが先輩は一発で刺しよったで。すごいわ。


ほんでそのしくじった看護婦さんにお詫びのプッチンプリンもらって

さっき食べたとこやねん。うまかったわ。



シン。プッチンプリン良かったな。


今度行くときに持っていくわ。


しかし四回も失敗するって信じられへんな。


シン、殺されんように気い付けなあかんで。


詩も私も元気やで。



コハルありがとう。


殺されんように気い付けるよ。


じゃあね。



土曜日になり昼からお父さん、お母さん、コハルと詩がやってきた。


「お父さん、お母さんすみません」


「シンさん元気そうでよかったわ。 二回目やから慣れたもんやね」


「そんなことは無いですけど。 もう寝てばっかりです。十時間以上寝てると思いますね」 


「それはすごいな」


「シン、プリン冷蔵庫に入れとくね」


「ありがとう。何個買ってきた?」 「十個やで」


「そうか。一日一個食べられるな。楽しみや」


「ちなみに今、聞こえてるの?」 


「いえ、まだガーゼを抜いていないので耳が詰まっている状態です」


「そうなんや。 ガーゼはいつ取るの?」 


「来週の月曜日ですね。明後日です」


「痛いんやろか?」


「痛くないことを願ってますけど。 詩。とうさんの所においで」


「とーしゃぁーん」


「おお、詩、いい子にしてたか」「うん」


「シン、詩はな、とうさんがおらんからママも詩も寂しいねって言いよるねん」


「そうなんや。切ないな」


「詩、もうちょっと辛抱してくれよ。とうさん詩の所に帰るから」 「うん」


「詩にはおじいちゃんがおるやん」「とーしゃんがいい」 


「ははは。そうか。やっぱりお父さんにはかなわんな」


「私よりもシンやねん。 なんでやろな」 


「シンさんから何かフェロモンが出てるのかもね。それでそのフェロモンに引き寄せられたのがコハルやないの」


「お母さんなにいうの」「お父さんもそう思うけどな」 


「もう、おじいちゃんまで」


「まあ俺もお母さんもみんなシンさんに引き寄せられてここまで来てるんやからな。シンさんから何か出てるんやで」


「お父さんコメントに困るようなこと言わんといてください」


「ははは。うそうそ。 でも順調に回復しているみたいで安心したよ」


「ありがとうございます」


「今度はいつくらいに退院できるんやろか?」


「今朝聞きましたけどやっぱり三週間や言うてますね」


「そうなんや」


「だからあと二週間かな」


「シン、今度は前回よりも短いな」 


「そうやな。前は適当に決めてたみたいやからな」


「そうなんや」 


「はい。もうあの医者はろくでもない奴や」


「シン、ほんまに嫌なんやね」


「そらな、直してくれたけどえげつない痛みもくれたからな。明後日が怖いな。痛いんやろか」


「シン、もうそんなん考えんほうがええ」


「うん。この後どこか行くんですか?」


「うん。博覧会公園でフリーマーケットやってるみたいやから行ってみようと思って」


「僕もお母さんも何年かぶりやから」


「そらいいですね。良いものがあるといいですね。詩も欲しいのあったら買ってもらうんやで」 


「うん」


「シンさん、そろそろ行くわ。 シンさんの目が眠そうになってるから」


「ええー、そんなことないですよ」


「シン、私が見ても眠そうやで」「そうか。じゃあ寝るわ」


「シンさんお大事にね」「はい、お父さん、お母さん、コハル、詩。お見舞いどうもありがとうございました」


「また来るからね。 詩、とうさんにバイバイやで」


「とーしゃんバイバイ」


「詩バイバイ」


エレベーターに消えて行った。


なんか急に静かになるな。 とりあえず寝よう。 眠たい。


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